16話
よし、まずは落ち着こう。そして、今の状況を整理するんだ。今ここには去年の惨劇を知っている人間が四人。そして一年生が二十人。いや、多くね?
「さて、まずは役割分担をしよう」
「本当に鶴折ってるし……」
「だ、誰だ。今日は誰が噛みつくんだ」
落ち着くために高精度で鶴を折り続ける。
意外にもみんな俺の話を聞いてくれているようだ。一人を除いてだけど。
安心しろ委員長は今日はいない。
「ところでさ、脱出ゲームってなにすんの?」
「わかんない」
「それなのに仕切んなよ!」
猿が最もな疑問を口にする。言われてみれば、何をすれば脱出成功になるんだろう。脱出と言っているくらいだから、ここから出ればいいんだろうな。そしてみんなで力を合わせてという言葉……
「はぁ、いいですか。脱出ゲームっていうのは」
「なるほど!分かったぞ!」
前花が何かを言いかけていた気がする。でもいいや。多分今から俺が言うことと同じだろう。
「みんなで力を、合わせてここから出ればいいんだ!つまり」
「つまり?」
「正面突破だ!」
「ええええ!!?」
数人驚いている気がするが、この人数の正攻法はそれしかない!
「よし、やるぞ!」
早速扉の前に立つ。
「おい、そこにあるやつ持ってきてくれ」
数名の一年生は素直に従ってくれる。あれは確か、サルと一緒になって人生ゲームやってたやつらだ!
そして持ってきたのは、全長およそ三メートル直径五十センチほどの長い棒だった。
「よし、みんなこれを持て」
「これ持ってどうするんですか?」
「まあ見てろ」
気になったのか天堂が話しかけてくる。
まずはデモンストレーションとして俺とブッスー猿の三人で見本を見せてやろう。
「こうするんだよ!」
「おらあ!」
「ふんぬ!」
そうして三人で持った棒は思い切り壁に激突する。
「やっぱ一回じゃ無理か」
「えええええええ!!?嘘でしょ!?」
さっきからずっとそれ言ってんな菊川。
「なるほど、そういうことですか!」
俺のやろうとしていることに気づいた天堂は率先して棒を打つ手伝いをしてくれる。
他にも賛同した一年生は続々と棒を持ち始める。
「いいか!ここで俺たちの力を合わせるんだ!」
「「「「おおー!」」」」
「俺たちの前にある障害は?」
「「「「壊すだけだ!」」」」
「や、やめてくれええー!」
不思議そうにしている、他の面々に先程アリーナで起こったことを説明してやる。
「いいなそれ!」
「俺も気に入った!」
よし、もう一回だ!
「俺たちの前に立ち塞がるものは何であろうと」
「「「「「排除する!」」」」」
「あああああああああ!!!!」
そして次の瞬間。扉をぶち破ることに成功した。
「やったぞみんな!俺たちの力を合わせた結果だ!」
「やったね!」
「へへっ」
みんな一様に喜んでいる。無事脱出することに成功した。去年とは違うところを見せつけてやったんだ。これで嬉しくないはずがない。
「こ、これどうなってるんですかーー!!」
そこにまたしてもお姉さんが現れた。
「どうもこうも脱出したんですよ俺たち!」
成功を報告すると、下を向き肩を震わせる。
「こんな方法認めません!」
「え?」
「学校壊してどうするんですか!」
なん、だと……?あの棒はこのために置かれていたものじゃなかったとでもいうのか?いや、それは考えにくい。ならば、これはまだイベントが続いているということ?
……そういうことか!
「おい!お前ら!全員逃げるぞ!」
その言葉を聞いて猿とブッスーは悟ったようだ。一年生は本気で反省している奴が数名いるが、そんなんではこの先、生きていけない。あいつらはそれぞれの担当の奴らに任せるしかないだろう。
ていうか、殆ど例のボッチ空回りブラザーズだったわ。
「一年生はそれぞれ二年生に続けええええ!!」
俺たちは、部屋を出て真っ直ぐの道を進む。そして十字路に差し掛かった。
「ここからはしばしの別れだな」
「死ぬなよ……」
「お前らもな!」
そして俺猿ブスは三方向にそれぞれ一年生を引き連れて別れる。
意外にも地図を取り上げた一年生はブッスーについていった。後ろを振り返り今一度確認する。
「ブッスー追い抜かれてんじゃねぇか!」
その後もしばらく走り続け、佐々木の体力も限界のようだったので止まる。
「ここまで来ればもう大丈夫だろう」
「せ、説明してください。どうして逃げたりなんかしたんですか」
息を切らせながら前花が聞いてくる。
「それはだな。脱出ゲームがまだ終わっていないからだ!」
それを聞いた面々は全員が目を見開いた。天堂だけが俺の言いたいことに理解を示したようだ。
「俺たちがしていたのはなんだ」
「脱出ゲームですけど」
「そうだな。じゃあ菊川、本当に捕まって、そこから脱出した時それで終わりだと思うのか?」
そこまで聞いてようやく他の面々も理解したようだ。
「つまり、追手から逃げるまでがゲームってことですか」
「そういうことだ」
得意げに言ってやると、そこで待ったがかかる。
「いや、あのお姉さん本当に困ってるみたいでしたよ」
「へ?」
「私一番後ろにいたから、ちょっと聞こえちゃったんですけど「これ、どうしたらいいのよ~」って言っていました。あと、本気で涙目でした」
「なるほどね……」
…………マジで?