12話
猿とブッスーに無事メッセージを送った俺は、顔を上げて驚くことになった。
いやー、ブッスーの試合が中止になって助かったぜ。
「なんで誰も動かねぇんだよ」
ほとんどが気まずそうに顔をそらす中、1人天堂は胸を張ってこう言ったのけた。
「なんでって、そんなの私たちに友達がいないからに決まってるじゃないですか!」
「なんで自慢気なんだよ!!胸張って言うことじゃねぇだろ!」
マジかよ、こいつら。ていうか、
「やっぱりお前も友達いねぇんじゃねぇか!」
俺はさっきまで友達がいると言い張っていた前花を見てつい口走ってしまう。
しまった、これはツッコんではいけないところだったか。
「ちゃんといますよ!!私はもう連絡し終えただけですぅ!」
「あ、ふーん」
「その目は絶対信じてませんよね!?ほんとですから!」
軽く流してやると、いちいち噛み付いてくる。めんどくさいやつだなこいつ。
ていうかこれ、詰んでね?
ピロリン
そこに、俺のポケットからメッセージの通知を知らせる音が聞こえてくる。
どうやら、猿かブッスーのどちらからが返信してくれたみたいだ。
『すまない、俺は地図を下級生にとられて何もできない。どうやら、彼らは俺と話したくないらしい。役に立たなくてすまない』
…………
「ブッスゥゥゥゥ!!!!」
「「「っ!?」」」
俺が急に大きな声を出したことによって、驚いた一年生たちがこちらを訝しげな目で見てくる。
「ど、どうしたんですか急に?」
代表して菊川が聞いてくる。
どうやら、若干頭おかしいやつだと思われ始めたらしい。明らかにこちらのことを引いた目で見てくる。
「あぁ、友達のことを思ったらつい、な」
「友達のこと思ってブスってひどくないですか!?友達泣きますよ!」
はぁ〜、全くこいつは。
「前花、お前は分かってないな。友達だからこそ許せる軽口ってのがあるんだぜ?」
「なんで私呆れられてるんですか?本人がいないところでわざわざ言うことじゃありませんよね?」
にしても、ブッスーがダメだったから、あと頼れるのは猿くらいか……。無理だな。
「あー!クソ!半野はわかるけどなんでお前ら全員友達いねぇんだよ!!」
「俺はわかるって……」
「あはは……」
ちょっと気まずい雰囲気になってきたところで、ササキがさらに爆弾を落とす。
「そもそも、友達がいる方がおかしい……」
感情のこもっていないその目にはなにがうつっているのだろう。本当につっこんではいけないところであることを、ようやっと俺は認識した。
さっきよりさらに気まずい雰囲気が流れる中、それを全く意に返さないように、陽気な声で発言する者が一人。
「さて、そろそろゴール目指しましょうか!」
天堂明里。まるで、ザリガニ釣りに行くかのような軽さで言う。
「目指すって言ったって、目的地が分からないんじゃどうしようもなくないか?」
菊川が当たり前のことを聞く。それまで何も無駄に話し込んでいたわけじゃない。ゴールが分からないから動けずにいた。だというのに、こいつはゴールを目指すと言っている。どういうことだ?まさかっ!?こいつゴールを知っているのか?それなら今までの俺たちを見て嘲笑っていたとでもいうのか!なんて意地悪なやつだ!
「確かにゴールは分かりません」
「はぁ?じゃあどうやって……」
「でも、目星は大体つきますよ」
んぁ?皆がクエスチョンマークを頭の上に浮かべる中、天堂は説明を続ける。
「基本的に私たちが普段使う教室は分かりやすい位置にあり、集まっています。今回のゲームはまだ慣れていない新入生が校舎の構造を覚える一面もあると思います。よって、ゴールは普段使わない特別教室や講堂などであることがわかります」
確かに、言われてみればそうかもしれない。こいつ、ただのアホな子だと思っていたが、どうやらそれだけではないらしい。
ひたすらドヤ顔を続けているのはきになるが、俺は真顔を意識する。誰も気にした様子はない。いつものことのようだ……ってみんな考えてたらおもしろいよね!
「そして、どうやら実行委員の人数はそんな多くないみたいです。ね?先輩」
「今年は少ないらしいな」
今年はものすごく人数が少なくて常に有志を募っていた。人がいないとわかっているのにわざわざやろうとは全く思わなかったけどな。
「ということは、ですよ。ゴールの数もそこまで多くはないはずです。そしてゴールの数が少ないということは必然的にそこに集まる人数も多くなるはず。なら、できるだけ人が多く入れる場所。講堂や体育館などですね」
「「「…………」」」
一瞬静寂が流れ、全員が動かない。しらけたかと思われたが、それをぶち壊す者がいた。
「おい!急ぐぞ!」
俺だ。
俺かよ!