始めての死
「・・・まぶしぃ」
チュートリアル終了後、いつの間にか俺は街の広場のど真ん中に立っていた。
あのGMが最後にちらっと言ってた事が気になるが、考えてもわからんならば考えねえ事にしよううんそれがいい。
「ここが初期地点ってとこかね」
ぐるっと見渡すと俺のすぐ後ろには噴水があり、その中央に背中から翼の生えた女性の銅像が立っている。
周りはプレイヤーで溢れかえっていて、目に映る範囲だと布の服に剣や弓を持った奴でいっぱいだ。
そういう俺はすっ裸・・・ではなかった。自身の身なりを確認してみると周りと同じような、黄緑をベースにした薄い布の服のみ。周りの連中が腰や背中に背負ってる武器みたいなのはどこにも見当たらない。恐らくあれが冒険者の初期装備なんだろうか。
「んでこれがメニューってわけか?」
さっきから視界の端に映っている各種アイコンを意識で選択してみると、自分の持ち物らしき一覧が見れた。
<インベントリ>
・ダンジョン・コアx1
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確かにダンジョンコアが入ってるけどこれしかねえのかよ!せめて何か武器的なナニカが欲しかったぜ!創造者はこれ1つで生き抜いて見せろってことなのか?
とりあえずダンジョンコアを注視してみると説明が出てくる。
<ダンジョン・コア>
設置した場所から周囲をダンジョン化する。
設置した本人のみダンジョンメニューを開く事ができる。
設置した本人のみ手に持って設置場所を変更できる、他者が触れた場合、そのダンジョン・コアは破壊される。
破壊された場合、所持ダンジョン・コアが0個の場合は持ち主に戻ってくる。
・・・さらっと重要な事書いてあるじゃねえか。コア破壊できるのかよ!つうことは適当な位置に設置して破壊されるとまずいってことか。一応詰まないようにダンジョン・コアが0個になる事はねえんだな。
「自分の情報はどうやって見るんだ・・・このアイコンか?」
手当たり次第にアイコンを選択してみると自分の情報を見ることができた。
<キャラクター情報>
名前:ハジメ
クラス:創造者
職業:なし
HP:10
SP:100
<所持スキル>
なし
「おぉ見れた見れた。細かいのはわかんねえけど今はいいか」
ステータス的なのがHPとSPだけってのがよくわからねえな。体力は大体わかるがSPはわかんねえ。これも後々わかるんだろうな。
そうやって1人でぶつぶつ言っているとふと気になる事があった。他人の情報見れるのか?とりあえず周りに居る数人の情報を勝手に見ようとしてみる。できた。
<キャラクター情報>
名前:こぶしちゃん
クラス:冒険者
職業:格闘家
<所持スキル>
<殴る*1>
<キャラクター情報>
名前:アーサー
クラス:冒険者
職業:なし
<所持スキル>
なし
<キャラクター情報>
名前:かまぼこ
クラス:冒険者
職業:なし
<所持スキル>
<走る*1>
今見た奴らは全員始めたばっかって感じだったな。つか体力とかは見えねえけどスキルとか見えちゃうのかよこれ。対策考えとかないとプレイヤー同士で戦闘する時とか困るな。職業はあんまわかんねえけどこの段階でスキル取ってる奴居るんだな。名称と数値ってことはスキルにもレベルがあるのか?あとで俺も習得してみよう。疑問が出まくってるが同時にわくわくするぜふへへ。
あとはあそこに居る明らかに装備が違う奴でも見てみるか。あいつだけ全身毛皮装備で同じような毛皮の装飾が付いた剣持ってるわ。
<キャラクター情報>
名前:ガブ
クラス:冒険者
職業:獣殺し
<所持スキル>
<獣特攻*3><獣特攻*1>
「まじか、それありなのかよ」
ぽろっと本音が出ちまった。あ、喋ったの聞こえたみたいで向こうから近寄ってくる。やばい気まずい。こちらまで歩いてきたガブはニヤニヤしながら喋りだす。
「よお!俺のステータス見たんだろ?ぶっちゃけ今日だけで3回同じような事言われたからな!聞きたい事がありゃ教えてやんぞ!」
