罪と嘘
白く塗られたコンクリート剥き出しの壁に沿って、吊るされたモノクロの写真たちが暖簾のように揺れた。その部屋の空気はいつも独特な匂いに包まれていて、2人の温度で酸っぱさと甘さが混じり合う。
静まりかえった神聖な空間に、ベッドの軋む音が一回艶かしく響いた。一糸纏わず素肌を晒し、重なり合った瞳が小さく震える。
静かに優しく彼が私にキスをした。それは穢れを知らないような軽いキスで、2人の関係を聖域へと導くための儀式でもあった。
私はたまらず怖くなって、彼の首にしがみつく。
「どうしたらいい‥‥‥。好きすぎて、怖い。私の思いはこれからどうなってしまうのか分からなくて、怖くてたまらない‥‥‥」
彼は私をじっと見て、「その思いも怖さも、僕がずっと受け止めるから、美咲は何も考えなくていい」と言った。
「そんなこと言ったら、本当にずっと好きでいるよ?」
私が不安そうな顔をすると、「いいよ。美咲は気持ちのままに、僕にぶつかってくればいい。コントロールは僕がするから」と彼は優しく笑った。そしてまたもう一度、私の唇に軽く優しくキスをする。
色香漂う細めた彼の目に、私は酔いそうになり、口を薄く開いた。彼は口角を上げて、満足気に微笑む。
「だから、美咲は‥‥…‥とことん僕に堕ちて」
彼はそう言った後、私の唇を貪るように激しく求めた。さっきまでの軽い優しいキスとはまったく正反対な刺激的で乱暴なキス。彼はそのまま流れるように、私の身体に侵蝕する。
人を愛することが罪になった。この愛を貫くために嘘が必要になった。
私は罪を繰り返した。そして何回も嘘をついた。始めてしまった罪と嘘から、もう逃れられなくなっていた。