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海人の短編集

追放

作者: 海人

〜彼女サイド〜


私はキューピッド。

『他人』の恋を成就させ、幸せを見守る者。

だけどあくまで『他人』の恋であり、自分の恋ではない。

わたしが恋しても、相手は苦労するだけ。忙しくて構ってやることもできないだろう。

『他人』の恋を見守る私にその資格はない。


だけど、私にも好きな人(?)はいる。

それを隠しているだけ。

その人は仕事仲間だ。優しくて、いつも笑っていて。それでいて心の奥に悩みを持っている。

その悩みがなんなのかはわからない。

でも私は笑っている彼が好きだった。叶うはずがない。恋は報われることなく、欲望だけが溜まって行く。

あの人と一緒に生活できたら。あの人が、私のことを愛してくれていたら。

そう思い、毎日が過ぎて行く。


あの人はキューピッドをやめた。

普通の天使になり、普通に暮らすことを選んだ。

キューピッドを止めるのは容易なことではない。

ただでさえ人員不足なのだ。

やめた時点で『元』同僚に恨まれる。今まで優しかったものも冷たくなる。私は…。


みんなに合わせた。仲間外れにされるのは嫌だった。あの人のことは好きだけど、一人は嫌だった。一人になったところでいいことはない。だって寂しいんだ。だれかに一緒にいてほしい。そう思っていた。

一緒にいてほしい…。私は彼に一緒にいて欲しかった。一人は嫌だった。だから私は救いを求めていた。それは恋という形で現れた。彼を愛すことで、一人ではなくなろうとしていた。


次の休暇で彼に想いを伝えよう。

例えそれが報われなかったとしても私の本心が伝えられればそれでいい。そう思った。



〜休暇の日〜


ついに運命の日。前日に彼に連絡して、待ち合わせ場所を言ってある。

「お待たせ!待った?」

彼は相変わらず、笑って気さくに話しかけてくる。

良かった…。変わってない。

「ううん。待ち時間もいいものだよ!」







彼女は不完全な恋の道を歩む。それが報われなかったとしても。彼女の望まむ結果になったとしても、彼女には戻る場所がある。


彼は完全な恋の道を進む。それは確実に報われる。彼の望む結末が待っている道。彼には戻る場所はない。


不完全な恋の道と完全な恋の道は交わることがない。故に二人は結ばれない。



今のままでは。



不完全な恋の道は少し直せば完全な恋の道へと成り上がる。


その方法はただ一つ。


彼と同じ行動をとり、自由を獲得すること。

しかし、そうしてできた道は直しただけのもの。直したところが壊れれば、逆戻りする。

彼女は幸福の絶頂から不幸のどん底へ突き落とされる。

それはいつか起こることである。

彼女がそれを望まなかったとしても。



運命には逆らえないのだ。




「ねぇ。私ね、あなたが職場にいる時からあなたが好きだった。」


「え?あぁ、プロポーズかい?それなら他の人にしてくれ。僕が仕事を辞めたのは愛する人ができたからだって分かっていただろう?」


冷静に考えればわかること。彼女は彼のことを考えるあまり、思考がオーバーヒートしていたのかもしれない。本質を考えない彼女は、戻る場所をなくす。




〜数年後〜(彼サイド)


キューピッドの新入生には講習が行われる。


「絶対に恋はしないでください。恋をした結果、この国を出て行くことになったキューピッドがいます。彼女のような人を出さないためにも恋はしないでください。」


彼はあのデート(?)の後、後悔していた。あんなに強く言う必要はなかった。

彼は自分の意思で結婚したわけではない。

ただ親に逆らえなかった。何か言われた時はあのように言うようにと言われていたのだ。あの件があってから親にあんなに強く言う必要はないといったところ、


「あんな風に言わんと諦めないじゃろう!」


と逆ギレされたのだ。

本当に愛していたのは彼女だった。

なのに…。


その教訓を生かすため、彼は教官になった。仕事を任意退職(この世界では自分で仕事を辞めることをこう言う。)していたことで評価は下がったが、実績はあったので見事合格した。そこからは楽だった。あっという間に出世し、講習を開くほどになったのだ。

講習を開くたび彼は昔のことを話す。彼女は今どこで何をしているのだろうと思いつつ。

親の政略結婚は相手と相談した上で、すぐに離婚した。もちろん親は反対したが、


「息子の運命まで決めるのか?」


といったところすぐに収まった。親なんてチョロいのである。

彼女は国から消えた。知らない間に。




〜彼女サイド〜


彼には恋人がいた。当たり前だよね。あんなにイケメンなんだから。

私が馬鹿だった。職場を抜けた時点で彼が恋しているのは確定だったのにね。

もう。


私の馬鹿。


私はこの国に必要ないのよ。

帰る場所もない私はこの国に必要ない。

そうよ。私はこの国に必要ない天使。

なら、私がいなくなればいい。

死ぬのは苦痛を伴う。流石にそれはやめるわ。

だったら、この国を出ていけばいい。

私を必要としている国が何処かにあるはずよ。

私はそれを探す。


私の理想郷を‼︎




〜彼サイド〜


あれから何年も経った。彼女は今どこで何をしているのだろう。彼女の最後に言った言葉。なんだっけ?




〜彼女サイド〜


彼は幸せにしているのかな?

私が最後に言った言葉覚えているかな?




〜彼サイド〜


彼女の最後の言葉。思い出した。


「もし、私がいなくなった時にあなたは幸せになっているわ。だけどその幸せが崩れた時に私を覚えていたら私を愛してくれる?無理な願いだって言うのは十分理解しているわ‼︎ だけど…。あなたのことを諦めきれない。私、待ってるわ。じゃあね。」


そう、彼女は言った。幸せになっているかだって?いや。彼女がいないから幸せではない。

彼女を探す。

それが彼の答えだった。




〜彼女サイド〜


彼は来てくれるのだろうか。

彼女は理想郷を創った。異次元にある自分が支配する理想郷。そこへつながるゲートは彼女とその理想郷〈ムースカスタス〉の住民。そして彼だけが通ることができる。

彼は来てくれるのだろうか。答えは…。




「ここの主は?」

住民は困惑していた。見慣れないものがいきなりこの町に入って来たと思えば、主の名前を聞いてくる。

「主の名前は…」

「そうかありがとう」

その男は主の名前を聞くと王宮へ向かう。

男は彼だった。苦心してゲートを見つけたどり着いた。主…つまり彼女に会うために。




「主に会いたい。」

衛兵にそう告げる。

「お通しする。」

ここの衛兵は主から彼の情報を頭に記憶させられている。

彼が来たらすぐ会えるように。




「会えてよかった。」

彼は彼女に会う。

「私も。」

彼女も彼に会う。




そこで記録は途絶える。

二人の物語の書物は、一部が焼き切れていた。何者かが焼いたのか、それとも事故なのか。それは誰にもわからないが、記録の最後は残っている。




彼女は彼と過ごしたが彼の方が先に逝った。

彼女は創造主。死ぬことはなく永遠の苦しみを味わった。

彼女はまたもや、不幸のどん底へ突き落とされた。

彼女は自分の身を部屋に閉じ込めた。しかし彼女はまだ生きている。

彼を思いながら。


永遠に苦しみながら…。

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