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1 GPD VS 怪獣

西暦3110年。恒星間大戦に敗北した人類は銀河連合の末席に連なることとなった。同時に銀河警察GPDの人類版創設を要請された。

 それから17年。霧香=マリオン・ホワイトラブが入隊した時点でGPD職員は約15万人。人類領域は直径200光年、52の植民恒星系すべての星間犯罪をたったそれだけの人数で取り締まらねばならないのだ。慢性的人手不足で新米隊員霧香は右往左往の日々……?


 とてつもなくあいだが開いてしまいましたが続編開始します。


 「わたしの名前は霧香=マリオン・ホワイトラブです!みなさんこんにちわ!」

 「こにちわー!」

 霧香の挨拶に35人の黄色い声が応えた。

 「元気いっぱいですね!わたしたちはGPD、すなわちギャラクティックポリスデパートメント、簡単に言うと銀河パトロール隊員なのです。本日はみんなに宇宙人のことをいろいろお話しします。よろしくね!」

 「よろしくおいまいしま~す!」不揃いだが威勢のいい声に混じって、「ウッソだぁ」というのも聞こえた。

 五歳のちびっこたちにとって「銀河パトロール」はカートゥーンアニメの話である。


 床にしゃがみ込んだ35人の園児に対峙する霧香の背後に、ふたりのGPD隊員が控えていた。

 そのふたりは不動の姿勢のままひそひそ言葉を交わしあった。

 「なんかさぁ、マリオン嬉々としてない?」

 「だってあの子、ジョブカウンセラーに幼年学校の先生勧められたの振り切ってGPDに志願したんだもん……」

 「あいつが幼稚園の先生!?」吹き出しそうになって顔をうつむけた。肩が震えていた。「なるほど……身振り手振りや言葉選びとか、妙に堂に入ってるわけだ……」


 「それではわたしの同僚を紹介しますよ!」

 霧香の声に背後のふたりは背筋を伸ばし、両脇に一歩進み出た。

 「こちらのお姉さんはコウヅキ・クララ少尉」

 紹介されたクララは軽く手を振って幼稚園児たちに応えた。

 「おねえちゃん背、ちーさい」手前の男の子が無慈悲にも呟いた。となりの女の子がそれに答えた。「にほんじんだからよ」

 コウヅキ少尉は事実身長165センチしかなく、おそらくGPDでいちばん背が低い。身長174センチの霧香でさえ地球=タウ・ケティ圏では平均身長下限ギリギリなのだから、園児の指摘も無理はないが……。

 とにかく、クララはほんの微かだけ口端をひくつかせて耐え抜いた。

 「……エー、こちらは、フェイト・ハスラー少尉!ふたりともわたしの同僚です!」

 身長190センチのフェイトは無言で園児たちを睥睨した。拍手しかけたこどもたちはすぐに止めた。

 保安官に愛想はいらない、というのが彼女の持論だ。だが実際には敬愛するローマ・ロリンズ教官の真似をしているに過ぎない。

 (子どもに睨みきかせてどうする!)霧香は内心舌打ちしたが満面の笑顔を維持した。

 うしろの園児が手を上げた。

 「ハイ、えーとダグ・ヴォネットくん、なにかな?」

 「マリオンおねえちゃんだけなんで水着なの?」

 GPDのコスモストリング姿なのは霧香だけで、クララとフェイトは背中にGPDと大書きされた紺のナイロンジャケットを着込んでいた。

 「いい質問ね!」霧香は黒いヒモビキニを見下ろしながら言った。「これは水着みたいだけど、じつは宇宙人にもらったスーパーコスチュームで、弾丸やビームや放射能を跳ね返しちゃうのです」

 「ウソ~!」

 「ホントだよ~。だけどなんでこんなにはだかっぽいかというと、それには理由がちゃんとあります。分かるかなー?」

 園児たちは首を横に振った。

 「なぜならぁ、天の川銀河に700種類もいる宇宙人のほとんどが、服を着ていないからです!だから地球人にこの「コスモストリング」をくれたリーグ人も、水着でじゅうぶんと思ったのね」

