表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絆の肖像  作者: godlove
3/3

僕達が強くなる

お袋、俺と弟はまだまだ子供だった。

それでも、この小さな手でお袋を守りたかった。


〜〜〜〜〜〜〜


年明けの1月1日は、俺達兄弟が一年で一番金持ちになれる日だ。

小学4年生になった俺には500円、3年の弟には400円。

お袋は、500円玉ではなく50円や10円を混ぜた重いお年玉袋をくれた。

500円は、我が家の一日分の生活費に相当する大金だ。

俺も弟も、ポケットの中の小銭をジャラジャラと音を立てて喜んだ。

俺達のお年玉の使い道は決まっていた。

「お菓子買ってくる!」


外へ出ると一面銀世界が広がり

空から降りてくる雪の一つ一つが風に揺れながら俺達の方にゆっくり近づいてきた。

息を吸うたびに鼻が痛くなって、それはとても気持ちよかった。

足を踏み出すたびに「ギュッギュッ」となる音を楽しんだり

車が通った後のアイスバーンで滑って遊んだりしながら歩いた

雪合戦をしながら駄菓子屋に向かう、弟は息を切らせて俺を仕留めるための雪玉を

どこからか拾ってきたスーパーの袋にたくさん入れている。

俺はその量を見て「ぎょっ」となり

一目散に逃げ出した。

後ろから

「兄ちゃーん!兄ちゃーん!」

と声が聞こえたが、あれほどの雪玉を当てられてたまるかと

俺は弟を待ちはしなかった。


程なくして、弟が駄菓子屋についた。

大量の雪玉はすっかり解けてしまっていて、大きな塊になっていた。

小学3年生の弟の体力的に考えて、相当重かったろう。

元々丸い弟の顔が真っ赤になって、それはそれで可愛らしかった。

もう捨てろと言ったが

この弟はどれほどこの兄に恨みがあるのか

けして大きな雪玉を捨てようとはしなかった。


お目当てのビックリマンシールを3個買った。

残り410円、これは貯金するつもりだった。

新しいビックリマンシールのシリーズが出たら誰よりも最初に買うのだ。

弟は5円チョコを3個かった。

弟も残りは貯金するつもりだった。

俺は早くビックリマンの袋を開けて、中身を確認したかったがぐっと我慢した。

弟も5円チョコを大事にポケットにしまいこんだ。

あいかわらず大きな雪の塊を持って。


行きに比べて、帰り道は長く遠かった

さっきまでチラチラという風な雪模様だったのに

段々と大雪といえるほどになってきた。

それにこんなときに限って学校で聞いた

「雪女」の話まで思い出して、勝手な妄想にとりつかれてしまった。

あっという間に遠くが見えなくなった。


雪女が出てきたらどうしよう


とにかく恐ろしくなって弟の手をギュッと握った。

5分程歩くと、やっと俺達のアパートが見えてきた。

路肩には見慣れた車が止まっていた。

見慣れた車の助手席には、親父を待ってるおばさんが遠くからでも見えた。

車の横を通り様にチラッとオバサンをみた。

お袋とはまったく違う、茶色でパサついて大きくウェーブした髪

派手な化粧で隠したシワ

お袋の方が綺麗なのに。


玄関に近づく前にお袋の声が聞こえてきた。

半開きになった玄関のドアから親父の足が見えた。

「いらないから帰って!」

「お前にじゃない!子供に渡してくれ!」

「そんな事される筋合いはないよ!帰りなさい!」

やさしいお袋が、人にこんなに怒っているのを見るのは初めてだった。

俺も弟もなんだか怖くて、物陰に隠れた。


親父は俺達のお年玉を渡しにきていた。

親父からすれば当然の事だったんだろう。

お袋はそれを断固として拒否していた。

養育費さえ払わない親父から、金を受け取るわけにはいかなかった。

二人とも興奮してきて、親父の声がどんどん大きくなっていった。

声になるとも思えないような親父の怒声は、お袋を黙らせた。

弟が大きな雪の塊を持って走っていった。

俺が、あっと思ったときには弟は半開きの玄関めがけて雪の塊を投げつけた。

それは惜しくもドアに当たってバーンとなった。

「なんでそんなことするんだー!」

と叫んだ弟の声と、それ以上言葉が出てこない子供の幼稚さが

親父の熱を冷めさせた。


遅れて俺が言った「親父は帰れ!」のセリフが

親父の親父たる理由の全てを親父から奪い去った。

親父は何も言わず、俺と弟の頭をすれ違い様に優しく撫でていった。


家に入るとお袋はガックリうなだれていた。

そして疲れていた。

俺と弟は買ってきたお菓子をポケットからだして

お袋に渡した。


俺のビックリマンと弟の5円チョコ


お袋は涙をぐっと堪えてお菓子を食べていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