プロローグ
書いていく内に書き方や表現の仕方が変わるかもしれません。
感想などお待ちしております。長くお付き合い下さい。
「よっしゃぁ!終わったぁっ!!」
エアコンが壊れたこのクソ暑い部屋の中で、高校生の葉月 始はそう叫んだ。時期は真夏、8月2日。気温は32度っていうなかなかクレイジーな暑さだ。この時期にエアコンが壊れるってどういう拷問だよ、干からびるよ?良いダシ出るよ?
「って変な事考えてる場合じゃねぇ!おーいお袋ぉ!!」
部屋から飛び出した俺は、母親を呼びながら階段を降りる。
「うるさいわねぇ、課題は終わったの?」
手を拭きながらキッチンから顔を出した母親は俺にそう聞いてきた。
「終わった!終わったから早くギア返してくれよ!!」
ギア、正式名称はヘッドギアっていうらしい。俺たち学生の間だとギアって呼ぶそうだ。知らんがな。
「よーし、じゃあざっくり確認するから持ってきなさい。」
そうにっこりと腐った天使のような笑みで笑いながら母親は言い放った。さすがお袋、俺の言葉を丸っきり信用してねえ!あとその顔はやべえよ。全部やっといてよかった。ごまかして一部書かないとかいう暴挙に出なくてよかった。チェックされて大目玉食らう所だったぜ!嫌な予感したんだよな。俺は昔から感の良さには無駄に自信があるんだ。それを結果に生かせたかって?それは聞かないお約束だ。
「そもそもあんたがギアで遊びすぎて課題をしなかったから増やされたんでしょう?担任の先生に聞いたわよぉ!取り上げるのは当たり前よね?」
「うっ・・・それを言われると・・・だが!今回はまじで終わらせた!から持ってくるわ」
「早くもってきなさい」
軽い説教を食らいつつもう一度自分の部屋に戻り課題を持ってきた。そして少しドヤ顔で母親に手渡す。
「どーれどれぇ・・・・・・あら、珍しいわね。一応全部やってるみたいじゃない。手抜いてないわよね?」
お袋はそんな俺の顔をスルーして再度確認をしてきた。
「ギアで遊びたいからな、はよくれ」
「まったくあんたねぇ・・・。まぁ、いいわ。ハイこれ。遊ぶのはいいけど勉強もしなさいよ!課題が終わったからってないがしろにしないこと!」
「よっしゃぁぁぁ!わかってるわかってる!」
あきれるような声で最後の忠告を終える母親から没収されていたギアをひったくり、空返事をかましながら自室へダッシュする。なんで急いでるかって?俺のやりたいネットゲームがもうサービス開始してんだよ!!
通称「コア・オンライン」
インターネットの掲示板で評判ちら見してたんだがかなり自由度が高いみたいなんだよな。ネタバレが怖くてそんな見てないから早く遊びたくて仕方なかった。が、学校から出された夏休みの課題が終わるまでギアを没収された俺に逃げ場なし。今日まで自室で缶詰状態でした。人生で初めてがんばったんじゃないか?まぁそれはいい、でさっきの話の続きなんだが、なんとこのゲーム、サービス期間が8月1日~8月31日までの1ヶ月しかねえんだなこれが。なんでそんな変なサービス形態してるのかはしらん。しかも毎年データ初期化らしい。これだけ聞くとクソゲーにしか見えなくなってくるがなんでもプレイヤー同士の闘いが相当面白いらしいわ。俗に言うPVPってやつか?ゲーム好きの俺としてはとりあえず手を出してみたかったんだ。んで今日は8月2日、1日出遅れてますはい。がんばった俺でもあの量の課題はキツかった。
「さあてやるかぁ!!」
そう意気込みながら、ギアを頭に装着して体をベッドに寝かせる。ギアが独特の機械音を立てながら起動し始めた。
「えっと、ダウンロードしてたから後はアイコン選択するだけなんだが・・・。おっあったあった!」
目の前に表示されているメニュー画面を意識で操作し、コア・オンラインのアイコンを選択する。そして、俺の意識は装着していたギアにより飛ばされた。
「ようこそ、コア・オンラインへ。ナビゲートを勤めますレーコと申します」
ふと気が付くと、真っ白い空間に1人の女性がスーツを着て立っていた。黒髪セミロングにメガネ、胸でけえ、目がキリっとしててすげえ仕事できそうな人に見える。ちなみに俺は直立不動、いつここに立っていたのが覚えてねえ奇妙な感覚だが、ギアでゲームに入ると大抵こういう変な感覚に陥るからもう慣れたわ。っと、そんなことより
「ここはちゅーとりある?でいいのか?」
チュートリアル、用は操作説明をするための場所だわな。大抵のゲームではこんな白い空間に説明用のNPCが居るかもしくは説明本が中に浮いてたりする。これも最近だとそんな珍しくないな。
「はい、そのような認識で大丈夫です。それとここではキャラクターメイキングをして頂きます」
「お、キャラメイクか。ちなみにどれくらいあるんです?」
一応敬語で話しかけてみる。お前敬語使えたのかって?ちょっと怪しいけど普通の言葉使いぐらいできるぞなめんな。設定項目多すぎるとめんどくさいんだよな。
「最低限設定して頂きます項目は<名前>と<クラス>となっております。容姿も細部まで設定できますが項目が多いので大抵のお客様は、現実世界の自身の体をスキャンして自動設定する方が多いですね。ちなみに性別反転などは法令によりできないようになっております」
俺も自動設定でいいか、1回だけ別のゲームでイケメンにしようとしたけどプロが使うツールみたいに設定項目多すぎて結局自動設定にしたんだよなぁ。てかそれよりも!
