表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
INNOCENT STEAL -Last GAMBIT-  作者: 豹牙
エピローグ Phantom Thief -FRAGRANCE-
98/100

88 再会

 ミルダに会ってから十五分歩き続けて、止まった場所は見覚えのある看板の前だった。


「ここって、クリムゾン・スターじゃねえか」


 黄色の髪の悪魔のイラストと、『CRIMSON☆STAR』という文字。

間違いなくマリが描いた看板だ。

そういえば支店にはマリが働いているとアルジオが言っていた。


「ちょっと待ってて」


 ミルダは扉を少し開ける。

クレアラッツにある本店と同じ、ベルの音が木霊した。


「姉さん、セビ兄さんってまだ帰ってこないの?」

「帰ってくる? あいつがここに住んでるのか?」


 ハミルが前に出ようとすると、ミルダが口に指をあてて制止してきた。

ハミルは仕方なく引き下がる。


「まだだよ。それよりミルダ、朝からいなかったけど、また賭け事してたの?」


 この声は、まさか。

ハミルはミルダを押しのけて扉を開ける。


「ミルフィさん!」


 少し大人びたが、間違いなくミルフィだ。

クリムゾン・スターの赤いエプロンをしている。


「ハミル? どうしたの」


 ミルフィの声は歓迎というより驚きに近かった。


「こいつについて調査してくれって、ローズに頼まれたんです。セレーネ=ラスケティアって聞いた時はまさかとは思ってたけど」


 ハミルは怪盗フローラルの予告状を見せる。

ミルフィは軽く目を通すと、落胆したような顔をした。


「この予告状は無視していいよ。だって、セレーネさんの宝物はもうないから」

「もうないって」

「セレーネさんが昔集めた『宝石』が、宝物としてみんなに伝わってるんだ。この島は悪魔の全滅とか知らないから、未だに綺麗な石が存在してると思ってるんだよ」


 予想だにしなかった事態だ。

悪魔のいる世界が当たり前だと思っていたハミルにとって、この島の住民の気持ちは理解できなかった。


「じゃあ、もうないって伝えた方がいいんじゃないですか?」

「悪魔のことを一から説明するのも大変だからね」

「……あと、セヴィスはここにいるんですよね」


 ミルフィの表情が強張った。


「セビ兄さんはしばらく帰ってないよ。あの人忙しいから」

 と、ミルダが言った。


「忙しいのか?」

「この島を治安のいい島にしたいっていうセレーネおばさんの遺言を叶えるために、セビ兄さんがこの島で悪いことをする奴を取り締まってるんだよ」

「それって、セヴィスがこの島で警察みたいなことしてるってことかよ」

「ちょっと違うけどね。まあ、セビ兄さんも元泥棒だから捕まえるのも上手いし、元S級だから誰も勝てないんだよね。この島の人はS級とか知らないけどさ。最近は悪い奴も減ったよ。悪いことしたらセビ兄さんに痛みつけられるって、みんな言ってるし。だからって、姉さんに寂しい思いをさせるのもどうかと思うけどね」


 信じられない、という言葉がすぐに浮かんできた。

セヴィスが悪人を捕まえるなど、想像もできない。


「さっきから姉さん姉さん言ってるけどよ、ミルダってミルフィさんの弟なのか? 名前も似てるし」

「名前は偶然だよ。僕の名前はおばさんがつけてくれた名前だからね。姉さんはおばさんの孤児院を引き継いだんだ。僕もレストランのお手伝いをしてるんだよ」

「そうか。……なんか、セヴィスっていっつもミルフィさんを悲しませてるよな」

「そうそう。たまに帰ってきてもすぐ寝ちゃうんだ。姉さんが毎日遅くまで待ってるの気づいてないし、あの人ほんと鈍いんだよ。セビ兄さんは強いしかっこいいけど、男としてはダメだよ。僕だったら帰ってきてすぐに抱きしめて、添い寝して……」


 ミルフィが無言で怒っているのを察したのか、ミルダは笑いながら口を塞ぐ。

随分ませた子供だ、とハミルはため息をつく。

この人を馬鹿にする態度、誰かに似ている。


「そうだ、何か食べてく?」


 ミルダが笑顔で言う。

険悪な空気を誤魔化そうとしているらしい。

ハミルは時計を見て、夜までの時間を確かめる。


「まだ時間があるな。腹減ったし、セヴィスが好きなハンバーグでも食べようかな」

「どうしたんだ? 店の入り口で集まって」


 無意識に声のした方を振り返る。

男はサングラスをしていて顔がよく分からない。


「あ、セビ兄さん」


 ミルダが笑いかける。

ミルフィが目を見開いている。


「えっ!?」


 ハミルは横にいる男をもう一度見る。

逆光でよく見えなかったが、男の髪は確かに紫色だ。

五年前と比べると髪が伸びているが、前よりはさっぱりしている。


「ハミル、お前どうして」

「こいつが海に浮いてたのを漁師が発見して、ローズが調査を依頼してきたんだよ」


 驚いているようにも見えないセヴィスに、ハミルは予告状を見せる。


「ああ、フローラルの予告状か。海に落ちたやつが、まさかハミルにまで伝わるなんてな」

「ああ、じゃねえよ。久しぶりに会ったのになんだよそれ。連絡先も教えずに消えやがって」

「お前が警察じゃなかったら教えた。さすがにローズに捕まるのは困るからな。何年牢獄暮らしになるのか分からない」

 と、セヴィスは告げた。


 それだけの理由で、自分を信じてくれないのだろうか。

こいつは未だに心を開いてくれないんだな。

ハミルは一度息を吸った。


「それじゃお前、どうするんだ? 今、ここにおれがいるわけだろ」


 ハミルは試すように言った。


「どうするって、別に何もしない」

「おれが怪盗フレグランスを捕まえるって言っても?」

「何もしない」

「じゃあお前、このまま捕まるぜ?」

「ハミルが俺を捕まえるとは思えない」


 もしかして、ハミルが捕まえないことを信じてくれているのだろうか。

ハミルは思わず口角を上げる。


「お前、おれが捕まえないって思ってるのか?」 

「いや、お前が俺を捕まえられる程凄腕の警察だったら、今頃牢獄だろ」

「お前なぁ……」


 セヴィスは相変わらずだ。

だが、それでいい。

彼はむしろ変わっていない方がいい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