2話
話を聞いてみると天堂は数学が、菊川は国語ができなかったらしい。そして残りの二人が問題だ。
「アタシは、英語と理系科目全滅した感じ……」
芸能活動が忙しくて勉強がほとんどできていなかった野薔薇ちゃんは仕方ない気もする。日本史などができている様子を見ると、ある程度の努力は見える。
「私は全部できなかった!」
先程まであんなにも落ち込んでいたのにもかかわらず、今となってはなぜか超絶元気だ。開き直ったらしい。
前から思ってたけど、こいつは本物のバカだったらしい。
「なんでそんな元気なんだよ」
「まあ終わったことは仕方ないかなって。今はそれを糧に未来を見据えて生きていこうと思うんだ」
言葉だけは一丁前だな。
「でも、期末で赤点取って夏休み前の追試合格できなかったら夏休み全部学校来る羽目になるぞ」
「……どうしよう雄二君!」
「どうしようじゃないって!俺も困ってるんだよ!」
「ああ……私の夏休みはなしですか」
「せっかく今年は遊べると思ったのにぃ!」
なんで全員諦めてんだ。それを見て、面白そうにしている俺。困ったような顔の前花。寝始めるササキ。
カオスだな。しかし、前花が本気で困っているようだったのでもうそろそろ助け船を出してやることにする。
「まだテスト返ってきてないんだろ?それ見てからでも遅くないだろ」
「「「…………」」」
「おい、なんで黙り込むんだよ」
「返って来なくてもわかりますよ」
「むしろ家に帰れないよね」
「絵馬のとこは厳しいもんな……」
こいつらそこまでか。既に諦めた様子の四人。こうなれば、先輩として一肌脱いでやろうではないか。
「俺が勉強教えてやるから頑張れよ」
「お母さんになんて謝ろう」
「今年は海外旅行行く予定だったのに中止ですね」
「祭りも行けないかな……」
「またアイドルはじめようかしら……」
「おい、なんでみんなして俺のことを無視するんだ」
俺がせっかく手助けしてやると言っているのにこの様だ。
「いや、だって、ねぇ」
「アンタに教わることなんて何一つないわよ」
「私にだってプライドというものがありましてね」
「先輩って勉強できるんですか?」
こ、こいつら……。
前花までも胡散臭いようなものを見る目でこちらのことを見てくる。
「俺は前回のテストで十二位だぞ」
一瞬の静寂。そして。
「先輩、見栄張らなくてもいいんですよ」
俺の目をまっすぐに見て優しい言葉をかけてくる俺の好きな人。
「いやホントだわ!見ろやこれ!」
そういって前回のテストの結果を写真でとったものを見せる。自分でもいい結果が出たので記念に写メっておいたものだ。
「う、嘘でしょ……?」
「本当に……」
「こんな奴が頭いいなんて」
「人は見かけによらないものですね」
「先輩って頭よかったんですねぇ」
前花以外は全員殴ってもいいよな。
「でもお前らの勉強なんてもう知らん。せいぜい追試頑張ることだな」
そう言って部室を一人で出る。
それから廊下をまっすぐ歩き続け。
「なんで誰も追ってこないんだよ!追いかけて来いよ!」
後ろに誰もいないことに気が付くと急いで部室に戻ってきた。
「先輩もう帰るのかなって」
その気遣いはありがたいけども!ここは俺に縋り付いて助けを乞う場面でしょうが!なんなんだこいつらは!
「あ、じゃあ勉強お願いしますね」
「天堂お前ついでみたいに言うなよぉ!」
「あれ、ダメなんですか?」
「ダメじゃないけどさぁ!」
こうして、納得のいかないまま俺は勉強を教えることとなった。
「はぁ」
「まあまあ」
「前花……」
優しく接してくれるのはお前だけだ。
「前花はテストどうだったんだ?」
「まあ普通ですかね。多分平均くらいです」
良くも悪くもないって感じか。というかここはバかの集まりだったのか。まあ確かにその片鱗は今までも見え隠れしていたけれども。
「あ、今日は新しいゲーム持ってきたんですけど」
「お前ら勉強しろよ」
「えー、追試まだ先ですよね?」
うん、こいつらが成績悪いのはなんとなく想像ついたわ。
「久しぶりにここに集まったんだから今日くらいはいいんじゃないですか?」
「まあ、それもそうか」
こいつらにとっては久しぶりの部活。そして俺と前花にとっては初めての部活だ。
どうせゲームやるだけでなにも部活らしい部活なんてものはやらないのだろうけど。……それって毎日会ってたこいつらからしたら、何も変わらないんじゃ……
そんな俺の考えなど、わきに置いて着々と新しいゲームの準備を進める天堂達。まあ、いいか。追試になったらなったで俺には関係ないし。
「よし!野薔薇ちゃん、今日は拗ねるなよ」
「どうしてアタシが負ける前提なのよ!」