表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
INNOCENT STEAL -Last GAMBIT-  作者: 豹牙
終章 光水の怪盗
88/100

78 太陽のない砂漠、天国の後

 同時刻、アフター・ヘヴンの中は騒然とした空気が漂っていた。

ダイヤモンドを食べたら、ローズの予想通りサキュバスらしき女悪魔が現れた。

そしてそれはロザリアとレンが倒した。

その後もう一つのダイヤモンドを食べて、サキュバスが再び現れたと思ったら、何もしていないのにサキュバスの左腕が消失したのだ。


「セヴィスがやったのか?」


 レンが槍を持ち替えて言った。

アフター・ヘヴンの悪魔はミルフィを通して、真実を全て聞いている。

サキュバスの存在も、候補生たちがそれを倒そうとしていることも知っている。

しかしここにいる悪魔たちは一度死んでおり、サキュバスを倒すことに一切興味を示さない悪魔がほとんどだ。

中にはサキュバスを庇う悪魔もいたが、レンが斬り捨てた。


「そのようね。でも、まだまだよ」


 そう言って、ロザリアは休まずサキュバスに攻撃を繰り出す。

武器は透けるので、素手の攻撃となる。


 ミルフィを通したことやロザリアの説得で、セヴィスを見直した悪魔もいる。

だがそれは指で数えられる程しかいない。

そのうち三人は一回目のサキュバスの催眠術を受けて既に倒され、地面の砂と化してしまった。

アフター・ヘヴンで迎える二度目の死に、臆する悪魔もいた。


「……」


 戦闘能力を持たないミルフィは、後ろで傍観することしかできなかった。

教会にいた頃はここの悪魔に偉そうな態度を取っていたのに、今ではこのアフター・ヘヴンの主が誰かも分からなくなりそうだ。


「あれが、あたしの母さんなんて」


 アフター・ヘヴンに現れたサキュバスは、一言も話さない。

あくまで本体ではないので、話す機能がないのだろう。

このサキュバスは何の意思もなく勝手に動いているに過ぎない。

説得は無意味でしかない。

でも、何かしないと。


 あの時と同じだ。

所持者を始末しようとしたナインに殺されそうになった時。

シンクとハミルが自分を守って、セヴィスがナインを倒すまで、ミルフィは何もできなかった。


 結局、あたしは彼に守られてばっかりだ。

セヴィスとロザリアがあれだけ戦っているのに、あたしだけ何もしていない。

もう守られるだけの足手まといなんて嫌だ。


 おそるおそる、サキュバスに近づく。


「危ない!」


 突然目の前に伸びてきたサキュバスの腕を、ロザリアが押さえつけた。

サキュバスが一瞬で間合いを詰めていたことに気がつかなかった。


「隠れてって言ったでしょう! ここであなたが倒されると、身体を乗っ取られるわ」

「でも! このままじゃあたしが迷惑かけてるだけ」

「だからって、彼が一番望まないことをしてどうするの? あなたはダイヤモンドを食べる決断をした。それは彼だって驚いたことなんでしょう? それだけで十分役に立ってるの。今のあなたの役目は、乗っ取られないことよ!」


 レンがサキュバスに拳を叩き込む。

サキュバスが怯んだ。

もう少しで抑えられそうだ。


「戦うことが、役に立つことじゃないわ。彼のような、強い人間なら尚更そう思うはず。この状況であなたに戦わせるような人間は、弱い人間よ」


 ロザリアはサキュバスの様子を伺いながら、はっきりと言った。


「もちろん、彼だって完全じゃない。でも彼の弱さを理解できたのはあなただけなんだから、もっと自信を持った方がいいわ。彼は、あなたが生きて傍にいてくれることを望んで、あんなことを言ったんでしょうから」

「……ロザリアは何で、戦えるの? あんたとあたしは、何の面識もなかったのに」

「あなたと彼がいたから、私はまたレンと出会うことができたの。だから、あなたたちの生きる世界、人間の為にも絶対負けないわ。私たちを信じて」


 ロザリアはサキュバスに向けて駆け出す。

その背中は頼もしかった。

レンが作った隙を狙い、ロザリアが鳩尾に拳を叩き込む。


「やったか!」


 勝利を確信したレンが声をあげる。

サキュバスは無言でもんどりうって、倒れた。

その姿はあっけなく見える。


「なんか、短い間だったな。このアフター・ヘヴンでロザリアと再会して、サキュバスと戦って……これからまた死ぬってのに、全然怖くないな。

 そういえばミルフィってシンクの店で働いてたんだよな? 人間から見たシンクって、どんな感じだった?」

 と、レンが聞いてきた。


「店長は……いい人だった。あたしを匿ってくれたし、トーナメントにも連れて行ってくれた」

「そうか。おれは、よくわからない。シンクは確かに仇だけど、ここに来てからあいつが店をやってたって知って驚いたよ。実際あいつの作る飯は美味しかったし、すごく強かったから素直に憧れてた。それに長老たちの態度もおかしいところがあったし……おれはシンクを憎みきれてなかったんだよ。だからあいつに勝てなかったんだ。死んだ後に気づくなんて、変だよな。多分、セヴィスも似たようなことを考えてるんじゃないかな」


 レンは暗い砂漠の空を見上げる。

アフター・ヘヴンの空に星はない。

だが、彼の表情は美しい星空を見ているようだった。


「シンクの『宝石』はもうないけど、あの店があいつの生きた証……『宝石』なんだ。だから、きみさえよかったら店をずっと残してほしいんだ」

「クリムゾン・スターはなくならないよ。美味しい料理を出すから」

「そっか。それと、セヴィスみたいな奴には、もっと甘えてもいいと思うよ」

「甘える……?」

「レンの言う通りね。あなたも彼も、子供のうちに多くの苦しみを味わった……これからは楽しいことがいっぱい待ってるはずよ。さあ早く、戻ってジュエルバレットを飲んできなさい。私たちは何も後悔してないわ」


 ロザリアに言われ、ミルフィは少し戸惑いながらも頷く。


「元気でな」


 穏やかな笑みを浮かべて、レンが手を振った。


 自分を苦しめ、そして彼に貢献させてくれたアフター・ヘヴンと中の悪魔たち。

二度と来ないと思った彼らとの別れが、訪れようとしている。

嫌いだった太陽のない砂漠の景色にも、愛着に似たものが沸いている。


「みんな、ありがとう! 会えてよかった!」


 ミルフィは笑顔で言うと、目を閉じて集中する。

主は、光と共に世界を出る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