「容姿の方は自動設定でお願いします。あの、クラスってなんすか?」
「はい、それでは<クラス>についてご説明させて頂きますね。」
という風にざっくり聞いた感じだと、3つのクラスがあるらしい。
@創造者:
世界、生物を作ることに特化したクラス。
最初に<ダンジョンコア>を1つ貰えるらしい。
これを好きな場所に設置して自分の世界を広げていくのが目的なんだと。
つまり別ゲーでいうダンジョンを運営、拡大して遊べるクラスみたいだな。
どこまででかくなるんだ?
@冒険者:
戦う事に特化したクラス。
こっちは最初に、体内に<ソウル・コア>ってのを埋め込まれるらしい。
基本的に生物を倒したり、何かを壊したりするとソウルコアに経験地的な何かが加算されるらしい。
自分を最強にしていくってクラスか、こっちも面白そうだな。
@製作者:
道具を作ることに特化したクラス。
これはありとあらゆる物を使って道具を作る事を目的としたクラスらしい。
創造者とどう違うんだって聞いたらこっちは1つの物に色々詰め込んだりするのが得意みたいだ。普通に考えると最強の武器とか防具とか作るのかね、やべえこれも好きだな俺。
「といったクラスが御座います、他に疑問など御座いますか?」
「ん、じゃあクラス毎の人口の割合とか聞いてもいいんですかね?」
「問題ありません、現在の人口分布は創造者、冒険者、製作者の順番で、2:5:3といった分布になっております。」
「冒険者多いなおい、自分極める奴多すぎだろ」
「<クラス>といっても色々な遊び方がありますから、冒険者で色々やってみるって方が多いみたいですね。例えば物を売り買いしてまるで商人のようなプレイ方法も可能です。」
「クラスに縛られすぎる必要はねえのか・・・ん?例えば冒険者が創造者のような遊び方がしたい時ってどうなるんだ?」
「そのような場合は何らかの手段で<ダンジョン・コア>を手に入れる事で、同じような遊び方が可能です。正直結構大変なので最初のクラスは慎重に選んで下さい」
少しレーコさんのキャラが崩れた感じがするが気にしないでおこう、つーか本当にNPCか?
「このような説明で大丈夫でしたでしょうか?」
「あ、おっけーす。ありがとう御座いました。あとは名前決めるだけで終わりすか?」
「最後にいくつか重要な事を。まずはゲーム外に関してです。ギアの体感加速係数の値について、このゲームでは<10倍>を採用しておりますので現実世界に戻った時に混乱しないようご注意下さい。」
「なん・・・だと・・・」
呆然としていた。このギアの体感加速係数ってのは要するに現実時間との差異だな。10倍ってことはこっちの世界の時間は現実世界の時間の10倍。つまり現実世界の1時間が10時間ってことだ。この係数って技術的に上げるのが難しく、最大で2倍程度が限界って聞いてたんだが。それだけこのゲームが凄いってことだろう。やべえ興奮してきた。てか課題をこのゲームの中でやりたかった。サービス開始して1日しかたってねえからどっちにしろ間に合わなかったか。二週間くらい前から課題やり始めたしな。
ん、ちょっとまてよ?
