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第八話


「……なんだ、エリカ? 何が不満なのだ?」

 面倒くさそうな表情を浮かべたまま、ロッテがエリカを見やる。その視線に一瞬般若の表情を浮かべた後、心持余裕を持った笑顔をエリカは浮かべて見せた。

「先生が『ボランティア活動』に興味があるのは分かったわよ。ま、まあ……うん、笑顔が好きって言うのも悪い考えじゃないなって思うわ」

「別に君にどう思われようが一向に構わんがな、こちらは」

「あ、アンタは……まあ、いい。ともかく、別に『好き』でやるのは構わないわよ? でもね? 部活動ってのは生徒のセイチョーの為にある訳じゃん?」

「一概にそうとも言えんが、ふむ。それで?」

「野球部の顧問は野球経験者、バスケ部の顧問がバスケ経験者、サッカー部の顧問がサッカー経験者なのはその為でしょ? 自分が経験した事を、人生の後輩に教えるって意味がある訳じゃん? 確かに、全く未経験の顧問の先生とかもいるけど、それって他に適任者がいないから已む無くって感じじゃない? 経験者が居れば、普通はそっちに頼むじゃん?」

「なるほど、確かにそれは一理あるな。続けてくれたまえ」

「い、一々偉そうに……と、ともかく! 由香里ちゃんは学生時代に海外でボランティア活動もしてたらしいわ! そんな『経験者』の由香里ちゃんから顧問を代わるんですもの。貴方にはそれなりの経験があるんでしょうね!」

 ふふん、なんて擬音が付きそうな表情を浮かべて見せるエリカ。その姿をじとーっとした視線で見つめた後、視線を隣のコズエに移した。

「……なんです?」

「先程、君は『身内の様なもの』と言ったな? なんとかしたまえ、この『がちゃがちゃ』を」

「いえ、確かに身内の様なモノですが、あの『がちゃがちゃ』はもうどうしようも無いんですよ、残念ですけど。ちなみに彼女の名誉の為に言っておきますけど、あれでも随分マトモになった方なんですよ?」

「あれでか?」

「ええ。なので先生も諦めて頂ければ幸いです」

「って、アンタらね! 全部聞こえてるわよ! 失礼な事言うな! っていうか、誰ががちゃがちゃだ、誰が!」

 うがーっと反論の声を上げるエリカに大きく溜息を一つ吐き、ロッテは言葉を継いだ。

「先程松代も言っていた通り、君たち生徒に顧問を選ぶなんて、そんな決定権はない。なので、私が経験者であろうがなかろうが、そんな事は君たちが詮索する事ではないし、よしんば私が経験者でなくともそれを持って私の顧問就任を拒否する権利も権限もない」

「ふーん、そんな事言うの? それじゃ、私、辞めちゃおっかな~。いいの? 私が辞めても?」

 得意げにそんな事を言って見せるエリカに、もう一度、大きなため息を吐いて。

「……好きにしろ」

「…………へ? あ、貴方、今なんて?」

「だから、好きにしろと言った。辞めたいんだろう? 別に止めはせんさ。ああ、退部届だけはしっかり書いておけ。手続きに意外に五月蠅いからな、この学校は」

 そう言ってロッテはエリカから視線を外し。

「ちょ、ちょっと! 良いの!? 私、辞めちゃうんだよ!?」

 外せなかった。ロッテの袖を掴んで慌てた様にあわあわして見せるエリカに面倒くさそうに視線を戻し、ロッテは肩を竦めて見せる。

「だから、別に構わんと言っているだろう? 部活動は別に強制ではない。本人が嫌なら、無理に引き留めてもしょうがないだろう?」

「ふ、ふーん! そんな事言うんだ! じゃあ、辞めてやる! 杏、梢! 行くわよっ!!」

 そう言って鞄を手に取り、扉までズンズンと歩くエリカ。と、その足が入口のドアに手を掛けた所で止まる。

「ちょ、ちょっと! 何してるのよ、二人とも!」

 そんなエリカに困った様な視線を向けるアンと、右手を額に当てて『やれやれ』とばかりに首を振って見せるコズエ。

「……アンタね? 常識で考えなよ? 別に絵里香が辞めるのを止めないけどさ? それが別に杏や私が辞める理由にはならないでしょ?」

「……え? だ、だって梢、アンタさっき言ってたじゃん! 辞めてやるって!」

「そりゃ、杏に危害が及ぶんなら私だって部活を辞めるのも吝かじゃないよ? まあ……そうね。絵里香、アンタが不利益を被る時だって、一緒に辞めてあげる。でもね? これって別に絵里香が不利益を被る訳じゃないでしょ?」

