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第二十七話


『大沢さんじゃない?』という声にエリカはロッテに向けていた視線を声のする方に向ける。それまで――彼女にしては珍しく――にこやかな、笑みすら浮かべていた表情が一瞬で『げ』と云った、まるでイヤなモノでも見たかのような表情に変わった事にロッテが違和感を覚えるのと同時、エリカが口を開いた。

「……中川、凛?」

「そうそう~、凛だよ~。ヤダー、大沢さん~。久しぶり~」

 目に見えた『私、不機嫌です』を地で行くようなエリカの表情に、しかして『中川凛』と呼ばれた少女は気付いていないのか、まるで長年の親友に逢ったかのような友愛の表情で喋りかける。

「……そうね。久しぶり」

「だよね~。本当に久しぶり~。元気してた?」

「さっきまではそこそこ元気だったけどね」

「さっきまで?」

「アンタの顔見たら元気無くなったわよ。元気はお亡くなりになられました」

「もう、ヤダー! 大沢さん、相変わらずおもしろーい」

 明らかに『げんなり』しているエリカの表情。そんな彼女に構うことなく、中川はマシンガントークを繰り広げる。

「もう、大沢さんったら~。そんな態度取らないでよ~。中学時代のクラスメイトと久しぶりに再会したんだし? もうちょっとテンションあげてこ?」

「あー、ソウデスネ。もうちょっとテンションアゲルベキデスカネ?」

「そうそう! それにして大沢さん、天女だったんだ~。あそこの制服、すっごく可愛いよね~? 良いな~、大沢さん。凛も天女に行けば良かったな~。でも、天女の制服は着る人を選ぶもんね~。似合わなかったら恥ずかしいし、ダサくても『ウチ』の学校で良かったかも」

 そう言って、くるりとその場でターンをして見せる中川。そんな彼女の仕草に、エリカの表情の険しさが増していく。

「ね? この制服、凄くダサいでしょ?」

「……なーに、中川? 嫌みでも言ってるつもり?」

「え? 凛でもその制服似合うってコト?」

「んな訳ないでしょ? アンタみたいなチンチクリンがウチの制服着て似合うとでも思ってるワケ?」

 そう言って彼我の身長差から、中川を見下ろす様に腕を組んで視線を下に向けるエリカ。その余りにも凛々しい立ち姿に中川も一瞬怯むが、そのまま顔に張り付けた笑顔のままで言葉を継ぐ。

「あ、あはは~。そうだよね~。凛じゃちょっと似合わないかもね~。でも、それじゃなんで『嫌味』なのかな~?」

「制服の話じゃないわよ。何が『天女に行けば良かった』? はん! アンタ、散々天英館女子なんて馬鹿にしてた癖に? 中学校の時、アンタ、杏になんて言ったか覚えてんの?」

「えー? そんな昔の話、オボエテナイカモ~」

「健忘症か! アンタ、ちょっと頭の作りが良いからって散々杏の事バカにしてたでしょ? 『えー、杏ちゃん、折が丘落ちたの~? でもまあ、天女も良い学校だよ~』なんて言ってさ」

「……そうだったかな?」

「ええ、そうよ。しかもその後、『凛だったら絶対行かないけどね~』なんて高笑いしてたでしょうが。なーにが『凛も天女にしておけば良かった~』よ。どの口が言うのよ、どの口が」

 完全に戦闘モードのエリカ。そんなエリカに一瞬、呆気に取られた様な表情を浮かべるも、中川は先程までの友好的な仮面を脱ぎ捨てて嘲笑を浮かべて見せる。

「そんな事言ったかな~? ちょっと記憶にないけど……でもまあ、そう思うかもね~」

「……へえ? 喧嘩売ってんの、アンタ?」

「まっさかー。喧嘩なんて売る訳ないじゃん? もう高校生だし、貴方みたいなレベルの低い人と争っても良い事なんて一つもないもん」

「はぁ!? 誰のレベルが低いって!」

「あーこわいこわい。だってそうじゃない? 凛が通う折が丘と天女、どれだけ偏差値の差があると思ってるのよ? レベルの差があるのは絶対でしょ?」

「たかが『お勉強』が出来るのがそんなに偉いって?」

「べっつに~? 勉強が出来ても偉いとは思わないけど、でも『たかが』の勉強も出来ない癖に『たかがお勉強』なんて言って欲しくはないカモ? んじゃ、そのたかが以外で貴方はなんか取柄があるの? とも思うわね~」

 完全に挑発する様な中川の言葉に、エリカが唇を噛む。そんな姿を見つめ中川は勝ち誇ったように視線を上下に睥睨させた。

「ま、でも『制服が可愛い』ってのは本当に思うよ? 天英館女子なんて何一つ取柄が無いと思ってたけど、制服が可愛いの『だけ』は良かったんじゃな~い? それと、杏ちゃんが天女に行ったのは本当に正解だったと思うわよ? だって杏ちゃんの頭じゃ、きっと折が丘の授業についていけないもーん。天女ぐらいが丁度いいんじゃない?」

「アンタっ!」

「だって本当の事だし~? 折が丘の授業って本当にスピードが速いんだもん。きっと、天女とはスピードが違うからさ~? 杏ちゃんじゃついて行けないと思うな~。っていうか、天女の子なら、誰でも付いて行けないんじゃない?」

「……」

「それだけ、折が丘の授業は難しいんだよ? 分かるかな~、大沢さん? 天女の子がしてる『お勉強』なんて、ウチとは雲泥の差なんだよ」

「なんで分かるのよ!」

「分かるよ~。だって大沢さんも杏ちゃんも天女なんでしょ? それじゃ、天女のレベルなんて推してしるべ――」



「――あら? 随分と大口を叩くわね? 『万年学年二位』の中川さん?」



 最後まで、言わせない。聞こえて来た新たな声に、ロッテはそちらに視線を飛ばし。

「黙って聞いてれば好き勝手言ってくれるわね? 折が丘の進度が速い? それは単に貴方が付いていけないからなだけじゃないのかしら?」


 腕を組み、イライラを体現したかのように不機嫌さを隠さないコズエと、その後ろでおろおろとしているアンの姿を見た。


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