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口入屋に買われたとしあきにとって幸運だったのは店の主人が商売熱心だったことだ。

商品を使い潰したりせず利益を最大化しようという主の考えのお陰でおかしな所へとしあきは売られずに済んだ。

口入屋はとしあきを年季奉公として、江戸市中でも大店とされている呉服屋の西浦屋へと送り込んだ。


西浦屋でのとしあきの仕事は肉体労働だった。有体に言ってただの丁稚奉公である。

数え16にもなっての丁稚奉公であるゆえに他の年若いというよりも幼いといってもいい年齢の丁稚たちには馬鹿にされはしたものの懸命に耐えた。

そんなとしあきに再び人生の転機が訪れたのは一月後の深夜である。


その日は夕方あたりから口にはしがたい嫌な雰囲気を感じていたせいで、としあきは落ち着かない。

としあきがどうにも眠れず、丁稚達の眠る離れでじっとしていると、不意に、西浦屋一家の眠る母屋の方に不穏な気配を感じた。

起き上がって戸口ににじり寄り、障子に隙間を作る。隙間から見えた母屋には大勢の人影があった。


「店で働いている従業員の数よりも多い……」


押し込み強盗だと、とっさに判断したとしあきは庭に出て離れの床下に隠れる。

直後、強盗が離れに現れて、丁稚達を母屋へと連れて行った。

としあきは床下でざっと考えを巡らせる。

脳裏に浮かんでくる選択肢をそれぞれ吟味して、結局、西浦屋一家を助けて恩を売ることが最善であると判断した。

それに、目の前で罪も無い人々が殺されるのを見るよりはその方が気分がいい。

草履を脱いだとしあきは足袋のまま床下を抜けて墨小屋へと向かう。


墨小屋には人はいなかった。中でとしあきは薪雑把(まきざっぽう)を手に入れる。

両手に手拭(てぬぐい)をきつく巻き付けて薪雑把(まきざっぽう)を握り込んだ。

そっと墨小屋を出る。

物陰に沿って移動していると、木刀を手にした盗人一味の男がこちらに背を向けて立っていた。

としあきはそっと近付き、渾身の力を籠めて薪雑把(まきざっぽう)を振り下ろす。

男の脳天は潰れて、身体が地面に転がった。

強盗が落とした木刀を振ってみる。

具合は悪くない。

としあきは薪雑把(まきざっぽう)を木刀に持ち替えた。


母屋に近付くと中から強盗の怒鳴り声が聞こえてきた。

どうやら強盗が土蔵の鍵を出せと言っているらしい。

次の瞬間、障子に赤い染みが飛び散った。小さな影が崩れ落ちる。

女の悲鳴。

としあきが強盗一味に襲い掛かる。


賊は13人いた。

としあきは庭にある障害物を利用して立ち回り、一対一の状況を作り上げて戦っている。

この時、得物が木刀であったことがとしあきに幸いした。

これが真剣だったなら途中で刃が欠けるか、折れていただろう。


数刻の後、剣において天稟(てんぴん)の才を持つとしあきが振るう木刀は盗人一味をことごとく撃ち倒し、その手にした木刀は血で紅く染まっていた。


残るは一人、一味の頭目のみ。

庭では撃ち倒された盗人どもが昏倒していびきをかいている。

としあきは座敷に上がりこむ。

あっという間に手下を撃ち殺されて震え上がった一味の頭は、西浦屋の一人娘に匕首(あいくち)を突き付けて人質に取った。


「ちょっとでも動いてみろ。この娘っ子の命は無ぇぜ?」


男の左腕で首を締め付けられた娘は、賊の男が右手に持った匕首を顔に押し付けられて血の気が引いていく。


「この匕首をほんの少し動かしただけでこの娘っ子は傷物になるんだぜ?」


男は勝ち誇るように哂った(わらった)



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