すみっこ
少しだけ期待していた。同窓会で久しぶりに会ったアイツが話しかけてくるのを。
私は正直、学生時代からアイツのことばかり目で追っていた。アイツのことを考えない日はなかった。でも結局、私はただの傍観者でしかなかった。視線に入りたいのに入れない。アイツの視線はまるで円形のロボット掃除機のようで、教室のすみっこにいるゴミのような私にまではどうあがいたって届かないのだ。
アイツはとても優しい人だった。話しかければ誰にだって相手をする。陰キャラとも積極的に話すし、もちろんクラスの中心的なグループの、そのまんなかにいた。クラスはアイツ中心に動いていた。でもだからこそ、私はあえて気配を消していた。何回か話しかけられたこともあるが、曖昧な言葉で濁してなんとなくその場をやり過ごした。ゴミのような私がアイツと仲良くなるなんておこがましいことだと思っていた。でも、好きだった。今思えば、私の初恋はアイツだったんだと思う。
飲食店を貸し切って行われた同窓会は大盛況。今までこういうところに来たことがなかったから、私はやっぱりすみっこ族。一人きりだ。まぁこうなるだろうとは思ってたけど。
「スミッコスミコ!」
すぐにわかった。アイツだ。吉岡くんの声だ。
吉岡くんの声が聞けたことに安心した。それだけでも収穫だと思った。その時。
急に私の方に歩いてくる吉岡くん。え、私に用事?
途端に構えてしまう。隅に追いやられる私。でも、なんとなく、今日は学生時代とは違っていた。
「あれ? スミッコスミコじゃなかったっけ?」
スミッコスミコとは? 私の名前は篠原澄子だけど、え、下の名前で呼ばれてる?
「すみっこ澄子って呼ばれてたの知らなかったの?」
「えっ、そうだったんだ……」
間違いない。今、吉岡くんが私の名前を呼んでくれた! しかも下の名前だ!
「あ、なんかごめん。でも、こういう機会滅多にないからさ、いろいろ話そうよ」
「えっ? 本当に? 良いの?」
うんうんと頷く吉岡くん。あの頃と全然変わってない。
「いいよいいよ。だって学生時代から知ってるもんアイツらのこと。でもすみっこ澄子のことは全然知らないから。そのかわり、面白い話じゃないと罰ゲームだからな!」
「ええっ」
「冗談だよ」
笑顔の吉岡くんはやっぱり素敵な人だなって思った。
「じゃあ、どうぞ」
面白くなくてもいいや。私は私が話したいこと、伝えたいことを吉岡くんに話してみる。そしてあわよくば……と思ったが、やっぱりいいや。今は二人でお話ができるだけで嬉しい。隅っこにいるのに、なんだかクラスのまんなかで話している気分。だって、吉岡くんと一緒だから。だって、今日くらい、一人きりは嫌だったから。