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ありふれた日常のありふれた光景  作者: 麗しの賢者
5/9

希望

まだ続くのこれ

 「なあ、太一」

 「なんだい、省吾」

 

 省吾は太一へ話しかける。

 

 「お見舞いに行こう」

 

 省吾は1つの提案を出した。

 

 「お見舞いか、粋だね。よし行こうか」

 

 太一は省吾の提案を快く承諾した。

 

 「やはり、お見舞いというからには手土産の1つも必要ではないか?」

 

 眼鏡をくいっと持ち上げ、省吾は語る。

 

 「手土産なしは無粋だね」

 

 太一は頷く。

 

 「太一、いくらもってる? 俺は21円もある」

 「さすがだね省吾、僕は13円しかないよ」

 

 2人の所持金は合計で34円もあった、これだけの金があれば世界を金の力で動かすことも可能だと2人は確信した。

 しかし、そんな思惑に対し世間は冷たかった。仕方ないので駄菓子を1つ買い、市内にある病院を2人は訪れた。

 

 病院内に無数にある病室の1つ、そこに狙いを定めお見舞いを敢行する。

 病室内には寂しげに窓から外を眺める、1人の老人の姿があった。

 

 「この方は誰なんだい? 省吾」

 

 太一は見知らぬ老人の事を省吾へ尋ねる。

 

 「俺の観察眼をなめてもらっては困るな、病室に入る前に名前は確認済みだ。恐らくだがあの方の名前は田村さんで間違いないであろう」

 

 省吾は老人を指差し誇らしげに語る。

 

 「田村さん、お見舞いに参りました」

 

 省吾が跪き田村氏へ挨拶を述べると、太一もつられるように跪いた。

 

 「だ、誰だいあんた達は?」

 

 田村は困惑の声をあげる、見知らぬ男子中学生2人が突如現れ自分の前に跪いてるからであった。

 

 「なぁに、名前など我々の間に不要っ! さぁ! 今日は盛大に盛り上がりましょう!」

 

 省吾は立ち上がり田村へ抱きつき涙する。

 2人が聞くところによると、田村は長年入院生活を送っており身寄りもなく、末期の癌により死を待つだけの存在であった。

 

 2人と田村は語り合った。

 この世界のこと、学校であった出来事、猫の肉球のこと、色んな話をした。

 楽しい時間はあっという間に過ぎ、とうとう別れの時が訪れた。

 

 「そろそろお別れのようだ……、あんたと過ごした時間……、楽しかったぜっ!」

 

 省吾は涙ながらに立ち上がる。

 

 「もう行ってしまうのかい、また来てくれるかな?」

 

 見れば田村も2人との別れを惜しむかのように涙していた。

 

 「約束はできない……、だがあんたとの思い出を俺はずっと忘れないだろう……」

 

 2人は病室から出て行った。

 病院から出たところで太一は省吾へ話しかける。

 

 「ねぇ、省吾」

 「なんだ? 太一」

 

 太一は先ほどの会話の中興奮の余り握り締めて、粉々に砕けてしまったスナックの駄菓子を食べながら省吾に問いかける。

 

 「あの人はどちら様?」

 「知らん」

 

 

 

 

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