「10倍っつうことは、今ゲームの中って総合的に10日ぐらい経ってます?」
「その通りで御座います」
「がっでえむ!!!!」
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した。
いやまぁネトゲってなんだろうな、こう出遅れるとかなり損した気分になるんだよな。結局最初の時間差なんて気にならなくなるんだが不思議なもんだ。
「続いてゲーム内の事について。どの<クラス>にも共通して<スキル>という物が存在しています。ただし、この<スキル>というものは自分の意思で創造、習得する物となっております。」
「・・・ん?例えば[ソードスラッシュ]みたいな技があってそれを習得するとかじゃないのか?」
「はい、例えば葉月様自身が[ソードスラッシュ]という技を思い描いて、スキルを習得したとします。そして別のお客様も[ソードスラッシュ]という名前で創造し、習得したとしても、創造したイメージが違えば、それぞれ同名ですが違う技になります。ここがこのゲームの重要な所で、創造者なら生物を作るスキル。冒険者なら先ほど言ったような技のスキルなどを習得していくのが肝心です。スキル習得の数が増えれば増えるほど、必要なコストも上がっていくのでご注意下さい。」
「おぉぉ!つまりスキル習得さえすればなんでもできるのか!」
「もちろん現実と離れたイメージをすればするほど、必要なコストは上がっていきます。よくあるのは魔法などの異能を習得する場合などですね。炎を出すだけならそれほど必要コストは御座いませんが、自身の体を全て炎に置き換えて巨大化したりなど無茶なイメージを致しますと、それに見合った必要コストが要求されます。必要コストが足りない場合は習得できませんのでご注意下さい。ちなみに相手の服を透過して見るなどの<スキル>は習得しようとしてもシステムが却下してしまうのでお止め下さい。」
俺をなんだと思ってるんだまったく。今まさにそんなスキルも取ってみようかなって思ったりとかそんな事はねえよ?本当だよ?ていうかレーコさんちょっと容赦なくなってきてない?NPCとは?つかそんな事よりあれだ。これが掲示板で噂になってた自由度の話になってくるんだな。話聞いた感じだと必要コストってのが足りてたらなんでもできそうだなまじで。それが何なのかわかんねえがまぁゲームやってたらわかるしいいか。アニメの再現技とかやる奴いるんだろうなぁって思う。
「私からの説明は以上となります、他に質問などは御座いますか?」
「いや、あんがと。大体分かったんで大丈夫す」
「それでは、再度葉月様が使用する<名前>と<クラス>をお教え下さい。」
名前は本名から取るからいいや。問題はクラスだクラス!どれも面白そうだったがそうだな・・・。冒険者は大体他のゲームでもやったしいいかな、また機会があればこれで遊ぼう。製作者で最強の装備作って自分で使って冒険するってのもアリだな。けど・・・もっと面白そうなのがある。
「じゃぁ名前は[ハジメ]、クラスは[創造者]で、容姿はスキャンでお願いしやす」
俺が選んだのは創造者!最強冒険者、最高製作者を目指しても面白そうだった。だがしかし!生物を作る事に特化してると聞いてぶっちゃけこれに決めてた。だってほら、「ぼくのかんがえたさいきょうのかいじゅう」作りたいだろ?どっちかっていうと世界創るのはオマケだいらねえ。怪獣作ろうぜ怪獣。これはロマンだ、異論は認めない!到達するべき場所はアレだ!最強の冒険者を蹂躙する怪獣作ろう。燃えてきた。
「------データ入力完了しました。それではハジメ様、良い旅と出会いを」
レーコさんがそう言い放った途端、白い空間から俺の体が消えていく。
「色々ありがとう御座いました、最後に一ついいすか?あんたNPC?」
消える間際、俺は軽い気持ちで思っていた疑問をぶつけてみた。
「あら?お伝えしていませんでしたね。私はゲームマスターの1人、玲子と申します。・・・ふふ、びっくりした?流石に体感加速係数10倍は伊達ではないのよ?こうやってゲームマスター自ら説明しても余裕があるぐらい手が回るの」
「あんたGMかよ!どうりで会話の端々に感情篭ってるなって思ったわ!!つか本名じゃねえのかそれ、今度是非お茶しましょう!!!」
生意気な高校生が美人のゲームマスターにナンパをかます。そして玲子さんはキョトンとした顔でこう言い放つ。
「・・・ふふっ、面白い子ね。でも残念、現実世界であなたと会う事はできないのよ」
「ははっ、ですよね~・・・」
フラれた俺は少しションボリしながら答えた。だが、体が完全に消える寸前に、俺は確かに聞いた。
「そっちの意味じゃないのよ?ただ[物理的に]会えないだけだから。葉月 始くん?」
「え?それってどういう・・・あれ?あんた俺の本名なんで・・・」
そして葉月 始という存在は、ハジメというプレイヤーキャラクターにコンバートされ、仮想世界へと旅立った。
ハジメが居なくなった白い空間でポツりと1つの音が落ちる。
「あなたは超えられるかしら?・・・おっと。次の挑戦者・・・じゃなかった、お客様をお出迎えしないとね」
彼女は微笑みながら、そして決意を胸に次のお客様を招待する。
世界は、全ては、始まる。