かけがえのないもの
「太一、これを見てほしい」
省吾は1冊の雑誌を太一へ差し出す。
太一は雑誌を受け取り、省吾へ問う。
「これは?」
それはムキムキの逞しいパンツ1枚の男性が表紙を飾る、『はち切れそう!』という雑誌であった。
「開けばわかる」
省吾はそれだけを述べ寂しげな表情を浮かべている。
太一は恐る恐るその雑誌のページをめくった。
そこには海外の物であろう、逞しい男性が何かのコンテストの表彰らしき壇上にあがりその肉体を見せつけている写真が見開きになっている。
「どうだ?」
衝動を抑えきれないかのように、省吾が身を乗り出して太一に問い詰める。
「うん、すごいと思う」
太一は率直な感想を述べる。
「違う! もっとこう胸の奥から何か湧き上がるものを感じないか!?」
省吾は更に身を乗り出し熱く語る。
「ああ、君の言いたいことは凄くよくわかるよ」
そっと雑誌を閉じ、太一は語り続けた。
「でもね、世の中にはもっと大事なものがたくさんあると思うんだ」
「バカなっ! ソレより大事なものなどあるものか! それはそれは……俺にとって全てだっ!」
省吾は怒りからか声を荒らげ、わなわなと震えながら立ち上がる。
「まあ、聞いて欲しい。省吾」
太一は淡々と語り続ける。
「確かに、君にとってそれは1番大事なものなのかもしれない。それを否定することは僕にはできない。だけどね、君にも譲れないものがあるように、僕にも譲れないものだってあるんだ」
「お前にとってコレより大事なものとはなんだっ!」
雑誌を手に、省吾が問い詰める。
「それはね……」
太一は省吾の肩に手を当て優しく告げる。
「君との友情だよ」
2人の間を穏やかで平穏な時間が流れる。
静けさを消し去るように省吾は話した。
「今日も暑いな」
「うん、暑いね」