8話
やっとヒロイン
ーー交流会当日ーー
一年生は一チーム五〜六人。二年生は一〜二人。一年生のチームは元から分かれていて、それぞれにグループ番号が割り振られている。そして二年生はくじを引き、引いた番号のチームと行動することになる。わけだが……
「……またお前か」
「ども」
一クラス七チーム。全部で十二クラスあるわけだから計八十四チームのはずなんだが。こんな偶然があるとはな。
半野剛。俺を当て逃げから救い、落し物まで拾ってくれた親切ヤンキーだ。
「知り合いか?」
「まあ、ちょっとな」
グループには半野の他に男は一人。今半野に話しかけた男がそうで、幸薄そうな顔をしている。全体的にパッとしない。対して、女子は皆一様に顔が整っている。特に三人は二年でも話題に上がるほどの美少女。残りの一人は地味な感じもするが、他三人と並ぶとそう見えるだけで実際にはほどほどに整っていると言えるだろう。てか、この前一年の教室行った時に話しかけた子だわ。
とりあえず、自分の役目を果たすために口を開く。
「えーっと、二年の種田です。よろしく」
俺が自己紹介をすると、向こう側も慌てたように返す。
「菊川雄二です」
「え、それだけですか?全く面白くないですね」
「いやいや、自己紹介に一体何を求めてんだよ」
初めに自己紹介した男は、とりわけ話す特徴もない平凡な男のイメージだ。黒髪に百七十センチほどの身長。ツッコミかボケかの違いがあるだけでほぼ猿と同じような存在と言っていいだろう。それに対して訳の分からない返しをした女は、プラチナブロンドの髪を腰まで伸ばし、翠の瞳は大きくパッチリとしている。身長は女子にしては少し高い百六十センチほどで、スタイルもいい。
「天堂 明里です。よろしくお願いします」
「無視か、マジか、てかお前も普通じゃねえか!」
「私はいいんです。あなたのようなネタ枠ではないので」
「俺っていつからネタ枠なの!?」
正直内輪ではないと全く笑えないことを目の前で繰り広げられている俺はどうしたらいいのか全くわからない。ただ、笑顔で見守るだけだ。
そんな中それを無視して自己紹介は続く。
「斎藤絵馬です。えと、そこのネタ枠とは幼馴染ですっ」
ふんわりとした黒髪はこちらも腰のあたりまで伸びている。身長は少し低めで、小さな顔に大きな瞳は愛嬌を感じさせる。しかし、それとは相反して胸はなかなかの破壊力を誇っている。
「……アンネ・ササキ・ハンセン」
次は妙にちっこい子だ。白に近い銀の髪は一般にショートボブといわれる髪型だ。おそらく大きいであろうブルーの瞳も今は半分ほどしか開けられていない。身長は百五十は満たしていないだろう。小学生と間違われても仕方がないほどだ。隣の斎藤さんと比べるとその差は歴然……
「ヒェッ!」
なんかすごい形相でこっち睨んでくるんですけど!?なに?俺の思考読まれてんの?エスパーなの?
女子ってこわい。
俺がビビっていると何を勘違いしたのか、斎藤が説明してくる。
「この子人見知りなんです。あと、ノルウェーと日本のハーフなんです」
「へえ、よろしく」
少しだけ頭を下げると、半歩後ろに下がった。
そして最後の一人。
「前花咲良です」
肩のあたりで切り揃えられた黒髪に黒い目、平均的な身長で、顔立ちは整ってはいるがどこか平凡さを感じさせる。それはグループの女子が助長させているのかもしれないが。特筆すべきところは何もない。いたって普通の子だ。
「これで全員だよな。これから何かしら説明されるからそれまで待機ね」
そこから俺たちは無言になる。主に俺と前花さんが。
他五人はひたすらアホなことをやっているが、俺はそもそも知り合いじゃないし、関わるつもりもない。しかし彼女はどうだろう?同じクラスのはずだ。
というかあれだな、二人で無言は気まずい。ここは年上の俺が人肌脱いでやろうじゃないか。
「君は向こうの会話に入らなくていいの?」
俺がそう尋ねると、少し複雑そうな顔でこう言った。
「私、あんまりあの人たちと話したことないんですよね」
まさか、これは……!地雷を踏んでしまったのか?友達いない系なのか?
俺がどう話せばいいのか考えていると、そんな俺の考えを見透かしたのか、先回りをしてきた。
「友達はいますよ?」
ーーーーーー
だが、俺は信用できない。見栄を張っているだけかもしれない。ウチの兄貴と同じように。
母親が休日ずっと家でゴロゴロしている兄を心配して一度だけ聞いたことがある。「友達と遊ばなくていいのか?」と。「そもそも友達はいるのか?」と。そこで兄貴はこう言った。「友達はいる。昼飯食うときはいつもそいつらに囲まれている。休日はあいつらも忙しいから、遊ばない」と。それを聞いてその時は終わった。だが話はここで終わらない。その数日後、俺は目撃してしまった。ベンチで一人昼飯を食べているところを。そこで兄貴と目が合って、俺は気まずかったんだが、奴は俺を手招きしてきた。すると悲しげな顔でこう言ったんだ。
「こいつらが俺の友達さ」
最初は何を言っているのか全くわからなかった。しかし兄の視線の先、足元を見てみるとそこには、一欠片のチョコレートとそれに群がるアリがいた。それを見た俺はやるせない気持ちになった。
俺はその日から兄に少しだけ優しくなった。
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「無理しなくていいんだぜ?」
「なんで信じてくれないんですか!?違いますよ!友達とグループ組もうとしたら、人数が多かったから私が抜けてきただけです!」
「そうだよな。話したことある人の周りにいて、グループにさりげなく入ろうとしたけど、自分は人数にカウントされてなかったんだよな。わかるぞ〜」
「じゃんけんですから!ちゃんと話し合ってじゃんけんで決めましたから!」
できる限り優しく話しかけてはみたが、これでよかったんだろうか。いや、信じよう俺のことを!
「今日は頑張ろうな!」
「ああああもう!」