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31.

 一限目が終了した十分休み。気分は上々。


 机上で頬ずえをつきながら、暖かな春の陽気溢れる外を眺めていた。


 ほんのりとした教室。埃が太陽の光に晒さらされて空気中を漂っている。時間の滑らかさを伝えるアクセントのようでもあった。


 そして、一時の陰りが生じる。この学校に浴びせる光を遮る高い建物はない。


 清潔感のあるフェミニンな香り。


 どうやら女子生徒が机左横に佇んでいるらしい。やれやれ、人気者はつらいねぇとばかりにちらと見やれば錦織の姿。貴方でしたか…。


「二度も断りを受けたにも関わらず、また関わろうとして来るとは・・・変人でしょうか?」


 錦織にしてはやや控え気味な辛辣さ。


「誉め言葉をありがとう。錦織さん」


 堂々たる威厳で言ってやったぜ。変人という文字は俺にとって嬉しいワードである。


 一方で訝しむどころか興味無さそうな視線を向ける錦織。


 今時、ペットショップで見かけるインコでさえそんな顔しないぞ?しらっとしやがって…。


 求められてもいない『変人』についての説明を自らの意志で語ってやるとしよう。


「変人。分解すると変わった人。普遍的じゃない分、価値がある人材だ。素晴らしいと思わないか?」


「はぁ…」


 錦織は堕落した溜息をついた。どうやら、コイツ(俺)は生粋の変人だと理解したらしい。


「まず説明なんて求めていませんし、普通レベルすら到達した事がない貴方が言うのもどうかと思いますが」


 正論だ。けれども内容が不正確。


「じゃあ、逆に聞く。普通レベルって具体的にどんなスペックだ?」


 自分は普遍的とかいう曖昧あいまいな表現を使っておいて、相手の普通についての定義を問う。我ながらいやな奴だと思うが。


「本当に逆ですね…貴方から論じたくせによく言います」


 気に障った様子で錦織の眉尻がぴくりと上がる。ヤダ、コワーイ。


「まあまあ、対話も成長する為の重要な要素の一つだ。広い心で答えてくれ」


 俺は宥めるような口調で言った。何様だお前って感じだよね。知ってたよ、みんなの声。


「何処からその自信が生まれるのか、私には到底理解出来ません」


 伴って諦めもついたようで、


「…まあ、いいです。何言っても無駄でしょうから」


「ご理解どうも…」


 錦織は別に心が狭い訳じゃないと思う。対話する価値があるかどうか計っているのだろう。その上で話してくれるだけまだマシだと思う。


「…そうですね。勉学がそこそこ出来て、人と話すのが苦じゃない。カーストで言う中層階あたりでしょうか」


「なるほど…意外に当てはまらないものだな。前言撤回。変人ではなく、別次元だったようだ」


 人と話すのは好きである。けれども、つい主導権を握りすぎて引かれることが多々あり、位置的には声掛けられる側だと自負しているつもりだ。


「はい?…意味が分かりません」


 疑念だらけの錦織に再度説明を付け加える。


「そもそも、普通レベルに化学反応が起きて、変人になる理論自体間違っていたんだよ。俺みたいな人材はいきなり湧いて出てくるものだ。だから、別次元。納得だろ」


「どうでもいいです」


 錦織は見事なまでに会話をバッサリと切り捨てた。続けてこうも言った。


「道理で、平気な顔して女子グループ入ってくる男がいたものです」


「そういう事だ。勇気ある行動に拍手だね」


 錦織は意外にも穏やかな表情をしていた。まるで俺の存在を了承するように。

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