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第二十四話


「募金、お願いしまーす」

「お願いしまーす」

 天英館女子高校の最寄り駅である海津駅。その中央口の前に立ちアン、エリカ、コズエの三人は募金箱を持って募金を呼びかける声を上げていた。そんな姿を満足げに見ながら、ロッテは小さく頷いて。

「…………ちょっと」

「なんだ?」

「『なんだ?』じゃないわよ! なんで貴方だけそんなにのんびりしてるのよ!」

 そのロッテの袖を掴んでエリカが『うがー』っと捲し立てる。夕方、そこそこに人通りの多い駅前でエリカのその行動はとても目立つ。道行く人々が『すわ、何事か』と言わんばかりの表情で自身を見ている事に気付いたエリカの頬が赤く染まった。

「……恥ずかしいのだが?」

「私だって恥ずかしいわよ! じゃなくて! なんでアンタは何にもしないで腕組んで『うんうん』なんて頷いてるのよ! アンタも手伝いなさいよね!」

 小声で怒鳴り上げる、なんて器用な事をするエリカ。そんなエリカに大袈裟に耳を塞ぐ仕草をして見せながら、ロッテはやれやれと言わんばかりに首を左右に振って見せる。

「残念だが募金箱が三つしかないのでな。君、アン、コズエの三人がやるしか無かろう」

「アンタがやってもイイでしょ! 私が今度は休憩するから!」

「はぁ」

「ちょ、何よ! その呆れた様な――って、アンタ、私の事バカにしてるでしょ! 今、やれやれって目した!」

「やれやれ」

「口でも言った!? なによ!」

「なにを言っているのだ、エリカ。イイか? これは『ボランティア部』に与えられたミッションだ。ならば、君たちがボランティア活動するのが当然だろう? 見た事があるのか、君は? 選手が『休憩したい』と言っているからと言って、顧問がしゃしゃり出て来るバスケ部とか」

「うぐ! そ、そりゃないけど……で、でも、それは運動部だからでしょ! ボランティア部の活動で教師が手伝っちゃダメな理由はないじゃん! コンクールとかならともかく、文化祭の展示では美術部の顧問だって絵、書いてたもん!」

「ふむ。公式戦で無ければよかろう、という話か?」

「そうよ! 大体、この間の演劇はアンタノリノリで脚本とか書いてたでしょ! アレだって十分参加してるんだから、今回だってそのノリで手伝ってくれればいいでしょ!?」

「なるほど。確かに前回のは私も幾ばくかの手伝いはした。あちらを立てればこちらが立たず、では無いが君の言う事も一理ある」

「でしょ! だから今度はアンタがやりなさいよ!」

 そう言って、『はい!』とばかりに募金箱を差し出すエリカ。その姿を見やり、ロッテは静かに首を横に振った。

「イヤだ」

「なんでよ! 一理あるって言ったじゃん!」

「確かに君の言っている事に一定の理はあるだろう。だがな? その理論が正しいのと、私が募金箱を持って路上に立つのは全くイコールにならない」

「なに訳分かんない事言ってんのよ! 何が言いたいのか全然分かんないですけど!!」

「そんなに難しい事を言っているつもりは無いが……」

 ロッテはそこで言葉を切り。

「面倒くさいから嫌だ」

「アンタね!」

「すまん、間違えた。先程も言った通り、これはボランティア部の活動だからな。顧問が横から口を出すよりも、君たちの力で成し遂げた方がより勉強になると――」

「そんなんで騙されるとでも思ってるの!? 面倒くさいんでしょ、ただ単に!」

「いやいや。そんな訳は無いだろう? 先程のは言葉のアヤだ、アヤ。私がそんな事を思う訳が無かろう?」

「だから! そんなんで騙される訳ないって――」




「…………ねえ?」




 尚も言い募ろうとしたエリカの言葉を遮る様、低い声が響く。まるで地の底から聞こえてくるようなその声に、言い争いを続けるロッテとエリカの動きが止まる。後、どちらからともなくゆっくり、ゆっくりと視線を声の方向に向けて。

「………………先生も絵里香も……二人とも、真面目にしてくれないかな? なに? 真面目にする気が無いの? だったら帰ってくれても良いんだけど?」

 完全に笑って無い目で笑顔を向けるアンの姿。夜叉を思わせるその姿に、思わずエリカとロッテも息を呑む。

「ご、誤解だ、アン! 別に真面目にしてなかった訳ではないんだぞ!」

「そ、そうよ、アン! 別に私達はふざけてたわけじゃ無いの! その、ねえ、先生!」

「そ、そうだな! 私たちはアレだ……その、仕事の割り振りについて話し合っていただけで!」

「………………ふーん」

「ふ、ふーんじゃなくて! だ、大丈夫! 真面目にやる! 真面目にやるから! ね、先生!」

「そ、そうだな! 別に今までもふざけていた訳ではないぞ? 無いが、それでも今からはもっとこう、なあ? 真面目に取り組もうと!」

「そ、そうよ!」

 二人で愛想笑いを浮かべながら、手もみせんばかりにアンに言葉を尽くす二人。アンの言葉により、喧嘩をしていた二人はこれから真面目に仕事に取り組むだろうと思い、アンはいつも通りの優しい笑顔を。

「…………仲がいいね、二人とも」

 浮かべ、ない。不機嫌な顔の見本を出しなさい、という問題があれば解はこれしか無かろうと言わんばかりの不機嫌な表情を浮かべるアンに、ロッテは首を捻って見せた。

「あ、アン? そ、その……」

「それだけ仲が宜しいなら二人でちょっと続けていてください! 私と梢は休憩を取りますから!」

 そう言ってアンは掛けた募金箱を首から取ると、それをそのままロッテに押し付けて。

「行くわよ、梢! 休憩しましょ!」

「……え? って、あ、杏!? ちょ、ちょっと待って! 先生、絵里香! 取りあえず二人でやってて!」

 肩をいからせて歩くアンの後ろを慌てた様に付いて行くコズエの姿を、ロッテとエリカは呆然と見送った。


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