29話
「な、何ですか!?この声は一体」
この声、まさか……
「桃太郎!加勢に来たわ!」
「やっぱテメェか!ババアァァア!」
「助けに来たわ!」
「すみません。止めたんですけど……」
ババアの役をした斎藤絵馬がそこにはいた。そして後ろから申し訳なさそうな顔をしたジジィ菊川雄二。
「おじいさんにおばあさん、来てくれたんですね!」
あれ!?意外にも前花が歓迎ムード!
こいつ、テンションがハイになってるせいでバカになってないか!?お前までぼけ始めたらいよいよ収集つかなくなるぞこれ。
「魔王。桃太郎を倒すのは私だよ。これだけは絶対に譲れない」
そんな設定あったなぁ。と、他人事に思っていた。
これどう終わらせるんだと、今更ながらに思ってしまった。
「ふっ、私に逆らうとどうなるのか、教えてあげます!」
「それは、こっちのセリフだよ!」
鬼とババアが戦いを始めた。
「これどうすんだよ」
「「さあ……」」
俺の言葉に反応したのは、野薔薇と菊川。まさかこの三人で意見が一致することがあるなんて。
「あたしは知らないわよ。もともとセリフなんてないような役だったし」
「俺も序盤で退場する役なんで」
二人そろって俺のことを見てくる。
え、なに。もしかして俺に何とかしろって言ってる?
「主人公でしょ」
「この話の題名、桃太郎ですよ」
「…………」
二人の視線が痛い。というか、なんで舞台の上でこんなにも堂々と会話をしているんだ俺たちは。
それも偏にアクション女優かと見紛うような戦闘を繰り広げている二人のおかげだろう。
「あー!もうわかったよ!俺が何とかすればいいんだろ!」
無駄に高いスペックを発揮する二人に近づいていく。
「わんわん!」
「ウキウキ!」
「なんだお前ら」!邪魔すんな!」
まさかの猿とブスの乱入により、二人への介入が阻まれる。
「わわんわんわんわーん!」
「ウッキー!ウキキキ、ウキキッキー!」
「分かんねぇよ!」
こいつら、未だに俺の言いつけ守ってるのなんなの?敵に懐柔されたくせに。
「つまりはそういうことだ」
「なに?」
急にブッスーが喋り始めやがった。
「お前が俺たちの言葉を理解できない時点でお前に従う理由はない」
「そうさ!魔王様は俺たちの言葉を理解してくださった。そしてそのうえで俺たちの望みをかなえてくれるって言ったんだ」
魔王様?してくださった?
ダメだこいつら、心の底から天堂のことを慕ってやがる……!
それが分かった瞬間俺は膝から崩れ落ちた。
「確かにな。すまねぇ、これは俺の負けだ」
「気にすんな。分かってくれたんならいいんだ」
そっと俺の肩に手を乗せる。
猿……まさかお前がいい奴に見える日が来るなんてな。
「魔王様なら、お前のことも受け入れてくれるさ」
「本当か?」
「ああ!一緒にあの人へついていこう!」
二人に手を差し伸べられる。そして俺はその手を取った。
「よし、一緒に応援しよう!」
「ああ!」
「「「魔王様頑張れー!」」」
『だから鬼だってばー』
いけ!そこだ!そんなババア相手じゃないぜ!!
「あの人何やってんの!?」
「やっぱりあいつ馬鹿だったわ……」
遠くの方で何かが聞こえるが、今は魔王様の戦いに集中だぜ。
しかし、後ろから聞こえてきた声に反射的に振り返ってしまう。
「せ、先輩……?」
「キジ……」
「何をしているんですか?あなたは桃太郎ですよ。どうして魔王の応援なんかしているんですか!」
『鬼なんだけど……』
まったく、困ったキジさんだぜ。
「魔王様は素晴らしい。来るもの拒まずだ。お前もこちら側に来い」
「ふざけないで!私の故郷はあいつに滅ぼされたんですよ!?」
『あー、また新しい設定増えちゃったよ』
「それは、本当か……?」
「桃太郎、騙されるな!そいつは嘘を吐いている!」
「魔王様がそんなことするはずない」
「嘘じゃないです!信じてください!」
俺は、どっちを信じればいいんだ。魔王様か、それともキジか。
「どうすればいいんだあああああ!!!」
「どうでもいいわよ」
そして、終わりは突然やってくる。
証明が急に落とされて、俺たちは若干パニックに陥る。
「なんだ、停電か!?」
『えー、時間となりましたので演劇はここで終了とさせていただきます。本日はご来場ありがとうございました。引き続き、交流会見学をお楽しみくださいませ』
……え?
「「「「「「えええええええ!?!!?」」」」」」