今僕にできること
むしゃくしゃして書いた、反省はしている。後悔はしていない。
5月半ば、まだ5月とはいえ気温が高い日も多く、太一は窓からどんよりと曇った空を見上げていた。
「一雨きそうだな」
太一は嘆くように呟いた。
中学3年になり、来年には受験も控えているというのに授業には身が入らず、現状のこのありふれた日常が酷くつまらないものに感じていた。
「つまらない」
それが太一の口癖となっていた。
曇天は次第に暗雲となり、ぽつぽつと雨が降り始める。
「太一! た、大変だっ! 雨が降り始めたぞ!」
「ッ!?」
突如後ろの席に座る省吾が立ち上がり危機迫った大声をあげた。
「お、俺は傘を持ってきていないんだっ! このままじゃ俺は俺は……!」
省吾は頭を抱え、その場に蹲ってしまう。省吾は太一にとってかけがえのない友達である、それを見捨てるようなことなど太一には出来るはずもなかった。
「よっしゃあ! 任せろ!」
太一は授業も顧みず、脱兎の如く廊下へ駆け出した。
風よりも雷よりも疾く廊下を走り、屋上への階段を3段飛ばしで駆け上がる。
屋上に出た太一は両手を天高く掲げ、叫んだ。
「雨よ! 静まれっ!」
降り止まない雨に、太一の身体は次第に濡れていく。
それもそのはずだ、太一にそんな能力はなかった。
仕方がないので教室に戻るとか細い声で嘆いた。
「すまん、僕には無理だった……」
それを見た省吾は太一の肩を叩き眼鏡をくいっと持ち上げ非常に残念そうな面持ちで述べた。
「君には失望したよ」
放課後になるまで雨は振り続けた。
時計は午後17時を指している、とうに下校の時刻は過ぎていた。
降り止まない雨を見上げながら、太一と省吾は学校の玄関に佇んでいた。
「このままでは濡れてしまうな」
外を見つめ省吾は呟いた。
「ああ、濡れてしまうね」
太一も呼応するように呟く。
「だけど! 俺とお前ならっ! 2人ならどんな苦難も乗り越えられると思わないかっ!?」
省吾は外を指差し、高らかに告げた。
「そうだな! 僕1人じゃ挫けてしまいそうだけど、隣には省吾がいてくれる! 2人ならきっとやれる!」
太一と省吾は手を取り合い外へと駆け出した。
濡れることも厭わず、2人は笑いながら校庭へ飛び出す。
太一の前を走る省吾が泥濘に足を取られ転ぶ、それを見た太一は迷わず自分も転んだ。
泥だらけになりながら2人は笑った。
「雨は天の恵みだ! それに傘を差すなど無粋だとは思わんか太一!?」
「そうだね! 省吾! 君の言うとおりだ傘なんて必要ない!」
ワルツを踊るように雨の中2人は手を取り合って舞う、たとえ泥まみれになったとしてもこの手を離さないと2人は誓った。