17話
「もしかして、俺やっちゃった?」
「もしかしなくてもやってます」
意外と容赦ねぇなこいつ。だから友達出来ねぇんだよ。
「なんですかその、だから友達いないんだよみたいな目は」
なんでわかるんだよこえぇよ。
「これからどうするんですか?」
呆れているのか、困っているのか、溜息を吐きながら菊川が俺に聞いてくる。
「こうなったらもう仕方ないだろ。行くとこまで行っちゃえ!」
皆がまた疑問符を浮かべている、
ここまで来たら、もう後には引けない。どうせなら勘違いしたまま交流会を乗り切るしかない。
そこまで説明すると、反応はそれぞれ違う。うんうん、みんな違ってみんないい。
天堂は楽しそうにしているし、斎藤は苦笑い。菊川は呆れていて、前花は「もう嫌だ」みたいな顔をしている。半野は顔怖いし、ササキは……まだ息切れしてるな。
「よし!じゃあ脱獄犯が脱獄した後にやることは?」
「隠れる?」
「バカ野郎!」
「何で俺怒られてんの」
「人質だ!」
人質さえ捕まえれば俺たちが何をしようとお構いなしだぜ。
「金とか、逃走用の車とか、全部人質をとればなんとかなるんだよ!」
「経験でもあるんですか」
何でそんなことを思いつくのかと前花は言いたいのだろう。
しかし、これを説明するには中学の頃にまで遡らねばならない。
=========
中学生の時、俺たちは警察と泥棒に分かれて遊ぶゲームをしていた。そんなある日のことだ。ブッスーが泥棒側で、それ以外の仲間が捕まってしまった時だ。ブッスーは警察の一人を逆に捕まえてこう言ったのだ。
「おい、こいつの顔がどうなってもいいのか」
「それゲーム変わってるよ!?」
「こいつに俺のブスが移ってもいいのかと聞いている!」
「クッ!なんて卑劣なやつなんだ」
まさかそんなわけはないと思いつつも、人質にされた奴が本気で泣いてしまっていたので、仕方なく泥棒を釈放した。
「ふっ、それでいいんだ」
しかし、その一瞬のスキを俺は見逃さなかった。
すかさず、ブッスーの後ろに回りこみブッスーを逆に人質に取ってやったのだ。
「フハハハハハ!お前らこのブスがどうなってもいいのか」
釈放された泥棒たちはこちらを一瞥すると、関係ないとばかりに逃げて行った。
「お、おい!俺が助けてやったんだぞ!」
「ブッスー、なんかごめん」
「謝るなぁぁぁあああ!」
それから人質をとることは禁止とされた。
===========
「てことで!人質をとるというのはそれくらい効果的である反面、人質自体に価値がなかったら意味がない!」
「さらっとひどい話でしたね」
その話を聞いて少し悲しそうな顔をしている。特に半野は思うところがあるのか、深刻そうな顔だ。
だが同時にあの顔を思い出して納得してしまったのだろう。
「まあ、仕方ないよね」
おい、今言ったの誰だ。
「でも、人質の価値がある人なんてそうそういないんじゃないですか?」
全く甘いぜ。
チッチッチと指を顔の前で振ってやると指を掴まれる。
「いててててててて!痛いって!」
こいつ、加減知らないだろ。少なくとも先輩に対してすることじゃないぞ。
「今日はいるだろ。うってつけの人物がさ」
それに真っ先に反応したのは、やっぱりこいつだった。
「優ちゃん!」
「そゆこと」
野薔薇優。大人気アイドルともなれば学園側も放っておくことなどできまい。
「そうと決まったら早速行動だ!」
そして真っ直ぐに歩いていく。
「どこ向かってるんですか?」
「え、知らないけど」
「目的地決める前に進みだすのもうそろそろやめません?」
なんともうるさい奴だなぁ。
「じゃあ、どこに行けばいいんだよ」
「私もわかりませんけど……」
「チッ、なら言うんじゃねぇよ」
少し小声でガチっぽさを演出してみる。
するとどうだろう、効果覿面黙らせることに成功した。
でもちょっと静かすぎない?チラッと顔を覗き込んでみると、
「ええ!ごめんごめんごめん!冗談だから!泣くなって!」
「な、泣いてません!」
目元を腕でこすりながら、そっぽを向く。
絶対泣いてるじゃん。
「うわぁ……」
「ひどい」
「サイテーです」
他の一年生からは白い目で見られる始末。
「いやこれあれだって!今から人質取りに行くっていう悪辣な行為をしようとしてるから、その練習なんだって!」
俺の言い訳は誰も耳を貸してくれない。
「き、気にしてませんから大丈夫です。それより早く行きましょう」
絶対大丈夫じゃないじゃん!さっきまで人質反対派だったじゃん!
しかし、俺が謝ったところで解決するわけではないのだろう。仕方ないので先へ進むことにする。
「野薔薇優ちゃんは多分だけど実況と同じ場所にいる」
「じゃあ、放送室か。いや、確か最後のイベントはいつも外でやってるからそこか?」
タイミングさえ合えば、大勢の前で人質をとることに成功するだろう。
第二グラウンドへ向かうべくササキに道順を聞く。
「これ、先輩がいる意味ないですね」
「むしろ、悪いことしか起こらないね」
一年生からのあたりが強い気がするのは気のせいかな?