あれ、てっきり喧嘩売られると思ったんだけど割といい奴なのかこいつ。
「まじか!丁度いいや教えてくれ。スキルって同じ物っつうより同じ意味のある物習得できんの?」
「おう!しかも効果が重なるから結構凄い事になったりするぞ。もちろんスキル数が増える度に習得コストは上がっていくけどな!他には・・・」
ここからガブのマシンガントークか始まった。
スキルについて纏めるとこんな感じらしい。
・重複して習得可能
・数が増える度にコストが増える
・スキルの数値はランクって意味でこれを上げるのもコストが掛かる
・スキルは削除する事ができる、使用したコストは戻らない
・限定的な能力にするほど効果は上がる
・コストは主にSPを使うらしい
・SPは自然回復はしない、生物倒したり色々すると増えてく、通貨にもなるらしい
とまぁこんな感じの説明をどーんと教えてくれた。俺だけじゃなくて周りに居たプレイヤーも便乗して説明を聞いてたみたいでうんうん頷いてたわ。こういうのって普通はこっちから聞くもんだと思うんだが・・・。
「教えてくれるのはありがたいんだがなんでこんなに教えてくれるんだ?普通はこういうのって隠すもんじゃねえの?」
「なぜかって?そりゃ俺が教えたがりだからな!ネタバレ怖い奴が居たらどうするか?それでも教えるぜ!なんせ教えたがりだからな!!」
とんでもねえ奴だなおい!周りに居る連中も苦笑してるじゃねえか。映画の結末言ったりしてブチぎれられるタイプだこいつ。そして脳筋なんだろうなと俺の脳内人物帳にメモっておこう。だがまぁ知った知識を教えたがるのは少し分かる気もする。
「んまぁあんがとな、色々勉強になったわ。」
「おうよ!変わりといっちゃ何だがフレンド登録していいか?お前創造者だろ?今度めちゃくちゃ強い獣と戦わせてくれよ!結構色んなとこ回ってるんだが骸骨やら精霊やらで獣系って居ないんだよなぁ」
「そのスキル構成で獣求めるって図太いなおい。ま、面白そうだからいいぜ!ガブを瞬殺するような怪物作り出してやるぜ!」
そう言ってガブと俺は腕と腕を組み合わせる。完全にその場のノリでやったがその直後微妙に恥ずかしかったぞガブよ、俺をハメたな。
メニューからフレンド画面を開いて登録申請を受理した。これで今後ガブとは念話ができるようになるらしい。
「<<こんな風にな!どうだ?聞こえるかハジメ!>>」
「うるせえ!!目の前に居るのに念話すんな!!めちゃくちゃ音でけえなこれ」
「距離が近いほど声が大きくなるらしいぞ!<<こんな風にな!>>」
「うるせえ!!!」
「はっはっは!ハジメは面白いな!」「まじかよアレ・・・見てみろよ」
「ん?お、もしかして俺のステータス見たのか??」
漫才を繰り広げてる最中にガブを見ていた冒険者が俺と似通った事をぽろりと口から出したとたん、ガブはそっちに行ってしまった。また今度ゆっくり話すとするか。
「さて・・・とりあえず街の外に出てみるか」
ここはどうやら街の中心みたいで、色々な方角に人の流れができていた。人数が多い方か少ない方の流れに乗るか迷ったが、ダンジョンコアを設置してみたかったので人数が少ない方がいいだろっつう事で、人の流れが少なめな南門出口までだらだらと歩いていった。
巨大な門を通り抜けると人の流れは3方向に分岐していて、さっきのガブよりもさらに質が良さそうな装備の奴らは左の道へ、後は俺と同じような初心者装備の奴は正面の道と右の道に分かれていった。
「設置するからにはひっそりとした場所が良いんだろうな。マップでも見てみるか」
この街のある程度の周囲まではマップが表示できるみたいだ。その先は自分で確認しろって事なんだと思う。左の道の先はずっと続いていて先の方は確認できないが、他の道は確認できるな。正面が海岸の砂浜みたいな場所に出る道で、右の道がでけえ森林に辿り着くみたいだ。なんか森林の方がダンジョンコア隠しやすい気がするからそっちに行こう。
