第五話「三話は一体何処へ」
俺は後ろを振り向いた。
歓声を上げる人々の中心にさっきの赤ジャージの男が立っていた。
少し近づいて見てみると男がひとりの少女と話しているのがわかった。左手にはハンカチのようなものが巻き付けられている。おそらく、何らかの怪我をしたのだろう。
「あとは家に帰って傷薬を塗って貰え。」
「ありがとうお兄さん!」
周りの人々は男の一挙一動に目を見張っている。
「ティナ、あれってただの応急処置だよな?」
「そうでないとしたら何に見えるんですか?」
こいつはいちいち癪に障ることを言う。
それにしてもすごい驚き用だな、たかだか怪我の応急処置ぐらいでこんなにも盛り上がるなんて。
そしてここで俺はひとつ気づいた。周りの人々は皆包帯をしていないのだ。
屈強な大男や古傷だらけの老人、モンスターを討伐し帰って来たと思われる冒険者のパーティーですら包帯を巻いておらず流れる血を床に垂らしている。
「ここには止血という概念がないのか...?」
「馬鹿でもそれくらいは理解出来るんですね♪」
「たまらっしゃい」
どうやらこの世界の文明は相当低レベルなようだ。
呆気にとられる俺を尻目に赤ジャージの男はギルドを去った。
一瞬、目が合った気がする。既に争いは始まっているのかもしれない。