28話
三人の仲間が加わり、もう鬼ヶ島行くかと思った時だった。
「桃太郎さん、きびだんごを一つ分けてくれませんか」
そういえば桃太郎ってキジが出てくるんだったな。
前花はいい子ちゃんなので、この期に及んで原作通りに進めようとしている。少し恥ずかしいのか、少しだけ頬が赤い。
「もう人数そろったしいいや」
「そうだー、帰れ帰れー」
「よくないですよ!え、どうして人数そろってるんですか?」
猿のヤジを無視し、俺の後ろを順番に確認していく。すると、とある一点で目が止まる。
「ササキさん!?出番まだだよね?ていうか何その恰好!」
先程一通りやった件をまたも始める前花。
「てことだ。じゃあな」
「じゃあな、じゃないですよ!ちゃんと私も仲間に入れてください」
なんと……!俺は今感動していた。
「ちゃんと言えたじゃないか!」
「え、何をですか?」
「仲間に入れてくれって!友達作りの第一歩に今成功したんだよ!」
「ボッチちゃんだったのか!」
「おめでたい」
「咲良、おめでとう」
俺たちの仲間が祝福する中、前花はもう諦めの態勢だ。
「それが言えたんなら合格だ。もうお前は俺たちの仲間だ!」
「もうそれでいいですから、早く行きましょう……」
『こうして、桃太郎一行は鬼ヶ島へ行くのだった。うぅ、よかったですねぇ』
「なんでお姉さんまで!」
乱ちゃんにまで言われたことには納得いかないらしい。
袖に捌けてきても、少し怒った様子だ。
「もう無茶苦茶ですよ!」
「え、なにが?」
「分からないんですか!?」
すごい驚き様だ。ここまでうまくいっているというのになにがいけないのだろうか。
俺たちが首を傾げている中、菊川だけが「分かるぞー、うんうん」と言っていた。
『紆余曲折を経て鬼ヶ島にたどり着いた桃太郎一行。さて、どうなるのでしょうか』
どうなるのでしょうか、ってもう俺たちに丸投げだねお姉さん。
「フハハハハハ!よくぞここまでたどり着きましたね」
そこにいたのは、天堂と野薔薇ちゃん。恐らく親玉が天堂なのだろう。野薔薇ちゃんとは比べるべくもなく豪華な衣装だ。野薔薇ちゃんはいかにも三下って感じ。
「なんであたしがこんな役……」
確かに、一流アイドルにやらせることではないと思う。しかし、これが舞台上である限りここは戦場だ。手加減はしないぞ。
「うるさいぞ三下」
「三下!それあたしのこと言ってんの!?」
「うるさいです、三下は黙っててください」
「あんたあたしのファンよね!?」
まさか熱烈なファンである天堂にまで言われるとは思っていなかったのだろう。可哀そうに。
「フフフ、待っていましたよ桃太郎」
なんか鬼っていうよりも魔王様だよね完全に。
「私は魔王!この世界を支配する者!」
魔王って言ったね今。完全に魔王って言ったね。鬼じゃなかったのかよ。
『鬼です!魔王なんて出てきません!』
「私は魔王」
『だから、鬼だってば!日本の昔話に魔王が出てきたらおかしいでしょ!』
どうやらそこだけは譲れないらしい。
その思いが伝わったのか、天堂も渋々名乗り直す。
「私はこの鬼ヶ島を統治する鬼の魔王!」
こちらも譲らない。絶対に魔王を取る気はないらしい。
あたかも、妥協してやったんだからこれくらい許せと言っているかのようだ。乱ちゃんにもそれは伝わったのか、魔王をつけることに何か言ってくる様子はない。
「さあ、あなたは何がお望みですか?」
こつめちゃくちゃ魔王役板についてるな。どうしてこんなにも生き生きしてるんだ。
「わんわん!」
「ウキー!」
こいつらが入ると話がややこしくなるので、事前に話すならワンとウキーだけにしろと言ってある。
「そんなのじゃわかりませんよ」
「わんわんわーん!」
「ウキキ!ウキ?ウキー!」
「なるほど。骨とバナナですね」
なんでわかるんだよ。こいつらを黙らした意味ないじゃねぇか。
「いいでしょう。それくらい用意してあげます」
「ワオーン!」
「ウッキキー!」
「あ、お前ら!敵に寝返りやがったな!」
「そんなのアリ!?」
俺と前花がぼーっとしている間に、仲間のうち二人が敵陣営に下ってしまった。きびだんごの恩はどこへ消えたんだ。バナナと骨なんかに懐柔されやがって。
……そいえば、俺きびだんごあげてなくね?
「くっ。でも俺たちにはまだ仲間が……浦島太郎がいるんだ!」
「浦島太郎倒れてるわよ」
「え……?」
振り返ると、ササキが浦島太郎の格好のままうつぶせで倒れているのが見えた。
急いで駆け寄って、安否を確認する。
「どうしたんだ、何があった!」
すると一言。
「……ガス欠」
「先週から思ってたけどお前本当に体力ねぇなぁ!」
まさか、たった数分で使い物にならなくなるとは思わなかったぞ。
「ここまでか……」
「諦めるんですか!?」
「なぁ、前花。俺たちに勝ち目はない。もう諦めよう」
「先輩がそんな人だったなんて……見損ないました」
おお?前花も乗ってきたじゃないか。
「でも、俺たち二人だけで、勝てるわけ」
「そうです。諦めてあなたたちもこちら側に来るのです。勇者よ」
「……桃太郎です」
「……桃太郎よ」
肝心なところで言い間違えないでほしい。前花も笑いそうになってるじゃないか。口元プルプルしてるぞ。
……ていうか、顔近くない?
「先輩、私は一人でも戦いますから」
「キジ……」
「…………」
おい、何だこの間は。
あ、私か!みたいな顔すんな。設定完全に忘れてたなこいつ。
「お前一人で戦わせるわけにはいかないな」
よし、行くぞ!
その時だった。
「ちょっと待ったー!」