37話
あれ、今俺なんて言った?
前花のことが、好き?
告ってるぅぅぅぅうう!!?!!??
いや、確かにそうだけど!それ言うの今じゃないだろ!
ヤバい、どうしよ。
前花は今の聞いてどう思ったのだろう。
恐る恐る顔を覗き込んでみると、窓の外を見ていた。
そして、緩慢な動作でこちらを見やり、こう言った。
「え、なんだって?」
「…………前花?」
「さっき何か言いました?」
「…………」
な、なーんだ聞こえてなかったのかー。いや、よかったよかった。
「って、なわけないだろ!絶対今聞こえてたよな!?」
「なっ!聞こえてなかったんですからそれでいいじゃないですか!」
「本当に聞こえてなかったんだな!ならもう一回言うからちゃんと聞けよ!」
「え、ちょ」
「お前のことが好きなんだよ!」
「あー!もう!なんで言うんですか!」
「……なんで言ったんだろう」
「嘘でしょ!?」
よく考えたら聞こえないって言ってんだからそのままでよかったんじゃないか?
そもそも今日はこんなこと言うつもりはなかったのに。あー!くそ!
「先輩……」
「なんだよ」
気まずい雰囲気が流れる。昨日の今日でこれだ。しかし、昨日の続きが出来たという意味ではよかったのかもしれない。
「ごめんなさい」
謝られた。
え、これフラれた?
先程よりさらに気まずい雰囲気が流れる。どうしよ、もう野薔薇ちゃんのこととか聞く余裕ないぞ。
い、一旦外出ようかな。
すっと立ち上がり外へ出ようとすると、何故か腕を掴まれる。
「どこへ行くんですか?」
「どこって、この気まずさから逃げようとしてんだよ。聞くな」
「待ってくださいよ!話はまだ終わってません!」
「今さっき終わったよな。そう!俺はフラれたんだ!」
「なんでそんな元気なの!?」
デカい声でも出していないとこの空気に耐えれそうにないからだよ。
「は、な、せ」
「嫌ですよ!先輩別にフラれてませんから!」
「え、そんな分かりやすい慰めある?勝者が敗者に情けなんてかかるんじゃねぇ!」
俺はフラれたんだ!俺は敗者!敗者は潔く退場しなければならないんだ!
「ホントですよ!話聞いてくださいって!」
余りにも必死なので、仕方なく外へ出るのを諦めて話を聞くことにする。
「昨日の話、覚えてますか?」
「蛍がゴキブリって話?」
「そんな話しましたっけ!?違いますよ。どうしてデートに誘ってくれたのかって」
もちろん憶えている。昨日の今日で忘れる馬鹿がどこにいるんだよ!
とか言ったら怒られそうだから言わないでおこう。
「その答え、今聞いてもいいですか?」
「別に、デート誘うなんて普通だろ」
仲が良ければ何も考えずに男女2人で遊びに行くことだってある。
それを聞いた前花は「あれ?」みたいな顔をしている。思っていたのとは全く別の答えだったのだろう。
「そう、なんですね」
「まあ好きだったからな」
「っ!……」
俺が続けて言った瞬間、顔を紅潮させる。
自分で言わせておいてなんというザマだ。まだまだだな。
「で、聞いてどうすんの?」
「なんでそんなに余裕そうなんですか……」
「動揺するのに飽きた」
「飽きる!?動揺ってそういうものでしたっけ!?」
そんなことも分からないようではこの先も騙され続けるのだろうな。真奈ちゃんに。
「私は、その、先輩の言葉が信じられないんです。いつも冗談ばかり言ってるし、そんな素振り全く見せなかったじゃないですか」
「俺は本気だぞ」
「……信じられません」
「まあ冗談だけどな」
「さようなら」
「あー!待って待って!嘘嘘!冗談だから!」
即座に立ち去ろうとする前花を必死で呼び止める。さっきと立場が真逆だ。
「はぁ、今真面目な話してるんです。次茶化したら本当に絶交ですからね」
「はい……」
これ以上怒らせないでおこう。絶交なんてされたらたまったものではない。
今一度彼女の目をまっすぐに見やる。
「前花、好きだ。付き合ってください」
「……私、臆病なんです。先輩の言葉が信用できない。私自身どうしていいか自分の気持ちが分からないんです」
「…………」
前花の話を、今度は茶化さずに真剣に聞く。
……昼飯食べる時間あるかな?
「だから、少しだけ保留にしてもいいですか?すみません、こんなのよくないって分かってるんです。でも、少しだけ待ってもらえませんか?」
「いいよ」
「はやっ!?」え、もうちょっと何かないんですか?」
「ない」
何より、俺は早く飯を食べたい。腹が減り過ぎてヤバい。これで昼飯を食べられなかったら最悪だ。
「私結構勇気出したのに……」
「今回は俺が都合のいい男になってやる。いつまでだって待つ。それが惚れた側の最低限の礼儀だ」
「先輩……」
「だから早く飯を食べよう」
「……もしかして、早くご飯食べたいだけですか?」
「……そんなことないよ?」
ジトっとした目で俺のことを見てくるが、言っていること自体は本音だから許してほしい。
だから早くご飯食べさせて。