右の道を歩いていく内に冒険者は道から逸れて森に入ったり、草を引っこ抜いたりしてる。あれが薬草なのか?鑑定的なスキルが必要なんだろうか。しばらく歩いていくと道から少し逸れた林の中で、1人の冒険者と1匹のモンスターが闘いを繰り広げていた。武器持ってねえし面白そうだから傍観に徹しよう、両方の情報見てみるか。
<キャラクター情報>
名前:エリー
クラス:冒険者
職業:なし
<所持スキル>
<鑑定*1>
<モンスター情報>
名前:シザース
製作者:ギース
位階:1
<所持スキル>
<裂傷*1>
いやーもうこれ何も言わなくても状況分かっちゃうわー。とりあえず鑑定スキル取って薬草拾ってたらモンスターに襲われてっていうお決まりパターンだろこれ。しかも戦闘スキル持ってないから厳しそうだな、モンスターの方はあれが創造者が作った生物ってことか?てことはこの近くにダンジョンコアがあるんだなぁ。名前出るのは地味に厳しそうだわ、位階ってのはレベルか?よくわからん。そして持ってるスキルは明らかに戦闘系だろ、ヤバソウ、でも面白そうだから見てよう。
「はぁぁぁぁぁああっ!!」
身長が小さめな少女、エリーは手元にある鈍器「メイス」を両手で持って思いっきり上から下に振り下ろす。対するシザースはエリーの体格の2倍程で見た目はまんま巨大なカマキリのようだ。体が鈍いのかシザースはエリーの振り下ろすメイスを避けきることはできなく、左半身の脚が潰れてしまう。
「キシャアアアアアアアア!!?」
シザースの悲鳴のような叫び声を聞いたエリーは汗を垂らしながら思わず言葉を零す。
「・・・やったっ!!・・・えっ?」
それは紛れも無い油断であった。脚が潰れても己の武器である腕、そして腕に付属してる刃は健在であった。一瞬意識が逸れたエリーの首元を狙うのは至極簡単で、喉元に対してシザースのスキル攻撃、裂傷は炸裂する。
「がぁっ!?・・・そん・・・な・・・っ!!」
首に裂傷攻撃を受けた衝撃で後ろへ倒れこむエリー、自身のステータスを確認して凄い勢いで減っていくHPの数値を見てエリーは諦めた。
「・・・見てなさい・・・よぉっ!!・あ・・とで・・ぼこぼこ・・・に・・」
エリーの喉からゲーム独特の光のポリゴンが溢れ出ながら、瞬く間にエリーは光の粒子となって爆散した。
「あっという間だったな」
その戦闘を見ていた俺はポツりと独り言を零す。メイスの攻撃が当たった時は意外と勝てるもんだと思ったが油断したのがまずかったな。モンスター側の攻撃もなかなか鋭かった。いやーしかし早く俺も怪獣作って戦わせて見たいなー、さっさとダンジョンコア設置しにいくか。エリーちゃん、君の犠牲は無駄にはしない。
「さーてさっさとここから・・・ん?」
戦闘に勝利したシザース、見た目には変化が無いがなんとなくもう一回情報を見てみるとまさに今、スキルが生えた。
<モンスター情報>
名前:シザース
製作者:ギース
位階:1
<所持スキル>
<裂傷*2><速度上昇*1>
今増えたな・・・エリーを倒した事で増えた・・・のか?もしくは創造者がシザースを強化したのか、そこらへんの情報まったくわかんねえけど取り合えずだな。
「逃げるんだよぉぉおぉおおぉおぉお!!!!」
嫌な予感がびんびん漂ってきてるぜ、つかやべえシザースがこっち見てるやばいやばい。そう言いながら座っていた状態から体勢を立て直し、全速力で来た道を戻ろうとした瞬間。背後に気配を感じた。
「やべっ早」
座っていた状態が悪かったな。俺もまた油断してたって事だ、エリーとシザースが戦闘してた場所から30m程しか離れていなかったが走れば余裕で逃げ切れるだろうと思っていた。が、生えたスキルを確認してすぐ行動したが遅かった。あれ絶対スキルの増え方意図的だよな、ついでに俺も頂いちゃいます的な。そして後ろを再度確認しようとした瞬間・・・。
キィィィィン
鈴の用な綺麗な音を奏で、目の前の景色が回転し、チラっと見えた俺の胴体が首の所から光の粒子を噴射しながら倒れこむのを確認して。
世界は暗転した。
なかなか設置までいきませんねこれぇ!