表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/50

26話

『昔々、あるところにおじいさんとおばあさんがおりました』


 まじか、ナレーター乱ちゃんかよ。大丈夫かなこれ。


『おじいさんは山へ芝刈りに。おばあさんは川へ洗濯をしに行きました』


 おじいさん役は菊川。お婆さん役は斎藤か。

 配役の書いてある紙を見て確認する。

 そして、俺はしなければよかったと思った。


 ーーなお、この公演は一時間を予定しておりますーー


 ……え、長くね?

 そんな俺の思いは関係なしに、物語は進んでいく。


『おばあさんは川を見て、水浴びをしたくなりました』


 水浴びしたくなるよな年齢じゃねぇだろ。

 とことん恥をかかせる魂胆か。そう上手くいくと思うなよ?


「あー、わたし、水浴びしたいー」


 そう言うと、川や山の書かれた後ろのパネルにダイブした。

 厚紙で出来たそれに穴をあけるには十分な威力。

 なかなかアクティブなババアだな。


『ちょ、壊さないで!』


 ナレーターが素で喋んな。

 それは本人も思ったのか、ナレーターの仕事を続ける。


『川から上がると、その手には小さな桃が一つ、二つ、三つ……ってどんだけ持ってるのよ!』


「あ、この桃美味しそう」


『一齧り。え、本物の桃なんてあったっけ?』


「これプラスチックだぁ」


 ベーと舌を出してマズそうにしている。

 プラスチック噛み千切るってどんな顎してんだアイツ。


『すると川上からどんぶらこ~どんぶらこ~と、』


「あ!おじいさんだ!」


『おじいさんが~え?なんで流れてくるの?』


 恐らく台本がないのは、ナレーターとして指示を出しその通りに演技させるためだったのだろう。

 しかし、それが裏目に出たな。俺たちはお前の思い通りにはいかないぜ!


「お、おばあさん。たすけて」


『溺れかけてるぅぅぅ!!』


 菊川の奴何やってんだ。

 なんか本気で辛そうにしてない?溺れてるっていうよりはリンチされた後みたいな……

 まあ、いいか!


「おじいさん、その怪我どうしたの?」

「桃が、桃が……」

「桃にやられたんだね。わたしが退治してやる!」


『退治しないで!それ主人公だから!』


 これだけは乱ちゃんに同意しよう。俺の登場シーンがなくなってしまう。


「ち、違うんだ。おばあさん。桃を採ろうとしたら蜂に刺されてね」


 急いで菊川が方向修正する。が、それはどうなんだ。桃太郎の桃は山にあった上に、おじいさん蜂に刺されてボコボコになってるぞ。


「そう、なんだ。じゃあ鉢退治に行かないと!」

「いや、まずは桃を持ち替えろ?ね、おばあさん」


 自由過ぎるおばあさんに翻弄されるナレーターとおじいさん。俺も早く出たいから進んでほしい。


『こうして、おじいさんとおばあさんは桃を家に持ち帰りました!』


 無理やり終わらせやがった。

 証明が暗くなり、場面が切り替わるシーンへと移る。


 おじいさんとおばあさんはこちら側に捌けてきて、両方とも不満げな顔をしている。


「もうちょっとやりたかったのになぁ」

「無茶苦茶だ」


 そしてもう一人。


「私も早く出たいですー。絵馬さん尺取りすぎですよ」


 後半まで出番のない天堂も暇そうにしている。

 いよいよ、次からは俺だな。


 暗いうちに舞台へと上がり準備をする。


『おじいさんとおばあさんは、持ち帰った桃を、包丁でサクッと切りました。すると中からは』

「俺だ!桃太郎だ!」

『そう、桃太郎が……いやいやまだ早い!なんで?人形用意してたじゃん!最初から大人のまま出てきたらおかしいでしょ!』


 違う、おかしいのはそこじゃない。


「違う!桃太郎は俺だろ!ブスは引っ込んでろ!」

「ん?俺は主役じゃないのか?」


 おいおい、更衣室でのあれガチで言ってたのかよ。

 俺が背景の後ろで出るタイミングをうかがっていたら、舞台袖から出てきたブッスー。


 急いでスタッフの人がブスを連れて帰る。

 あいつ、自分の格好を見て気づかなかったのか。


「おや、桃から生まれてきたこの子は桃太郎と名付けようじゃないか」


 無理やり進めようとすんな。名づける前から名乗ってたぞさっきの桃太郎は。


「そうだ、俺が桃太郎だ。もう旅出るから早くきびだんご寄越せや」


 ブスのせいで俺の登場シーンは無茶苦茶になっちまったが、もうここはこのまま行くしかねぇ。


「まあ!親に向かってなんて言う口の利き方なの!?おじいさん言ってやって!」

「え、俺?えっと、コラ桃太郎!おばあさんにもっと優しくせんか!」

「ジジィは黙ってろ」

「そうよ!あなたは黙ってて!」

「今俺に言えって言ったのおばあさんだよね!?」


『喧嘩しないでー!』


 ナレーターに言われてしまったら仕方ない。よく考えたらまだ鬼の悪いうわさも出ていないのだ。まだ旅に行くことはできないか。


「一時休戦だお婆さん」

「そうね。ここで暮らしなさい」

「なんでこんなところで戦っているんだ……」


『……おじいさんとおばあさんは桃から生まれてきたことから、その男の子を桃太郎と名付けました』


 それさっき言った。


 証明が落ちないせいでずっと静止したままなんだけど。


『そして三人は仲良く暮らし、男の子はすくすくと育っていきました。そんなある日のことです』

『村で鬼が暴れているという噂が流れてきました』


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