99.
「バイト……バイトねぇ……」
呪文のように口ずさみながら上層階にある商業区を歩く。
地上40階にある商業区にはオサレなカフェやレストランが軒を連ねている。前、錦織に見切りをつけられた人気店舗、スターマウンテンコーヒーもこの場所の一角にある。
アルバイト募集!のような大々的な貼り紙こそないものの、インターネット掲示板にはそれなりの募集があるようで──
「ほら、豊洲総合高等学校の専用アプリにもアルバイトの募集があるじゃないか」
壱琉は携帯の画面を見せながら、バナー表示を指差した。
「カフェにレストランに……受付なんてものもあるのか」
興味があったのでクリック。簡単な受付業務でラクラク♪と。時給は──1500円!?
催促する気持ちを抑えながらページを下部までスクロールさせた。
「"ただし"特別候補生は応募不可と」
俺は陰鬱な目つきをしながら、多少苛立った声で言った。
壱琉は様子を見兼ねて携帯のアプリを閉じると、胸元から見覚えのあるチケットを取り出す。それを人差し指と中指で挟み、ひらひらさせながら言った。
「"無料券"があるからだろうね。特別候補生は月に三枚これが配布されるだろう?だからせめてもの公平感を演出する為に、応募出来ないようにしているんじゃないかな」
「なるほど……そういう事なら納得だ」
見込み通り、壱琉の情報量と推察力は只者ではなかった。
「でもまあ、今の俺には関係ないんだよなぁ……」
「何故?」
壱琉は不思議そうに見つめてくる。俺はため息一つ吐くと、視線をそらしながら答えた。
「受け取らない事にしたんだ。ちょっとした決意表明だよ」
言ったそばから後悔しているようにでも見えたのか、壱琉は苦笑しながら返答する。
「君らしいな。目的達成の為に痩せ我慢してしまうところが実に面白い」
穏やかな声音は次第に嘲るような形をとる。
「う……うるせぇな」
俺は壱琉を追い抜いてそそくさと先へ向かった。




