23話
ジリリリリリリリイリリリリリリリ
「うるせぇ!!」
耳元でけたたましくなる目覚まし時計を叩いて止める。
『朝だ!起きろ!朝だ!起きろ!朝だ!起きろ!』
「うぜぇ!!!」
枕元から流れる不快な音声を止めるべく壁に投げつける。
「何で寝起きで猿の声なんか聞かなきゃいけないんだよ!死ね!」
確かにあまりのイライラに起きはしたけど。
しかし、そのイライラは結局収まることはなく学校に着く。
教室のドアを開けるとこれまた唐突に出てきた猿の顔面を殴りつける。
「なん、で?」
「マジでうぜぇから」
「まだ何もしてないだろ!」
「朝テメェの不快な声に起こされたんだよ!」
一瞬不思議そうな顔をするが、すぐに何かに思い至ったのかにんまりと口角を上げる。
「どうだった、俺のモーニングコールは?」
「やっぱテメェの仕業か!最悪の寝覚めだわッ!一瞬自殺を考えたぞ」
「お、おう。まさかそれほどまでとは。なんか悪いな」
俺の怒り具合を見て、流石にやり過ぎたとでも思ったのか珍しく反省を示す。
そして後ろでまたドアが開く音が聞こえる。
「お、ブっふ!」
そして目の前の猿が消えた。
「おはよう孝太郎」
「ブッスーか、どうして猿はあんなにも飛ばされてるんだ」
「俺の目覚ましをあいつの肉声にしやがった……!」
こいつも、俺と同じいたずらをされていたわけだ。
土日は朝起きなくていいから今日になるまで気づかなかったんだよな。
「それより孝太郎、どうしてこちらを見ないんだ」
「今日は寝ざめが最悪だったんだ。これ以上朝のテンションを下げたくはない」
「おい、どういうことだそれは!」
ブッスーが無理やりにでも自分の顔を見せようとしてくる。これもう犯罪だろ!
抵抗しようと首の筋肉をフル稼働させるが、野球部に勝てるわけもなく。ブッスーと目が合ってしまった。
「…………」
「…………」
「ぎゃあああああああああ!!!!!」
「なんだその悲鳴は!十年一緒にいてまだ見慣れないのかお前は!」
流石に至近距離で見たらホラーだろ。
「うーん。今日のブス度は九十点」
「それは喜んだ方がいいのか?ぶん殴った方がいいのか?」
「顔洗ってきた方がいい」
「これでも毎朝二十分は顔のために時間使っているんだぞ!」
マジかよ、むしろそれが原因なんじゃないだろうか。そう思う程に、日に日にブス度が増して言っている気がする。
「ごめん、お前の顔見てたらマジで気分悪くなってきたから寝るわ」
「お前は本当に失礼な奴だな……」
気分の悪さに自分の席へ着くと、顔を突っ伏して寝る態勢に入る。
そして俺の意識は段々フェードアウトしていくのだった。
「……ろ」
「……だ……きろ!」
「おい!起きろって!」
「あー!うるせぇえええ!!!」
そして俺はそのままこぶしを突き上げた。
どうやら目覚ましは止まったようで、二度寝に入ろうかと思った時。俺は三十人近くの目がこちらを向いていることに気が付く。
そういえば今学校だったわ。
そして右側を見ると、顎をさすっている涙目のゴリラがいた。
「種田」
「はい」
「先生お前になんかしたか?」
「えっと、めっちゃすんません」
この短期間にゴリラの涙を二度も目にすることになるとは。
少しの間ゴリラが泣く様を見せられるという地獄の時間があったが、なんとかそれを乗り越え事務連絡へと入る。
「以上だ」
よし、終わったことだし。もうひと眠りするか。
「あ、もう一つ。種猿ブスの三人はスポーツ科の交流会参加決定な」
「「「え゛」」」
スポーツ科の交流会だと……?
「忘れてたああああああ!!!」
周りからは同情の目を向けられ、該当する俺含めた三人は絶望の表情を浮かべている。
一体俺たちは何をさせられるんだ。笑顔を強制させられるなんて嫌だよ。
そして俺は今、大変なことに気づいてしまった。
「ブッスーの笑顔なんて見たくないよおおおお!!!」
「それは俺に笑うなと言っているのか!」
ブッスーは怒っているが、周りを見てほしい。みんながマジで見たくないなと思っている。
「どうしよう。私学校これないかも」
「こりゃ学級閉鎖ものだぜ」
「一波乱起こる予感がするな」
流石に、言い過ぎだと思うんだけど。このクラスの奴らって普通に変な奴多いよな。
委員長とか。
しかし、その委員長もいい奴であることに変わりはない。
「おい!みんなやめないか!もしかしたら、顔が改善されることだってあるかもしれないじゃないか」
「い、委員長……」
その言葉で今までの空気が少しだけ変わる。
「確かに、笑顔になることで顔面緩和が起こるかもしれないし」
顔面緩和ってなんだ初めて聞いたぞ。地盤沈下みたいなもんか?
「安心してくれブス田。俺はお前の味方だ」
「委員長……せめて顔をこちらに向けながら言ってくれ」
「すまない、それはできない」
「それと、俺の名前は毒島だ」
いかに委員長とはいえここまでが限界のようだ。
そして、学級崩壊の不安が残ったまま、二年生二度目の交流会は始まるのだった。