5話
「あいつら大丈夫かなー?」
「出来る限りのことはやった思いますけど……」
「心配」
勉強を教えてた組の俺たち三人は今頃追試を行なっているだろう三人のことを心配する。
「いやー、ダメだったら慰めてあげましょうよ」
それに対して一人お気楽そうな男。菊川雄二。自分だけが追試を免れ、さらに勉強会では何一つ役に立たなかった男。
「お前に何か言われる筋合いはないな」
「菊川くん勉強会ではいただけだったしね」
「むしろ邪魔だった」
「ひどくない!?!!?」
わーきゃーと騒いでいると、ガチャリと扉が開く音が聞こえた。
そして例の問題児たちが入ってくる。
しかし、誰も結果を言おうとはしない。なんとも暗い雰囲気が部屋を覆う。
「……どうだった?」
俺の質問に誰も答える素振りを見せない。
もしかして、全員落ちたのか?
……と見せかけてちゃんと全員合格パターンだな!
「優ちゃん、どうだったの?」
早く結果を知りたい俺たちはそれを言わない三人を前にして、すこし気が焦ってしまった。
「どうだったんだよ」
「…………」
「どうだったんだよ!早く言えよぉ!どうしたんだよぉ!」
「ちょ、先輩!怖いですよ!」
前花に止められたことにより、俺は静かになる。しかし、俺が騒いだときでさえ、誰も反応を示さなかった。
本当にこいつらどうしたんだ。
そして耐えられなくなったのか、とうとう菊川が聞く……川。なんつってな!はっはっはっはっは!
「絵馬、言わないと分かんないぞ」
「うぅ……」
この反応、まさか本当に。
「分からない……」
「え?」
「だから、まだ結果出てないの!」
「紛らわしい反応すんじゃねぇ!」
こいつらぶん殴ってやる。
「ちょ、本当に落ち着いてください!先輩!」
そんな俺の暴動にも微動だにしない。どうやら三人ともかなり疲れているようだ。
「ふん……結果はいつ出るんだよ」
「今日の午後三時です」
「じゃあそれまで休憩だね」
「昼飯でも食べながら待ってようぜ」
前花と菊川が気を遣って場を和ませる努力をする。このまま俺も変なことを言い続けるほど子供ではないので、それに乗っかることにした。
「よし、じゃあピザでも頼むか!」
「え、それ大丈夫なんですか?」
「ふっ、大丈夫じゃない理由が見つからないぜ」
早速テキトーに選んでピザを注文する。
「あ、部活動部の部室までお願いします」
『え、部活動部……?』
「それじゃ!」
よし、これで昼飯は確保だな。
「あの、電話先の人めちゃくちゃ困ってませんでした?」
「客の注文に応えるのがプロってやつだろ」
「多分バイトの人だと思いますよ」
まあこれで来れなかったらそいつはクビだな。
それから二十分程経ったとき。
「失礼しまーす。ピザお届けに来ました」
「なんで来れるんだよ!」
「?場所を指定されたので」
配達員はまるで当然のことのように言っているが、俺は未だにここに来るまで迷うんだぞ。なのにこいつはどうして辿り着くことができたんだ。
「先輩、来れないと思って呼んだんですか……?」
全員に軽蔑の目を向けられ、後ずさる。
結局届けられたんだから良かったじゃねぇか。
「そんなことは置いといてピザ食おうぜ。みんな腹減ってんだろ」
先程からチーズの香ばしい匂いが部屋に充満し、俺の脳は我慢の限界だと訴えかけてくる。
蓋を開けると、さっきよりも濃厚な香りがダイレクトに伝わってくる。
そして、誰よりも先にこれを食べてやるべく、一目散に手を伸ばした。
「……え?」
ど、どういうことだ!
今の今まで目の前にあったはずのピザは、一欠片も残すことなく消え去っていた。
「おいひぃ〜!」
「っ!」
声のした方を見ていると、先程まで正気の感じられなかったあの女が満面の笑みを浮かべてピザを頬張っていた。
「お前、まさか今の一瞬で全て食べたのか?」
いや、しかしそんなことありえるのか?俺は一秒たりとも目を離していなかったんだぞ。気付いたら消えていた。今起こったのはそういうことだ。
斎藤は俺の質問に答える様子はなく、至福の表情を浮かべている。
「先輩、何してるんですか?ピザなくなっちゃいますよ」
「なに!?前花、お前までも今の一瞬でピザを食べたというのか?、」
「何を言ってるんですか?一瞬って」
そ、そうだよな。よく考えたら俺が頼んだのはピザ三枚だ。そちらの分を前花たちは食べているのか。
「それだけあれば普通三ピースは食べられますよ」
「お前それ絶対おかしいからな!?お前が言い出したら誰もツッコむ奴がいなくなるんだよ!」
当たり前のことかのように返してきた前花に対して俺は絶望した。どうやら、こいつらにとって異端なのは俺らしい。
「クソォォォぉぉぉ!」
結局俺は一枚も食べられずに昼飯を終えた。
それから時間が過ぎ、
『追試を受けた方は第三校舎第一講義室へ集まってください』
とうとう結果発表の時間になる。
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