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INNOCENT STEAL -Last GAMBIT-  作者: 豹牙
終章 光水の怪盗
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76 一筋の閃光

「チェルシー、今から駅に行って」

『えっ何言ってんの? 今ここ手放せないんだけど!』


 無線機から、チェルシーの叫び声が聞こえてきた。


「……そこはきりがないから、手放して。今から駅にサキュバスが来る。そいつを倒せば、悪魔は全滅するんだ」

『ちょっと待ってよ! あたしにサキュバスを倒せってこと?』

「違う。そこにいる、鎌を持った男……の援護をしてほしい。彼が、サキュバスと戦ってる」


***


 中央クレアラッツ駅にサキュバスを連れて行く為に、セヴィスはなるべく防御を捨て、何度も鎌を投げていた。

サキュバスにはほとんどダメージを与えていないが、攻撃回数は減らすことができている。


 もうすぐ河川敷に差し掛かる。

河川敷は障害物が少なく、ワイヤーによる移動ができない。

サキュバスもそれを分かっているらしく、わざと河川敷方向に飛んでいる。

しかしここを通らなければ駅には行けない。


「どうして使えないのかしらぁ」


 サキュバスは先程から掌をこちらに向けて、魔力権を発動しようとしている。

催眠術が封じられたことを未だに気にしているらしい。

だが、サキュバスが魔力権を出そうとする時は光線が来ない。

セヴィスはそれを利用して鎌を投げている。

サキュバスがミルフィの存在に気づかなければ、しばらくはこの状態が続くだろう。


「やっぱり、きみが何かしたわねぇ?」


 訝しげに言うと、サキュバスは河川敷の直前で立ち止まった。


「俺は何もしてない。アンタが使い方を忘れただけなんじゃないか?」


 セヴィスは地面を思い切り蹴って、一歩で距離を詰める。

そのまま鎌でなぎ払ったが、腕が軽く触れただけで、サキュバスは空中で一回転して下の川沿いの芝生に降り立った。


「きみの言葉は信じられないわ。怪盗フレグランスだもの、演技かもしれないじゃない」


 サキュバスを飛び越えて河川敷の向こう側に行くべきか。

そうしたらサキュバスはまた鬼ごっこなどと口にして、別方向に逃げる可能性がある。

駅には自然に追い詰めて誘導するしかなさそうだ。


「でもわたしが忘れたってこともあるわねぇ。もう一度だけ試してみるわ」


 サキュバスは両手の掌をこちらに向ける。

これはわざとだ。自分が攻撃してくるのを誘っている。

だが、暗くてよく見えない左手にタロットカードらしきものがある。

このまま何もしないと、光線を真に受けることになる。

障害物がなければ、光線は追尾してくる。

背後にビルがある左側に動くか。

そう思って横目で左を見ると、迫ってくる人影が見えた。


「人間め!」


 悪いことに、偶然近くにいた悪魔がこちらに向かってきたらしい。

セヴィスは光線から免れる為に、タロットカードの直線上に鎌を投げる。


「なーんてね」


 案の定、サキュバスが光線を放つ。


「死ねぇ!」


 左からやって来る悪魔に電撃を帯びた赤ナイフを投げる。

ナイフは命中した。

光線もほとんどは鎌が跳ね返した。

しかし視線が悪魔に向いたわずかな一瞬、サキュバスが何枚ものタロットカードを取り出していた。


「じゃあねぇ」


 鎌のない方角に、何本もの光線が放たれる。

自分を追尾する為に空中で屈折した光線が、真っ直ぐこちらに向かってきた。


「くそっ!」


 セヴィスは後ろに十メートル程飛んで、二、三秒程度の時間を作る。

そのままワイヤーを使って悪魔の身体を引き寄せ、中心の光線にぶつけた。

しかし全ては防げない。

身を翻して二本の光線は外すことができたが、

残りの細い光線が脇腹を掠めた。


「あら、こんなところにまだ悪魔がいたのねぇ。司令室に向かう途中だったのかしら」


 よく分からない。

逃げる時、サキュバスが放ってくる光線は大体一本だ。

しかし森で殺されかけた時は、サキュバスは何十本もの光線を放っていたはずだ。

そして今は十本にも満たなかった。

今ここで二十本も撃てば、セヴィスは確実に致命傷を負っていた。

サキュバスが一度に放つことができる光線の量は限られているのだろうか。


「悪魔の身体を利用するなんて……って、ちょっと、何考え事してるのよぅ」


 森の時にしたことと言えば、サキュバスの頭部に二回蹴りを入れたぐらいだ。

まさか、それが関係しているのだろうか。

そう考えれば今も、セヴィスの腕がサキュバスに触れていた。

もしかすると、相手に触れた回数で光線の量が変わるのだろうか。


「あ、もしかしてわたしの光線について考えてる?」


 サキュバスに考えていることが見抜かれているようだ。

このまま考え事を続けるのはよくない。


「わたしは驚く顔が見るのが好きだから、教えようかしら。そうねえ、きみはミルフィちゃんがいたからわたしの性質が効いてないのよぅ。だから、普通の人間だったらわたしに一目惚れするの。キスしたら離れられなくなっちゃうのよぅ」


 サキュバスがヒントを与えてきたのは驚きだったが、これはグレイに聞いた話と同じだ。

それと光線に一体何の関係があるのだろう。


「やっと気づいた? ジェノマニアはね、わたしが外国の統率者をモノにするのをそのまま戦力にしたの」

「……は?」

「わたしの光線は、人間に触れることによって強くなるの。変な話でしょう? それだけジェノマニアの研究は狂ってたのよぅ」


 人間に触れることで強くなるなんて、一体どういう仕組みになっているのだろう。

つまりサキュバスに触れると自滅するということだ。

だからウィンズは自分を遠距離系に育て、変わった形状の鎌を作ったのかもしれない。


「どうしてそれをわざわざ俺に教える?」

「ふふっ、せいぜいわたしから逃げるといいわ。逃げ惑う男の子を追いかける方が楽しいし」


 そんなことを聞いてしまったら、迂闊に攻撃できなくなった。

最初サキュバスは墓穴を掘っているのかと思ったが、結局サキュバスの言葉に追い詰められているのは自分の方だ。


「遠くからでも殺してやる。元々逃げながら戦うのが俺のスタイルだ」

「そう言ってくれて嬉しいわ」


 サキュバスを河川敷の向こう、駅に移動させる為、攻撃を再開する。

自分でも分かる程、明らかに精度が落ちている。

サキュバスは自分を追い込むように見せて、セヴィスを追い込んだのだ。

やり方は違うものの、ハミルもよく使う戦法だ。


 ローズが持ってきた黒いナイフは、未だに出せない。

サキュバスはナイフなら全て通り抜けると妄信している。

あれは不意打ちで、さらに致命傷を与えられるタイミングで使うべきだ。

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