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INNOCENT STEAL -Last GAMBIT-  作者: 豹牙
終章 光水の怪盗
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83 怪盗フレグランスの予告状

 ガラスを割れば、またサキュバスの攻撃を受ける。

そんなことは誰だって分かっている。

しかしそれを意に介さず、セヴィスはガラスを割って建物に入った。


「バカねぇ」


 サキュバスは騙されているふりをしながら、考える。

先程から何度も誘導の素振りを見せているセヴィスは、何か罠を仕掛けているに違いない。


「わからないの? ガラスを割ることが、死ぬことになるって」


 セヴィスの表情や振る舞いはあてにならないと、最初から分かっていたはずだ。

だが、それに何度も騙されている。

はったりに見えたダイヤモンド製ナイフは、本当に持っていた。

そこでそのナイフを投げてくるのかと思ったら、同じ色の瓶に入った香水を投げてきた。


「それで逃げたつもり? 血の跡が残ってるわよぅ」


 地面に残る血の跡をゆっくり辿りながら、サキュバスは魔力権でガラス片を浮かせ、自分の周囲に漂わせる。

このまま彼が何もしてこないわけがない。


「左足がだめになっちゃったのに、よく逃げるわねぇ。さすが怪盗。わたし、また楽しくなってきちゃった」


 血の跡は、窓の直前で途切れている。

窓は割れていない。

ここは普通に開けたようだ。

だがその先のビルのガラスは割れている。


「証拠、思いっきり残ってるわよぅ」


 サキュバスは一人で楽しそうに喋りながら、窓に手をかける。

すると、右手がガラスではない何かに触れた。


「『命をいただく』?」


 窓に貼り付いていたのは、フレグランスの予告状だった。

それを見て、サキュバスは高らかに笑い声をあげた。


「あっはははははっ! ちょっと、どこまで笑わせるのよぅ!」


 サキュバスの笑い声は十秒程で終わった。


「わたしの左腕を切断したのは見事だったわよぅ。ここまでわたしを追い込んだのはきみが初めて。でも、本当にそれだけよぅ。きみは、わたしに勝てないの。何度逃げてもおんなじなのよぅ」


 サキュバスは予告状を破り捨て、窓に足をかける。


「さーて、これだけ猶予をあげたんだから、もうちょっと楽しませてよねぇ」


 サキュバスの身体がふわりと宙に浮いて、窓から外に出る。

下に安心して座り込んでいる祓魔師がいる。

サキュバスはそれを素通りした。

もはや他の人間に興味などなかった。


 周囲に漂うガラス片が、街灯の光を反射した。

モルディオの避難指示が突然だったために、電気は消えていないようだ。


「このビルはもう出たわねぇ。時間を与えすぎちゃったかしら」


 サキュバスは淡い光を放つガラス片を纏い、割れた窓を通り抜ける。

中には細長いガラスケースと、いくつもの『宝石』が並んでいる。


「ここは……『宝石』店ねぇ」


 サキュバスはガラスケースに手を添え、中の『宝石』を眺める。

このガラスケースはあまり希少性がない黄色の『宝石』ばかりだ。

値段も安い。

それに比べて一つの頑丈なケースに赤色の『宝石』が入っているのは、フレグランス対策だろうか。


 しかし折角のフレグランス対策も、今では機能していない。

天井の防犯レーザーはサキュバスが下を通っても一切反応しない。

店主が避難している間に悪魔が電線を切ったか、たった今セヴィスが壊したのか。

どちらにしろ、今は盗み放題ということだ。


「子供たちの生きた証に値段をつけて、それを身に着ける女って、醜いわねぇ。許せないわ。だから人間の女って嫌い。殺したくなっちゃう」

 と言って、サキュバスは血の跡を辿って『宝石』店を出ようとした。

その時、目の前の扉が頑丈な壁で塞がれた。


「ちょっと、なに?」


 うるさいブザーが鳴り響き、周囲の窓も壁になった。

サキュバスが扉を叩いても、ヒビが入る気配すらない。

完全に閉じ込められたようだ。


「壊れたんじゃなかったの?」

「天井にあるのは温度で感知するモモン式レーザーだ。アンタには温度がないから感知しなかっただけだ。それで防犯システムが動いてないとでも思ったか?」


 背後から声がした。


「俺は何度か触られたから分かってた。アンタは手も舌も冷たかったからな」

「どこまでも抜け目ない子……!」


 振り返った瞬間、サキュバスの視界が白い網で覆われた。

サキュバスの動揺で魔力権が解除され、ガラス片が全て地面に落ちた。

網の向こう側にいるセヴィスが何かスイッチを押したように見えた。


「それは、俺を捕らえるために設置した網らしいな。この店は警備が厳しいから、俺は今まで何度も下見してきた」


 サキュバスは身体を覆う白い網を引っ張って剥がそうとした。

だが、余計に網が絡まってきた。

網の先端は床にぴったり貼りついている。

さらにもがくと、右腕に網が引っかかって、身動きが取れなくなってきた。


「それはもがけばもがく程絡まるようになってるんだ。まあ、通り抜けることに慣れきったアンタに、このシステムが分かるわけないか。いくら悪魔の頭領でも、『宝石こども』たちを救い出す術は身に着けてなかったみたいだな」


 セヴィスは左足の痛みに顔をしかめながら、一歩踏み込む。


「アンタが死ねば、女が身に着ける『宝石』だって消える。アンタの嫌いな、醜い女もいなくなるじゃないか。アンタだって十分楽しんだだろ。よかったな」

「わたしはまだまだ楽しんでないわよぅ! 早くこれを解いて! 拘束を解かないと、モルディオのいる指令室にもっと悪魔を送り込むわよぅ」

「……あいつは、死んだんだろ。アンタのタロットカードが、感覚で教えてきた」

「……ハミルとミルフィちゃんがいる刑務所にも悪魔を送り込むわよぅ」

「やってみろ。今アンタを殺せば済む話だからな。それであいつの仇も取れる」

「わたしは彼らをすぐに殺すことができるわ! わたしが死ぬ前に、みんな死んじゃうわよぅ!」


 サキュバスはそう言いながらも、自分の前に悪魔を呼び出そうとしていた。

そして右腕を伸ばす。

しかしすぐにナイフが飛んできて、右腕も切断された。


「くっ!」

「すぐに殺せる……かつてクロエが言ったその言葉に惑わされて、俺は両親を殺された。だからもう迷わない。そう決めたんだ」


 鎌がゆっくりと持ち上がる。


「これで最後だ。予告通り……アンタの命、いただく」


 荒々しい鎌の刃が、縦に一閃する。

サキュバスは真っ二つに斬り裂かれた。


「キャアアアア!」


 サキュバスの絶叫が、夜のクレアラッツに響き渡った。

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