 「へぇ~!」

 眼を丸くして注目している園児の様子に満足した霧香は、話を続けた。

 「そうなの、さあそれではタウ・ケティにやってくるおなじみの宇宙人さんたちについて、いろいろ覚えてもらいましょう。ここには宇宙人さんも訪れますから、みなさんも本物と出逢うかもしれません」言いながら園児たちの背後に手を振った。35のおつむが一斉に背後を振りかえった。


 「ここ」というのはタウ・ケティマイナー第一静止軌道都市群(ジオステーシヨンハブ)――全長3マイルに達する人工天体だった。

 首都ハイフォール沖の宇宙港と1本のロープ(スカイフック)で繋がれ、タウ・ケティマイナー上空二万マイルを惑星の自転とおなじ一周25時間で周回している。

 ハイフォール第32公共教育学園幼年部――つまり霧香の故郷でいう幼稚園のちびっこたちは、生まれて初めて惑星の外……宇宙空間を体験している。

 つまり遠足。

 その遠足行事の一環として、GPDは教育庁からレクチャーを依頼された。


 「それじゃ27年度生から成績優秀者を派遣して差し上げろ!」


 ランガダム大佐の無慈悲なひと言によって、たまたま手空きだったコウヅキ・クララ(卒業生次席)霧香=マリオン・ホワイトラブ(三席)フェイト・ハスラー(四席)が抜擢された。


 ひとあし先に上がった霧香たちは到着ゲートで園児たちを出迎えた。カオス理論の見本のような集団で、「これはちょっと一筋縄では行かないぞ」とすぐに直感した。

 お出掛けに興奮したちっちゃな怪獣たちに秩序をもたらし、ゲートからわずか500メートル離れたラウンジに誘導するのに(自動走路を使ったにもかかわらず)30分を要し、ようやく床に座らせた。

 おそろいの園児服と黄色い帽子の怪獣たちは駆けずり回りたいのを堪え、座ってちっぽけな膝小僧を抱え(しぶしぶと)霧香に注目した。

 始まったばかりなのにたいへんだ……と思った。


 園児たちの背後には、おそろしくだだっ広い空間が柱もなく続いている。惑星に面した乗り換えステーションの表面部分に位置しており、よく見れば球面の内側なので床が湾曲していた。いっぽうの壁一面と床の一部は透明で宇宙が見渡せた。抑えられた陽光のおかげで黒で統一されたフロア全体が明るく、星空と一体化している。

 宇宙からの訪問者はタウ・ケティマイナーを床の透明窓から眺めつつ、軌道エレベーター発着場まで自動走路を移動していた。

 行き来しているのはほとんど人間だが、ごくたまに異星人もいた。園児たちが眺めているあいだにも、異様な物体がふたつ、通り過ぎようとしていた。

 「うちゅうじんだ!」「うわ~」

 歓びとおっかなびっくり半々の声。

 「そうですねえ。あのひとたちは?だれか知ってますか?」

 「ウークじん!」ひとりが手を上げると同時に答えた。

 「正解です!」霧香は拍手した。「ウーク人は植物異星人なのです」

 「でしょでしょ?パパはそんなわけないって言うんだ!」

 高さ1メートルの樽のような胴体のてっぺんから数十本の触手を生やしたサボテン、そんな姿である。いっけんラウンジの観葉植物じみているが、この10年ほど異星人はメディアで取り上げられ続けていたから、間違う人間はまずいない。

