36.
「話に区切りがついた所で本題に入りましょう」
話に終わりがついたと見た錦織は、次なる会話を切り出す。
こうしてカフェで談笑するのがメインディッシュじゃないのか。もう俺の気分は食後のデザートなんだけど。
タイミングを待っていたらしく、伊藤さんも口を開く。
「特別候補生の二人に相談で、その、クラス内の事なんですけど…」
重々しく語られた忍び声。
見た印象では恐らく明るい系、上流階層の住人だと思われる。
「実はクラスで孤立している子がいて…」
どうやら、ふざけた調子乗ってる系グループとは違い、人の心も思いやれる性格のようだ。
錦織がふむと顎に手をやりながら話しだした。
「孤立…ですか。今時、私達みたいな異端者もいるぐらいですから、『孤立』という表現は大袈裟かと」
俺も追って口を開く。
「そうだな。情報社会の多様化で、今じゃ本人にわざわざ会わなくても会話ができるような便利な世界だ。主にケータイやらパソコンでだけど」
最後にデバイスの名称をつけ足して完結した。まあ、知ってそうな口叩いておいて、ケータイやパソコンを持ってないんですけどね。
伊藤さんは易々と話を受け入れないこの状況を察したようで、そうか…これが候補生という奴らかと認識した表情にも見えた。
「それが…どうやら、いじめられているみたいなんです…」
出たよイジメ。俺は至ってマジメだが、中には攻撃する醜い人種も存在するのもまた確か。
―――聞いて思い当たる節がある。
「具体的にどんなタイプのいじめだ?被害者の名前とか分かるか?」
状況を理解する為、問いを投げかける。
プライバシーに気を遣ったのか、近づいてくれと伊藤さんが小さく手招きをした。
錦織と俺は伊藤さんに僅かばかり体を寄せたが、異性となるとどうもやりにくいものだ。
伊藤が手を当てながら、低声で言う。
「…多分、なんですけど。名前が如月さん。三人ぐらいの女子グループから冷やかされてるとか、陰口だとかそんな感じだと思います…」
恐らくあの子だろう。入学式、教室に入る事さえ苦痛に感じていた少女。
「その子…言っちゃなんだが、見た目が幼かったりするか?」
何の当たり障りもなく聞いた。
すると、錦織は怪訝な表情をして、
「夜崎くん?今、伊藤さんは真面目な話をしているんです。貴方の好みなんて、どうでもいいのですが」
「違う。少し心当たりがあったから聞いてみたんだよ…」
錦織は「ほう…」とした表情を浮かべた。
伊藤が答える。
「確かに少し小柄な気もしました。失礼ですけど、小学生のような…」
やはり、あの子で間違いないようだ。
「入学式のHR前にクラスに入る事すら難しい内気な子がいて、多分その子か」
現段階で俺が知っているのはそれぐらい。
内気という表現は軽い言い回し。その表情から感じ取るにそれは【恐怖】だったと思う。
錦織は俺の情報にも嘘は無いと悟ったのか、再び口を切る。
「状況は大まかに掴めましたが、そもそも何故、私達に協力を求めたのですか?」
錦織は根本的な疑問を募らせた。
「クラスでこの状況を知ってる人は沢山いても、中々行動に移せなくて…私はクラスの声を借りてじゃないですけど、何とかしなきゃと思って…」
伊藤は気の毒そうな侘声で言う。
クラスの統制を図るいい奴ってとこか。




