47.
先生はティーカップの口元を指で拭った。
「さて、話はこの辺で終わるとしようか」
「…」
俺は結果を求めすぎたという事だろうか。それとも、率直に如月という一人の人間を助けたかったのだろうか。
「おーい。夜崎くん?」
「…あ、済みません。ボーッとしてました」
綾崎先生の声音を聞く限り、いつもの印象に戻っている。
俺は残った紅茶を一気に呷ると、ソファから立ち上がって言った。
「動機が薄かったのかも知れません。でも間違った事をしたと思ってもいないし、俺はこれからも学校に、そして社会に対して抗い続けます」
先生は「そう」とだけ短く相槌を打った。俺は既に先生を背にして退室口へと向かっていたので、表情は窺いしれなかった。
不意に振り向くと、
「そうだ。綾崎先生。例の割引チケット、今日限りで受け取らないことにします」
瞬間、驚いた表情をみせたが直ぐに柔らかいものへと変わって、
「分かりました。あと、被害に遭われた生徒保護者との対話はこっちで後始末つけとくから、心配しないでいいからね」
これでも綾崎先生は俺達、特別候補生の顧問なのだ。感謝せざるを得ない。
「…ありがとうございます」
そう言い残して俺は別室を後にした。




