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INNOCENT STEAL -Last GAMBIT-  作者: 豹牙
二章 薔薇の諜戦
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8 男子たちの懇願

 三学期最初の日、エルクロス学園では始業式の直後にテストがある。

それが終わると、すぐに放課になった。


 テスト中眠っていたセヴィスが席で目を擦っていると、目の前にハミルがやって来て、机を両手で叩いた。


「セヴィス聞いてくれよ!」


 ハミル以外にも何人かの男子が自分を囲んでいる。

よく見るとこのクラスのほとんどの男子がいる。

この場にいないのは自分の席で学級日誌を書いているモルディオぐらいだろうか。


「どうしたんだ?」

「女の子にフラれたんだ! グレイがいるからって」

「お前がフラれるのはいつものことだろ」

 とセヴィスは言った。

しかし、今日は周囲の男子の反応が違う。


「それだけじゃねえ。シェイムもグレイばっかり見てるし」

「そりゃ、あれだけ女子が群がってたら誰だって気になるだろ」

「こいつの話も聞いてやってくれ」


 ハミルは親指で隣の男子を指す。

その男子の目は涙で赤くなっていた。


「グレイに……彼女とられた。泣いてたら、チェルシーにも女々しいって馬鹿にされた」

「俺に言われても……」

「頼む! グレイを倒してくれ! 同じ男なら分かるだろ、お前しかできないんだ!」


 男子はセヴィスの手を取って、涙目で懇願する。


「おれも候補生トーナメントであいつにやられたんだ! 仇を討ってくれ!」


 周りの男子もハミルも、皆似たような表情をしている。


「何で俺なんだ? 男子ならハミルとかモルディオもいるだろ」

「だってモルディオは優秀だし、グレイをボコボコにしてくれなさそうっていうか……」

「俺にグレイをいたぶれってことか?」

「グレイが個人戦に出られないくらいに打ちのめすには、S級の力が必要なんだ!」


 このクラスの男子はモルディオの腹黒さを知らない。

彼が傷を抉る拷問器具のような武器を作り、平気で人を嬲り殺すような人間であることなんか知る由もない。

それどころかモルディオは最近嫌味を言わなくなったので、クラスの中ではむしろ評価が高くなった。

それに気づいたセヴィスは嘆息した。


「グレイはハンバーガーの時の借りもあるから、最初からそのつもりだったけどな」

 とセヴィスが言うと、男子たちは嬉しそうに去って行った。

それと入れ替わるように、モルディオがやって来た。


「グレイを打ちのめす、かぁ。これは期待に応えないといけないね」

「……やる気満々だな」

「まあね。最近のチェルシーもグレイ様とタッグ戦出るとかうるさくてムカつくし。打ちのめすしかないね」


 モルディオはチェルシーが教室に入ってきたにも関わらず、堂々と文句を言った。

もし聞こえていたら久しぶりの乱闘が始まっていただろう。


「お前の『打ちのめす』が『嬲り殺す』に聞こえるのは俺だけか」

「君の耳さ、ちょっとおかしいんじゃない」


 セヴィスはおかしいのはお前の頭だろ、と言いかけた口を閉じた。


「で、冬休み中に何か分かったか?」

「正直、報告したくなかったよ。はっきり言って、一歩も進んでない。驚く程手がかりが掴めないんだ」

「そうか」

「まあ掴めてたらグロウなんてとっくに捕まってるよね。でも明日の夕方、面白いニュースが放送されるんだ」


 このモルディオの意味深な言葉以外、今日はいつもと何も変わらなかった。


***


 次の日。

予鈴がクレアラッツの街中に響き渡る。

学園では一時間目が始まった。


「よし、三学期の最初は復習だ。適当に当てるから、呼ばれた奴は立って答えろ。まさか休みで怠けて忘れた、なんてことはないだろうな」


 青いジャージと木刀を持ったいかにも古風な教師が、試すように言う。

首から下がる名札には『2年A組担任 悪魔防衛担当教官 ジャック=バーレン』と書かれている。


「おっS級の問題児が起きているのか? 珍しいな」


 ジャックの視線が窓側の一番後ろに向く。


「セヴィス、祓魔師の悪魔に出会った時の対応を答えろ。これならお前でも分かるだろう。一年の最初にやった、基本の中の基本だぞ」

「悪魔に出会った時の対応……?」


 セヴィスは頭を掻く。

それを見た生徒たちは、こいつは絶対に答えられない、と言うように顔を見合わせている。


「お前はまだ覚えていないのか。仕方ない、ヒントをやろう。『まず〇〇、すぐ〇〇、最後に〇〇』だ。〇〇に当てはまる言葉を答えろ」


 全員の視線が後ろに集まる。

クラス全員の視線の的は少し考えた後、答える。


「まず瞬殺、すぐ惨殺、最後に抹殺」


 辺りがざわめいた。

それからすぐに笑いの嵐が起こった。


「ふざけているのか貴様! 『まず逃避、すぐ連絡、最後に応戦』だ馬鹿者!」


 ジャックが木刀を地面に叩きつける。

軽い音が教室中に響いた。


「連絡する必要あるのか?」

「確かに、貴様のような一人で走っていく無鉄砲には必要のない過程だ。貴様の場合だと、『まず逃走、すぐ逃走、最後に瞬殺』だからな」

「なら覚えたって何の役にも立たないだろ」

「黙れ、珍しく起きたと思ったら偉そうに文句を言いやがって……もういい、次だ。モルディオ、我々祓魔師の宿敵、悪魔について述べろ」


 一番前に座るモルディオが立ち上がる。

周囲はすぐに静まった。

自分も悪魔のくせに何が我々の宿敵だ、とセヴィスは思った。


「悪魔は、魔力権という摩訶不思議な能力を持つ戦闘民族のことを指します。見た目は我々人間と瓜二つですが、洞窟や山の奥地で暮らしています。その理由は悪魔が一日に一つ『宝石』を食べないと生きていけないからです。『宝石』は悪魔の死後、死体の代わりに現れる石のことで、人間の間でも高値で取引されています。その不足によって悪魔が人間を襲うようになりました。それに抵抗する為にジェノマニア王国首都クレアラッツでは悪魔討伐部隊を結成し、それが我々祓魔師の起源になりました」

「よし、完璧だ」


 クラスで最も成績の悪い人間と良い人間を交互に見ながら、ジャックは腕を組んだ。


「別に祓魔師の起源まで言わなくなっていいんじゃねえの? どうせみんな教科書の文章を丸覚えしてるんだからさ」

 と笑い混じりにハミルが言った。


「ハミル、貴様に答えられたか? 赤点常習犯の貴様が」

「すいません」


 そう言うハミルからは反省が全く感じられない。


「チェルシー、階級制度と現在のS級について述べろ」


 次に名前を呼ばれた緑の髪の女子、チェルシーが面倒そうに立つ。

セヴィスは既に寝る体制に入っていた。

グレイを打ちのめせと言われても、実際何をすればいいのだろう。

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