「ふ、不利益被るよ! 私、イヤだもん!」

「イヤだもんって……あのね、絵里香? それはアンタの勝手。アンタの我儘。そんなものに一々付き合ってられる訳ないでしょ?」

「ぼ、ボランティアは何処でも出来るわよ! 別に部活に所属しなきゃいけない訳じゃないでしょ!」

「そりゃね。でもさ? そうは言っても『部活』って体裁整えてた方が色々都合がいい時もあるでしょ? 究極、アンタが我慢が利かない子ってだけなんだから我儘言わずに我慢しなさいな」

 そう言ってスマホに視線を落とすコズエ。ある意味突き放した様なコズエのその態度に、慌てた様に絵里香が視線を左右に揺らして。

「……絵里香」

「……あ、杏? 杏は……」

「私、もっと絵里香と一緒にボランティア部の部活動、したいな。ねえ……ホントに、ホントに辞めちゃうの?」

 まるで捨て犬の様な目で見られ、思わず絵里香が言葉に詰まる。うるうるとしたお目目で見つめてくる杏の視線に、それでも最初こそ強気な射貫くような視線を見せ。

「……分かったわよ」

そして、撃沈。

「……続けりゃいいんでしょ、続けりゃ! 私が我慢すれば良いんでしょ!」

「いや、だから別に辞めて貰って構わんぞ?」

「うっさい! なんで一々突っ掛かってくる訳!?」

「鏡を見てからそんな台詞は吐き給え。なんだったか? ああ、『ブーメラン』というヤツだな?」

「はぁ!?」

「ちょ、ちょっと二人とも! 喧嘩しないで!」

 睨み合う二人に慌てた様にアンが止めに入る。しばしのガンの飛ばし合いの後、ロッテが小さく息を吐いて視線を逸らした。

「……感謝しろ。アンに免じて許してやる」

「……こっちの台詞だし」

 最後にもう一度睨み合い、その後フンと視線を逸らす。

「あ、あはははは……はぁ」

 そんな二人に乾いた笑いを見せた後、深々と溜息を吐くアン。不幸の星が頭上に輝いているかのようなそんな不憫な姿に、隣に腰掛けていたコズエがそっとハンカチを差し出す。

「使う?」

「……大丈夫。泣いてないもん」

「私と絵里香も大概相性悪いけど、六手先生程じゃないわね。大変だね、杏?」

「まるっきり他人事!? ちょっとは協力してよ!」

「やーよ、面倒くさい」

 そう言って視線を再びスマホに戻すコズエを恨みがましい視線で見つめた後、アンは気を取り直す様にコホンと一つ咳払いし、そっぽを向き合う二人に視線を戻す。

「え、ええっと……と、取りあえずロッテ先生? 絵里香? ほら! 今度のボランティア部の活動、決めてしまいましょう!」

「……ふん。杏がそう言うならそうするわ。さっさと決めましょう? 一刻も早くね? 空気が美味しくないし、此処」

「奇遇だな? 私もそう思っていた。さっさと決めよう。ところで、アン? 美味しいケーキ屋を見つけたのだが、この後どうだ?」

「残念でしたー! 杏はこの後、私とショッピングの予定でしたー! つうか、さらっと杏をデートに誘うな、この変態教師!!」

「な……んだと? ショッピング? アン、考え直せ! こんな『がちゃがちゃ』と一緒にショッピングなんぞ行ったら君の評判を落とす。さあ、私とケーキ屋に行こう?」

「がちゃがちゃ言うな! っていうか、私が先に約束してたんだからね!」

「なんだと!」

「なによ!」

「……二人とも……早く決めようよ……」

 疲れ切ったアンの台詞に、流石に哀れになったコズエがスマホに視線を落としたまま、小さく溜息を吐いた。

 


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