15.
入学式の開始時刻は午前十時と一般的で、それなりの生徒数を有している学校だが何せ高層階に教室があるわけだし、降りるだけでかなりの時間が掛かかる事だろう。
しかし実際の入学式はこの教室で行われるという事を知った。
どういう事か詳しく説明すると、黒板上部に設置されたモニターから学長だの来賓の祝辞だのが映し出されるオンライン入学式という非常に珍しい形態をこの学校は導入しており、これにより先程の移動問題が払拭される。
俺達生徒は机に座ったまま高みの見物が出来るという訳だ。
まあ、正直な所、入学式という初々しさが微塵も感じられない、臨場感のへったくりもないシステムとも言えるのだが。
校歌は歌ったが担任が名簿を見ながら点呼をする恒例行事はカットされていた。
しかしながら、学長の話だけはやたら長く、淡々とタンタンと続いた。もはや長すぎて冒険できるレベル。
何か面白い事を挙げるとするならば、学長がゼウスみたいな白髪のおじさんだったことくらいかな。まあ、冗談だけど。要はそのくらい無軌道な考えをするくらい暇だった。
眠気に襲われ、うつらうつらしながら遂に飽きが限界点に達した。
寝息を吐きかけたその時である。
若い男性教師が戸を開けて、ひょっこり顔を出しながら、
「特別候補生はこちらに来てください。追加事項があります」
と、告げた。
この事態は想定していなかった。しかし「特別」であるから優遇制度かなんかの話だろう。
ギィ…と椅子足のラバーを引きずる音をたてながら立ち上がると、呼応するように左斜め前方からも同じような音が聞こえた。
その人物は周囲の注目を自然に集めているようで--あの子、登校時に見かけた美麗嬢だ。
まさか同じクラスだったなんて。加えて、特別候補生ときた。変な境遇もあるものだ。




