13話
「今何時だ!?」
俺は急いで時間を確認する。だいぶ話し込んでしまった。残り時間は少ないと見て間違いないだろう。
「えと、九時五十分です」
斎藤が冷静に答えるが、俺は冷静ではいられなかった。
「五十分!?もうあと十分しかねぇじゃねぇか!!」
俺一人だけが焦っている。他のみんなは結構ドライ。なぜだ。
「なんで君らそんなやる気なさげなの!?一年生のための企画だよ!!」
「いや、もうどうせ間に合わないですし。着いた場所がゴールであるとも限らないんですから、もういいかなって」
菊川が答えるが、俺はそんなの認めない。
「天堂は!?さっきまでやる気満々だったじゃん!」
「なんか冷めました」
「冷めんの早っ!?!!?」
天堂は髪先をいじりながら右下の方を見ている。
ゴール目指そうって言ってたじゃん!力説してたじゃん!この数秒の間に何があったんだよ!?
俺がどうしようかと悩んでいると、予想外の人物が名乗りを上げた。
「まあこのまま突っ立ってるのもなんだしやるだけやってみようぜ」
「半野くん!お前はやっぱいい奴なんだな!!」
照れているのかこちらと目を合わせようとしない。
「照れてんの?」
緩慢な動きでこちらを見てくる半野。
怖っ!睨んでるだろそれ!!
しかし今はそんなことを考えている暇はない。
「さて、さっき言った条件でここから1番近い場所は…………どこだ?」
あれ?俺たち今どこいんの?何も考えずにひたすら歩いてたから自分がどこにいるのかもわかんねぇ。
「ここはどこ!?」
「え、先輩わからないんですか?一年もここに通ってて?」
前花がさらっと煽りを入れてくる。
そこに、また予想外の方向から声が飛んできた。
「第三アリーナ」
「え?」
「ここは西棟の三階。1番近い開けた場所は第三アリーナ。渡り廊下を使えばすぐに着く」
一瞬の静寂。
「お前すげぇぇな!」
今の場所だけでなくゴール(仮)までの最短ルートまで提示するとは。新入生とは思えないほど熟知しているじゃないか。
しかもそれをしたのがササキ……あのちみっこだということにはさらに驚きだ。
「暗記は得意」
テンション上がってきたァァァ!
先ほどまでやる気のなかった一年生も希望が見えてきたことでやる気が出てきたようだ。
「よっしゃぁ!行くぞオラぁ!!!」
「っしぇい!」
誰だ今の声!?
しかしそんなの気にならない!ゴールまで一直線だ!
俺を先頭に隊列を組んで全員で走り出す。
二列縦隊だ!
「いや、お前ら行儀良いな!?」
「ごめんはなさい、テンションについていけないです」
「前花が一人置いてかれているようだが、そんなの気にならない、行くぞオラァァ!!!」
「それわざわざ口にする必要あります!?」
「あるんだよ!行くぞオラァァ!!!」
「一々最後のそれ口に出さないでください!」
「む?」
前花の言葉をことごとく無視して走り続けると、障害物のようなものが見えてくる。
これでは渡り廊下を通ることができない。
「どうするんですか?」
菊川が効いてくるが、何も思いつかない。
「どうしよね」
「何も考えてないんですか……」
菊川に呆れられる。しかし俺は悪くねぇ。ここに障害物設置した運営が悪い。
どうしようかと悩んでいると後ろから野太い声が聞こえてくる。
「んなもんぶっ壊せばいいだろ」
「え?」
「ちょっと、待っ……」
ドゴン
菊川の制止する声も虚しく、発言した本人半野は障害物をその怪力を持って吹き飛ばす。
「お前なぁ」
「なんだよ」
「まあやっちゃったもんは仕方ないか」
菊川と半野が何か話しているが、もう時間がない。制限時間ギリギリだ。
「おい、行くぞお前ら!」
渡り廊下を抜けると、アリーナの入り口が見えてくる。そしてそこには、結構な数の人影が見える。ここがゴールの一つであることは間違いないようだ。
ハァハァハァ
「どうにか間に合ったみたいだな」
「はぁ、こんなに走ったの久しぶりだよ〜」
「ハァハァハァ」
「あとはここが俺たちのゴールかどうかってことだけだな」
「ハァハァハァ」
「まあそこは天の神様の言う通り、ですね」
「ハァハァハァ」
「うるせぇな!いつまで息切れしたんだよ!」
ここについてから、ずっとササキが肩で息をしている。いい加減ツッコまずにはいられなかった。
「ハァハァハァ」
どうやら返事をする余裕すらないらしい。
と、そこで。
「タァァイムアァァップッ!これにて第1ゲームを終了します!!」