 ごつごつした表皮が茶色なので樹齢500年の第一期老成体のようだ。

 なにが注意を引いたのか、そのウーク人ふたりが自動走路を降りて霧香たちに近づいてきた……。

 ちびっこたちは本格的におびえる一歩手前で身を竦めた。

 ホロでおなじみの姿とは言え、切り株かサボテンが無数の節足で、しかも人間並みの歩行速度でにじり寄ってくると不気味だ。

 園児の背後に立つ付き添いの先生ふたりもたじろいでいる。

 霧香は落ち着いた足取りでウーク人を迎えに進み出た。

 「ハロー、ウーク人のみなさん!」両腕をひろげて歓迎した。

 ウーク人ふたりは触手をざわつかせて「シュ、シュ、ブホッ」と音を発した。胴体に張り付かせていたユニバーサル・コミューターから翻訳語が聞こえた。「初めまして、人間、珍しい、小さな人間」

 あたりがさわやかな柑橘系の香りで満たされた。

 こどもたちのあいだで「わぁ」という歓声が沸きあがる。

 「いい匂い!ウーク人はあなたたちに出逢ってとても喜んでるみたいよ」

 霧香は右手首の携帯端末を操作して、GPDを表すピクトグラムを頭上に投影させた。そのピクトグラムとウーク人のコミューターのあいだで電子的な挨拶が交わされ、間もなく異星人も状況を理解した、と見えた。

 ちびっこたちもオレンジの香りにリラックスしはじめていた。

 「ウーク人は人間のような名前がありません。木だから。このひとたちはこれから、タウ・ケティマイナーに降りて、そこで第二の人生をはじめるんです。どういうことか分かる?」

 「わかんなーい」

 「彼らはねえ、静かな森の中で根っこを張るのよ。本当に木になってしまうの」

 「えー、しんじゃうの……?」

 霧香は首を振った。「ううん、ウーク人さんたちはだいたい500歳になると、結婚して地面に根っこを張って、そうして初めて赤ちゃんを作れるようになるのよ。つまり大きな木になってお花を咲かせて、リンゴに似た木の実を実らせます。それがウーク人の赤ちゃんなの。リンゴの木は自分の枝になった実にひとつひとつ名前を付けないでしょう?だから名前がないのね。そうしながら彼らは1000年も生き続けるのよ」

 「すごーい!」「ながいきー」

 「彼らがこの星を選んだのは、平和なのでたくさん赤ちゃんを作れると思ったからなのです。嬉しいことですね?それではさいごに、ウーク人と仲良しになる方法を教えましょう。フェイトお姉さんよろしく!」

 「マジかよ」フェイトは顔をしかめつつ上着を脱いだ。

 「みんな注目、ウーク人に近づくとどうなるか……」

 こどもたちが固唾を呑んで見守るなか、フェイトは一歩一歩、ウーク人と距離を縮めた。

 50センチまで近づくと、触手が一斉にフェイトの上半身に巻き付きはじめた。

 「キャ!」こどもたちが悲鳴を上げて飛び上がった。

 「大丈夫ですよーん」ほぼ触手に巻き付かれたフェイトがなんとか片手を振って答えた。

 「これがウーク人のハグです。彼らは人間の皮膚に付着した汗や垢が大好物なので、我慢できずに抱きついてしまいます。嫌だったら近づきすぎないでね」

 「たべられちゃうの……?」

 「ううん、違うよー。よけいな汚れを拭き取ってキレイにしてくれるの。これをしてくれたらウーク人はそのひとを匂いで覚えてくれるから、仲良しになりたかったらハグさせてあげてね」

 「ぶは!」ようやく触手から解放されたフェイトが体を起こした。見るからに肌つやがよくなっていた。安心したこどもたちが拍手した。

 「あらまあ……」引率の先生がひどく興味を引かれている。

 「それではウーク人さんにお別れを!」

 「稀少栄養素をありがとう!さようなら人間の幼生たち!大きな花を咲かせてください!」

 「さよーならー!」ちびっこ人類と植物異星人はお互いに腕を振りながら別れた。

 なかなか感動的であった。


第10話までハイペースで更新させていただきます。

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