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3 闘い終えて日も暮れて


 結局付き添いの先生に懇願され、霧香たちはその後の予定すべてに付き合うことになった。

 無重力体験と昼食会、お昼寝が終わるとみんな午前の出来事の細かいディティールは忘れて、きょうは宇宙人と会えてよかったねー!という思い出に脳内編集していた。

 最後はとっておきの深宇宙船発着桟橋見学。

 特大のフォースフィールドが張られた桟橋は隔壁で遮られることなく宇宙に向かって開いている。ずらりと並んだスターシップの一群にちびたちは眼を輝かせた。


 帰りの軌道降下線(ビーンストーク)機内では、ありがたいことに揃って寝オチした。

 悲しいかな、霧香たちはスタミナが有り余ってるため、ミニ怪獣35体相手でも疲れ切りはしない(精神的にくたびれたのは別として)。

 眠れないので、霧香は灯りを落とした与圧キャビンの通路を歩き、電池切れしたちびっこたちの寝姿を眺め回った。

 環状キャビンの壁一面が窓になっていて、降下中のタウ・ケティマイナーが刻一刻と大きさを増していた。だが夜の側になっていたので、こどもたちにとってはあまり面白くない景色だ。

 パトロールを終えた霧香が満足してシートに戻ると、隣でフェイトが身体を伸ばして「ウーン」と喘いだ。

 遠足後半では彼女がいちばん絡まれていた。小さな挑戦者たちにタックルされたりなんども屈伸して抱え上げたり、けっこうしんどかっただろう。

 「あーあ、これも仕事とは言え……」フェイトは溜息混じりに言った。

 「ボヤかない。わたしだって小さなおっぱい星人にタックルされまくったし」

 「そりゃあんたの哺乳びん見たら男の子はホームシックになるわよ」

 「やかましい」

 「少なくともあたしより愛されてたろ。……ねえ、これってあたしたちが三人も派遣されるようなこと?」

 「わたしも先生含めて五人は過保護かな、と思ったけど、結果的には適正人数だったし……」

 「おトイレに連れてく人数が減ったって意味ではね!本来はレクチャーだけだったんだから」

 「……ま、それは認める」


 設立間もないGPDは慢性的な人手不足だ。

 なのに仕事の狭間に長い待機状態が生じる。これは任務の性格上仕方ないことなのだ

 べつの星系に派遣されるだけで往復に最低十日間かかる。だからGPD案件は絞って割り振るしかない。宇宙でいま現在起こっているすべてに対処するには数十倍の人員が必要なのだが、そんなマンパワーも予算もなく、結果として保安官が遊兵化してしまう期間が長くなる。

 「だいたいこういうのってルーキーに任せないでしょ?。大尉クラスのベテランがやるべきよ、大事な広報任務なんだから」

 「打ち合わせに広報課行ったけど保安官2人しかいなかったよ。あとは全員民間事務人だった」

 「あんたはいいよホント楽しそうだったし。でも覚悟しときな、あの腕白(わんぱく)チビのことが両親に伝わったら始末書もんだから」

 霧香は眼を丸くした。「そんなおおごとだった……?」

 「どうかね」反対側のシートで眠っていたクララが不意に喋りはじめた。「まあ霧香はすごいお手柄立てたんだから、大目に見てくれる……かも」


 そのお手柄というのはもう二ヶ月もまえのことだ。

 霧香は初任務で救出活動を成功させ、ついでに800年近くまえの遺伝子伝搬船を発見して、ちょっとした話題になった。

 「けどあれっきりろくに仕事してないのよね」霧香は溜息を漏らした。「星系内パトロール艦に一度乗っただけ」

 手柄ひとつで特別扱いしてくれるような職場ではあるまい。そんなのは民間からのクレーム一件で吹き飛んでしまうのは間違いなかった。

 「それ言ったらあたしとクララなんか、あんたより半年早く任官してるのに、ろくな成果無いよ?」

 クララは肩をすくめた。「警察の仕事なんて普通そうでしょ……地道な捜査の積み重ね、成果が出て報われるのはたまーに」

 フェイトは噛んで含める口調でなおも食い下がった。「あたしが言いたいのはその、お尋ね者を追跡したり証拠集めしたりしてるはずのあたしたちが、暇そうに見えるってことなの!……本当はあの超優秀な主席が全部持ってっちゃってんじゃない?」

 クララも霧香も首を振った。「わたしたちルーキーだから、そりゃ無いでしょ……いくらヒアリードでもさ」

 とはいえ、霧香たちと同じ代の主席卒業生、ヴィーナス・ヒアリード少尉が超優秀なのはたしかだ。忙しそうなので、子守りを押しつけられることもなかった。

 「とにかく、今日は貴重な経験した。世間のママがどうして腰を辛そうにさすってるのかよく分かった。あたしゃ当分子供はいいや……」そう言ってフェイトはシートを倒し、寝返りを打った。

 クララも横になってしまったので霧香はシートに保たれ、物思いにふけった。

 実際ちびっこたち相手の仕事は楽しかった。

 やっぱり、AIジョブカウンセラーはものの見事に霧香の天職を言い当てていたのか……

 認めたくなかった。多少腹立たしい。

 「ねえ」しばし間を置いて、霧香はふたたび口を開いた。「あの男の子が蹴飛ばそうとした瞬間に素早く阻止できなかったの、やっぱり気になる?」

 「当たり前でしょ」フェイトが背中を向けたまま即答した。

 「なんだ、あんたたちも?」クララも打ち明けた。

 「そうすべきだったけど、わたしちょっと足が竦んだな……」

 始末書がどうのという話はわずらわしいだけだが、あの子の危機を見過ごした点はずっと気になっていた。

 「でも冷静だった、とも言えるよ」クララが言った。「わたしたちは危険はないと知っていた。あの場で慌てて動いたらかえってパニックになっていたと思う」

 「ふたりとも、もう気付いてるだろ?終始マイペースで主導権握ってたのはあのイグナト人だった。あたしたちはオタオタしただけ。IFは程々にね。それよりつぎはもっとうまくやるって考えなきゃ」

 霧香は頷いた。胸の内を吐き出してみると、言葉以上に楽になった。

 「ありがと……分かった」



 ビーンストークに乗る直前には、本部に任務完了の報告を入れると、そのまま帰宅して良いということだった。しかし3時間後にハイフォール沖の宇宙港に到着して園児たちに別れを告げると、撤回指示が届いた。


   GPDHQより至急電 霧香=マリオン・ホワイトラブ少尉 宛 

   

   すみやかに本部マルコ・ランガダム大佐オフィスまで出頭すべし。


 「ゲッ!」携帯端末の簡素な一文に霧香は背筋を凍らせた。

 園児の親御さんに遠足の記録ヴィデオが配布され、誰かが怒り狂ってGPDに猛抗議したんだ……!


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