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32.

「そういえば、今日初めにお会いした時から疑問に思っていた事があります。何故、制服にパーカーを合わせて着込んでいるのでしょうか?」


 おっと、まだ個性について言及していなかったな。


 実は今日、新たな試みとしてパーカーの上から制服を着てみたのだ。


 おいおい、結局はお前もチャラ男属性かよと、思う方もいるだろうが理屈を聞いて欲しい。


 俺は携帯電話を持っていない。すなわち、他の人との遠隔コミュニケーションが不可能。ならばどうするか?パーカーの出番である。


 パーカーの中でもこのフード付きパーカーは、発想の転換によりコミュニケーションツールに早変わりするのだ。


「これはファッション兼、コミュニケーションツールだ」


 俺は腕組みしながら堂々と言い張った。その姿はラーメン職人張りの威厳が出ていたと思う。


 錦織は呆れた様子で、


「ファッションまでは許容範囲でも、コミュニケーションツールとしての要素が理解不能です」


「まあ、そう焦るな。パーカーっていうのは大体、後ろにフードがあるだろう?」


 錦織は『それが何か?』といった様子だ。


「俺に情報を送る時はここに手紙をぶち込んでくれればいいというワケだ。簡単だろ?」


「…そういう事ですか。相変わらず意味不明です」


 理解したんじゃないのかよ…、


「今のご時世、メールだのやり取りで現代人は同じ文字列ばかりのつまらんやり取りをしている」


「携帯に触れた事すらない貴方が言うのは、説得力に欠けますね。それで?」


「…つまり、人それぞれ違った文字が現れ、心のこもった文章になる手紙こそが真のコミュニケーションツールという事だよ。名付けて【カンガルーの温もり便】だ」


 どこかの引っ越し会社のような呼び名だが、悪くないと思う。


 カンガルー袋みたいに温かな文章お待ちしております!


「名前も目的も意味不明ですが、手紙を入れて欲しいという乙女心はよく分かりました。私の場合、手違いでフードを引っ張って首を絞めてしまうかもしれないので、ご容赦下さい」


「なんの手違いだよ…冗談でもやめてくれ」


 俺は苦々しい顔をしながらため息をした。そして切り返し言う。


「まあ、個性があるのはいいことだ。今時、個性を無理やり身につけて、ぎこちなく生活している人もいるだろうしな」


「精々、規則違反にならないよう、気をつけてください」


 錦織は『精々』の部分をやけに強く言い放った。そして、こうも言った。


「それに、フードが裏返ってますよ」


「え…?」


 わざわざ席から立ち上がって、背中に手を伸ばし、確認した。


 通常時、凹になってるはずのフードが何故か凸にシフトチェンジしているではないか。


 さては錦織…、


「早々に悪戯をするとは…流石、【マスク外しのアサシン】。手際が違う」


「はい?」


 錦織は意味が分からないようで、


「とぼけても無駄だ。相手の気を引かずに、この妙技をこなせる者は彼女以外ありえない。そう、犯人は錦織さん。貴方だ」


 ロクな現場検証もせず、確信に迫る俺。ただのバカか?いや、馬鹿じゃない。


 これは重罪なんだ。


 小学校の頃合いに蔓延したであろう低俗な遊び。フードが裏返し=彼女募集中とかいうふざけた遊びがこれに該当する。


「とんだ無能探偵ですね。私の場合、冗談を口から吐いても行動には移しません。どこかの口だけ星人とは違いますし」


 瞳を伏せながら呆れた様子で話す錦織。


 彼女も同様、あだ名を付けているらしい。どうせ「変なあだ名、付けるなよ!」とか反論したら、「貴方の事ではありませんよ。フフッ」とか失笑されるんだろうなぁ…。


「誰とは言ってない」とかいう言い回しは強力な手法で、あだ名を付けられたであろう当事者は変に自覚せざるを得ない。


「行動力はあるだろう。実際、傍観を超えてわざわざ女子グループに突撃し、君を助けた。イケメン候補生になりすまして事を片付けた。これのどこが口だけだ」


 まんまとあだ名について反論してしまった。相手の作戦を知っていながら。


「誰かが助けを求めましたか?求めてないですよね?勝手に介入して、勝手に終わらせた。それだけの事と思いますが」


 錦織は助けられた覚えもないし、俺が勝手にしただけの事と言っているのだ。


 正論製造機なのか?錦織は。


 冗談を言っても冗談を冗談で返すことはせず、ただ正しき道を告げる淀みのない心。 


 俺はその横のめんどくさい存在でしかない。ここまで来ると逆に申し訳ない気持ちになってしまう。


 裏を返されたように、粛々と弁明しようとした。


「…本当にその通りだ錦織。変な事言って悪か…」


「それと、イケメン候補生って表現は何なのでしょうか。もしもの話、貴方だったら相当自意識過剰ですよ。頭おかしいんですか?」


 かぶさるように届く罵倒。


「もしもなのになんで辛辣な言葉が俺に届いてるんですかね…?」


 やっぱり申し訳ない気持ちなんていらん。叩きのめしたいだけなんだよこの子は!


「届いたように聞こえただけですよ」


 蔑んだ声で彼女は言う。


「…言っておくが先程の発言は自意識過剰じゃない。何せ、承認を得ているからな」


「承認?」


 錦織が小首を傾かしげて事の意味を問うてくる。


「さっき、女子グループの子が頬を赤らめながら言ってきたんだ。カッコいいって」


「イケメン…とは違う意味だと思いますが?」


「言葉の綾だ。気にしなくていい」


 俺は腕組みしながら、自信をもって話を完結しようとした。対して錦織は、


「夜崎くんは大いに気にしたほうがよろしいかと思います。犯人は彼女達なのですから」


「…は?…いや、え?」

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