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西浦敏明は未来からの転移者である。

彼はもとの時代で齢15の年に今の時代に転移してきた。

転移前の時代での名は双葉としあきと言った。

としあきが転移してきたのは、彼の通う中学が誇る剣道部の稽古を終えて帰宅の道を歩いていた時のこと。

突然、としあきの視界が闇に覆われ、気が付くと何処とも知れない、川っぷちを通る道の上に彼は立っていた。

日はとっぷりと暮れていて、あたりには街頭の灯すら一つも無い。

あるのは月明かりだけで、あとは何も無い野原だった。

部活帰りの空きっ腹を抱えたとしあきは食べる物を何も持ってはいない。

困惑に駆られたとしあきが周囲を見回した時、近くの草むらから、がさり、と音がした。

音のした方へ目を向ける。


「へっ、へっ、へっ……」


着物姿のガラの悪そうな男達が薄ら笑いを浮かべながら近寄ってくる。

としあきは思わず竹刀を袋から抜いて構えた。

先頭を歩く男が顔を歪めて舌をべろりと出す。


この瞬間がとしあきの運命の分かれ道だった。

もしもこの時、としあきが男達を避けて一目散に逃げていれば、

ちょうど付近を通りかかっていた水戸の御老公たち一行の手助けを得られたかもしれない。

そうなっていたらとしあきは不完全ながらも知識チートで御老公に取り立てられて立身の道が拓けていただろう。

しかし、としあきは常日頃からの無意識の反応で戦うことを選んでしまい、アンラッキーを拾うことを選択してしまった。


「そんなものがどうしたってんだぁ!!」


男が腰の物を抜いた。よく見ると男は時代劇に登場する浪人者のようにも見える。

まるで骨の無い蛭子(ひるこ)のような動きで男は剣を構えた。

なめ回すような視線が男から向けられる。

としあきは正眼のまま待った。

あれが本物の刀なら打ち合うわけにはいかない。


男はとしあきににじり寄る。摺り足が地面をこする音がした。

浪人は大上段に振りかぶる。男の気声。

としあきは斬りかかる浪人者の首へ突きを狙って飛び込む。

寸前、浪人の足が止まり、地面を蹴った。

剣道の試合では絶対に予期し得ない目潰し。

としあきの顔に土が降りかかる。

本能が反射的に目を瞑らせてしまう。

浪人者の膝蹴りが脇腹にめり込んだ衝撃でとしあきはくずれ落ちた。

寄り集ってきた男達にとしあきは踏まれる。


「先生もえげつない立会いをしますなぁ」


男達のリーダーが浪人者に声をかける。


「売り物に傷をつけるわけにはいくまい」


「左様ですな。

 おい、お前達も適当なところで切り上げろ」


リーダーの言に従った男達はとしあきへの暴行を止めて身柄を拘束した。

としあきは反射的に頭部を守ったので致命的な負傷をせずに済んでいる。



……この瞬間がこの浪人者にとっての運命の分かれ道だった。

としあきを斬り捨てずに目潰しで済ませるという選択と

動けなくなったとしあきを傷つけずに済ませるという選択をしたことが

彼の後の人生に大きな影響を与えることになる。


ともあれ、こうした次第で人攫いに捕らわれたとしあきは江戸市中のさる口入屋に売られることとなった。



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