22話
「まあだいたいこんな感じです」
話を終えると、目の前にある水を一口飲んだ。
「あのさ」
「はい」
「こえぇぇよ!話聞く前より後の方が恐怖感じるのってどういうこと!?」
聞かなきゃよかったよ。個人情報勝手に漏れてるし、盗聴器つけられてるし、俺の悪口で盛り上がってるし。
「それは、先輩が悪いんです」
「まじかぁ」
にしても、その盗聴器に気づかず俺が変なことをしていたらどうするつもりだったのだろうこいつは。
「とりあえず家帰ったらそれとるわ」
話が一段落したところで、俺の注文したスパゲッティが来る。
「……なあ前花」
「……なんですか?」
「流石にこれは無理だわ」
「だから言ったじゃないですか!」
テーブルの上に置かれたのは、十人前くらいはあるんじゃないかという量のスパゲッティだった。
話を聞くと、その重量は何と四.三キロ。フードファイターでもない限りこんなの食べきれるわけがない。
「俺はどうすればいいと思う?」
「食べてください」
「鬼畜!こんなの食べきれるわけないだろ!」
「食べてください!残したら店の人にも失礼ですよ!」
出来る限りは食べるか……
今日は土曜日。ブッスーも猿も部活だろうし。
「も、もう無理……」
「まあ頑張った方ですね」
「だ、だよな。だったら」
「残しちゃダメですよ」
にっこりと笑うその顔は多分この二日間で一番の物だろう。
俺には悪魔にしか見えねぇ。
俺が食べられずに時間が進んでいく、その間俺たちは両者無言だ。
……誰か助けてくれ。
そして、その時俺は窓の外に都合のいいものを見つけた。
「前花、ちょっと待ってろ」
「あ、ちょっと!」
急いで店の外まで走って、目的の物を捕まえる。
そして急いで店の中に戻る。
「一体何を」
「咲良さん」
「え?」
「そういうことなら言ってくれればよかったのに」
「まさかそういう関係だったとはな」
俺が引き連れてきたのは、たまたま通りがかった菊川達だった。
菊川、天堂、ササキ、斎藤。今日は半野はいないみたいだが、これだけ来ればもう十分だ。
「ち、違いますから!」
前花は必死に否定しているが、デートしている事実には変わりないだろう。
「お前から誘っといて何を言っているんだ」
「咲良さんから誘ったんですか!?」
「違います!いや違くはないですけど!」
「まあまあ、それは飯を食いながらでもできるだろ。これ食っていいぞ。俺のおごりだ」
「あ、いいんですか。って、ナニコレ!?」
菊川もその量に驚いているようだった。めちゃくちゃ頑張って四分の一は食べたが、これ以上は食べられない。残りはこいつらに頑張ってもらおう。
「まさか、先輩からのおごり。断るなんてことはないよな?」
少しだけ脅してやると、食べます……と言って渋々食べ始めた。
流石先輩だ!これぞ正しい先輩の使い方だな!
「やっぱり酷い」
あれ、もしかして俺の評価また下がった?
「ねえねえどういう流れだったの?」
目をキラキラさせて斎藤が聞いている。確かにこの手の話は好きそうだ。
飯を食べてもらうお返しだ。答えてやろう。
「昨日の夜の話なんだけどな?俺の部屋のことを盗聴してたんだよ」
「ええええええ!大胆!」
「……ストーカー気質ある」
「ササキさんは知ってるよね!?」
「それで!それでどうなったんですか!?」
「家族がいなくて寂しがってる俺のことを頑張って慰めてくれたんだよ」
「キャー!」
「包容力のある女」
俺が少しだけ脚色した事実を伝えると、女子は色めき立ち、そのたびに前花は訂正する。しかし、俺の話の方が面白いため、今回ばかりは俺のことを信用する。
菊川はこの量を食べるために奮闘中だ。
「それで今日バイクで来たんだけど、後ろに乗せてってうるさくてな」
「別にそこまで言ってませんよ!ヘルメット二つあるのに乗せてくれないんですねって言っただけじゃないですか!」
「乙女だー」
「恋!してますね!」
「なんで誰も聞いてくれないの!?」
本来のツッコミ役である菊川は今戦力外。頼れるのは自分だけ。さあどうする!
「先輩、俺もう無理です……」
「甘えんな!その程度で諦めてんじゃねぇ!」
「いや、俺先輩よりは食べてると思うんですけど……」
「俺はお前の倍は食べてる」
「うそぉ!?」
まあ嘘だけど。
その後も、俺たちの恋バナは続き、その度にからかわれる前花と、残りの二キロを何とかして食べようとする菊川。
結局スパゲッティは斎藤が全部食べた。それでもまだまだ余裕そうだったあの女の胃袋は化け物だ。
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「はぁ、ひどい目にあいました」
「え、なんかあった?」
「あなたのせいで色々勘違いされたんですよ!」
彼女らの勘違いは解かれることなく、解散になった。
その結果、俺が前花を贈るという構図になってるわけだけど。
「こんな家近かったんだな」
そう、実は歩いても行けるくらい前花との家の距離は近かった。
「ホント最悪ですよ」
「何がだよ」
「家が近かったこともそうですけど、何より私からの片思いだと勘違いされていることです」
「そうだな、確かに一方通行の恋愛だと思われてるのは心外だな」
「全くです。私はみじんも」
「両方向からだってのにな」
「は?」
ヤバい、こんなにも冷たい視線で返されるとは思ってもみなかった。
「ここまででいいです。さよなら、もう二度と会うことはないでしょうけど!」
それだけ言うと速足で帰っていってしまった。




