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日劇

なかなか出来ない経験です。

 翌日の結婚式は私の度肝を抜いた。

東京の結婚式と言えばスターがテレビでやってるアレでしょと思っていた。ところが多佳子ちゃんの結婚式は違っていたのである。どちらかというと映画の寅さんの妹の結婚式の風景に近かった。下町の結婚式だからね。

場所はちょっと広い公民館の会議室のようなところで、出席している人も近所のおじちゃんおばちゃんがほとんどだ。ちょっとぽっちゃりした花嫁の多佳子ちゃんは、あはははと豪快に笑いながら最初から最後までもりもりとご馳走を食べ続けた。

楚々とした花嫁さんを想像していた私は目が点になっていた。多佳子ちゃんの隣に座っている眼鏡をかけた細めの旦那さんと目を合わせて、お互い苦笑し合った。


最初に飛び入りの議員さんが話をした以外は堅苦しい挨拶もなく、和やかでいい結婚式だった。

結婚式が終わってみんな家に帰るというので、私はおじいちゃんに「有楽町の日劇で声優フェスティバルがあるから行ってくる。」と声をかけて、式場の近くにあった駅から山手線に乗った。

おじいちゃんはこの時心配していなかったが、後で東京のおじちゃんたちに「若い娘を慣れない都会の夜遅くに家に帰らせるなんてっ。」と責められたらしい。申し訳ないことをした。


親戚の大人たちの心配など知らずに私の胸は声優に逢える期待に膨らんでいた。

まずは当日券をゲットだぜっ。と鼻息も荒くやる気に満ちていた。このやる気が、おかしな空回りをするのである。


有楽町の駅に着いて外に出ると日劇がすぐ目の前にあった。ラッキーと思ったのはいいのだが、劇場を取り囲むようにして行列が出来ている。もう声優フェスティバルのお客さんが並んでいるのだ。私は焦った。

「当日券が取れないかもしれないっ。どうしよう~。」

私は走って劇場の入り口を探す。やっと券を売っている所を見つけて勢い込んでその短い列に並んだ。列にはおじさんたちが多かったが、声優人気もここまできたかと嬉しい気持ちもあった。


やっと自分の順番がきて、窓口のおばさんに「当日券はありますか?」と尋ねると、そのおばさんはいやに躊躇しながらも「・・・ありますよ。」と答えてくれた。やったーっ。私は勢い込んで「一番前の席をくださいっ。」と叫んだのだ。

すると、そのおばさんは困った顔をして「あのぉ~、本当に観るんですか?」と聞いて来る。何を言っているんだっ。観るに決まっているじゃないかっと思ったが、おばさんのあまりの心配顔に不安になった。

「えっと、ここって声優フェスティバルの券を売っているところなんですよね。」と一応聞いてみる。

私がそう言うと、おばさんはみるみるうちにホッと安心した笑顔になって「それならこの劇場の反対側の入り口ですよ。」と教えてくれた。

反対側?まさか同じ建物に二つの劇場があるの??


おばさんにお礼を言って、建物に沿って走って行くと長い列が吸い込まれていく所にもう一つ入り口があった。すごい。さすが都会だなぁ。同じ建物に二つも劇場があるんだ。大きーい。

ここでやっと当日券が買えた。残り十枚を切っていたので、ぎりぎりセーフだった。

私は走るのを止めて、日劇の建物を眺めながらやっとゆっくりと歩いて列の最後尾に戻った。


列の最後尾からはさっき私が券を買いに行った窓口が見えていた。その窓口の上には大きな看板がかかっていた。

「春の悶え。物憂げな午後の情事。」


・・・・・・!!!!!


えっ、これっていわゆる・・・そういう感じの劇場なんですか?


私は身の置き場がないぐらい真っ赤になった。どうりで窓口のおばさんが戸惑っていたはずだよ。

二十歳そこそこに見える娘さんが「一番前の席をくださいっ。」と勢い込んで言ったのだ。おかしな人大賞があったらぶっちぎりのトップだろう。

この列の十人ぐらい前の人たちは私の奇行をつぶさに観察していたはずだ。

私は会場に入るまでなるべく下を向いていた。


(爆)

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