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第二十三話


「……はぁ? 募金活動? 募金活動って、あれ? 毎年海津駅前でやってる例のヤツ? なんでそんなもん、私達がやらなくちゃいけないのよ?」

『ボランティア部の仕事の一環で、駅前で募金活動をする』とのロッテの言葉に案の定一番に眉を顰めたのはエリカだった。予想通りのその結末に、ロッテが小さく溜息を吐いて見せる。

「先日の幼稚園での爆発騒動で学園長がいたくご立腹でな。まあ言ってみれば懲罰的な意味合いも含めての今回の活動だ」

「はぁ? だったら尚の事、私がしなくても良くない? どっちかって言ったら私被害者よ、被害者! なーんでそんな私まであんな目立つ所で募金活動しなくちゃいけないのよ! ぜーったい、ヤダ!」

 つーんっと擬音の付きそうな勢いでそっぽを向いて見せるエリカ。そんなエリカをじとっとした目で見やりながら、コズエが言葉を継いだ。

「我儘言わないの、絵里香。大体、被害者って言ってもちょっと衣装に火の粉が飛んだだけでしょ? その衣装だって先生が用意したものだし、実質アンタの被害はゼロみたいなもんじゃないの」

「そういう問題じゃなくない? 私、すっごく怖かったんだからね! セイシンテキクツウってやつよ」

「何が精神的苦痛よ。アンタ、昔っから危ない事大好きでしょ? 木登りだってなんだって率先してやってた癖に。小さい頃はもっと危険な事してた癖に、どの口が精神的苦痛なんて宣うのさ」

「なによ、梢? ボケたの? 率先してやってたのは杏ですー。危ない事は杏の担当でしょうが」

「……まあ、そう言われてみればそうかもね。でも、アンタが尻馬に乗ってたのも事実でしょ?」

「そうだけど……でも、杏ほどじゃないし」

「……まあね」

「なんかすっごい巻き込まれ事故!? ちょ、梢、絵里香! 私、関係なくない!?」

 思わぬ方向から被弾したアンが抗議の声を上げる。そんなアンと視線を合わせないように瞳を逸らす二人の『絶望した!』と言わんばかりの微妙な表情を浮かべた後、アンは視線をロッテに向けた。

「なんだか凄く釈然としないものがあるけど……まあそれは置いておくとして……それで? 何時からやれば良いんですか、先生? その募金活動ってやつ」

 疲れた様な表情の中に、幽かな笑み。そんなアンの表情に、ロッテが嬉しそうに表情を緩めて。

「ちょ、杏!? まさか、やるつもりなの!?」

 そんなロッテの表情が渋面に変わる。その表情のまま、ロッテは視線をエリカに向けた。

「……なんだ? まだ不満なのか?」

「不満に決まってるでしょ! なんで『被害者』の私までそんな活動しなくちゃいけないのよ!」

「……被害者云々はともかく、ボランティア部の活動としては至極真っ当だろう? 募金活動なんてまさにボランティアの鑑みたいなものじゃないか」

「ボランティアってのは『進んで物事にあたる』って意味もあるでしょ! 今の精神状態だったら、私は進んで物事に当たりたくなんてないって言ってるの!」

 言ってる事が完全に駄々っ子。そんなエリカの姿勢に、ロッテが深い深い溜息を吐いた。

「……では、頭を下げれば良いのか? 申し訳なかった、エリカ。私が悪かった。どうか、許してくれ」

 そう言って深々と頭を下げるロッテ。一、二、三、とぴったり三秒、ロッテは下げていた頭を上げる。

「……さあ、頭を下げたぞ? これで満足か?」

「バカにしてんの!? そんな事で満足する訳ないでしょ!? 私が言っているのは誠意を見せなさいって言ってんの!」

「……」

「よく考えて見なさいよ! 普通さ? 幼稚園の学芸会レベルの演劇で火薬まで使う必要ある? 無いでしょ! 百歩譲ってどうしても火薬を使う必要があるんだったら事前に私達に相談して然るべきでしょ? 私が言っているのは、勝手にそんな事をした事を怒ってるの! 大人でしょ、アンタ!」

 エリカの言葉がさして広くはない部室に響く。正論中の正論に、ロッテのみならずアンやコズエも呆気に取られた様な表情を浮かべて黙り込む姿に、少しだけ気まずそうな表情を浮かべながら、それでもエリカはロッテを睨んだ。

「……な、なによ! 私の言っている事、間違ってるの!?」

「……いや。確かに君の言う通り、正論だ」

 そう言ってロッテは居住まいを正し、エリカに向き直る。

「……火薬の量に関しては派手に見えながらも危険の少ない分量を要請していた。事故が起こってからこんなことを言ってもアレだが、事故の起こる危険性は少なかったと考えていた。プロのする仕事だしな」

「……」

「君たちに事前に連絡を入れなかったのは申し訳なかった。爆発の少し前にインカムで火薬を使う連絡を入れるつもりではいたのだが……済まない、私も少しばかり気分が高揚していた。突発的な爆発が起こっても、エリカなら巧くアドリブで切り抜けてくれるだろう、という甘えた考えもあった」

「……なによ、それ。私が悪いって言うの?」

「まさか。悪いのは間違いなく私だ。本当に申し訳なかった、エリカ。この通りだ。許してくれ」

 そう言って、もう一度頭を下げるロッテ。その姿に、エリカが『うっ』と息を詰まらせる。

「そ、その……そんなに素直に謝って貰うと……そ、その、アレだけど……べ、別にそこまでしろって意味じゃなくて……そ、その……」

 頬を赤くし、モジモジと所在なさげに視線を左右にさ迷わし――そして、によによとした笑顔を浮かべるコズエと目があった。

「………………なによ?」

「絵里香がデレた! 今日はお赤飯だ!」

「だ、誰がデレてるのよ、誰が! べ、別にそんなんじゃ……と、ともかく! 今度からはちゃんと気を付けてよね! 何か起こすときは事前に一本連絡入れる事! そ、それで今回の件は許してあげるから!」

「……そうか、済まないなエリカ。ありがとう」

「べ、別に! 何時までも頭を下げられても困るから、許してあげるってだけ! 良いの! ともかく、その募金活動? それ、やれば良いんでしょ、やれば! やったげるわよ!」

 そう言って照れ隠しからか鞄をむんずと掴み、足早に部室を後にしようとするエリカ。

「そ、そう言えば私、用事があったんだ! 取りあえず今日は帰るから、梢、杏! 日程決まったらまたLINEでもして!」

 頬を赤く染めて、扉をバタンと占めるエリカ。そんなエリカの姿を先程以上に『によによ』した表情で見つめていたコズエが、面白そうに口を開く。

「良いツンデレ、頂きました~。いや~、絵里香があんだけ照れまくるって珍しいよね? 杏もそう思わな――」

 気分よさげに、人差し指をクルクルと回しながらそんな事を喋っていたコズエの指と口が同時に止まる。

「…………杏? どしたの、貴方? なんでそんな不満そうな顔してるの?」

「……へ? なに? どうしたの、梢? 不満? 何が?」

「何がって……」

 そんな事を言いながら『むぅ』とばかりに頬っぺたを膨らませて見せるアンを、半ば呆然とコズエは見つめていた。


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