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INNOCENT STEAL -Last GAMBIT-  作者: 豹牙
十章 少年の食罪
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漆黒の衝動 -Magenta Fate- ⑤

 このことをきっかけに、僕はあの事件の目的を模索し始める。

黒スーツが最強のS級祓魔師を育てる為だと言っていたのだから、祓魔師がどれだけ恐ろしい組織なのかと思っていたが、実際フリージア連邦の祓魔師を見てみるとそんな組織にも見えない。

そもそもフリージアの祓魔師はあくまで支部で、本当に強い祓魔師はほとんどジェノマニア王国にいるらしい。

しかしジェノマニアも、祓魔師になるのはエルクロス学園に通った人間だけ。


 僕が調べて分かったのは、あの事件が『新生児誘拐事件』と呼ばれていることだけだった。

警察に尋ねてみても、裏で多大な権力が働いているらしく、動こうともしない。

中には新生児誘拐事件の捜査をしない理由を疑問に思う警察もいて、その警察の言葉で、僕の未来は大きく動かされることになる。


「どの国も、上の連中がこの事件に関してはもう時効だって言ってるんです。余程お偉いさんに命令されないと聞かないでしょうね。かと言って私たち一般人はそのお偉いさんにも近づけない」

「そのお偉いさんになることはできますか?」

「一般人がなれる最も偉い地位は、美術館長だと言われています。でもこの国の美術館長はそんなに権力を持ちません。祓魔師本部があるジェノマニアの美術館長なら、王族に意見を出すことができますが」

「じゃあジェノマニアで美術館長になれば、捜査の依頼ができるんですか?」

「ジェノマニア王国は王族がほとんどの権力を握っています。王族に言われたら、警察も動くでしょうね」


 この言葉を聞いてから、僕は祓魔師への道を意識し始めた。

フリージアの祓魔師はテレビで何度かトーナメントを見たが、レベルは低かった。

それもあって祓魔師そのものを敬遠していた。

でもジェノマニアの祓魔師は違う。

S級クロエ=グレインをはじめ、僕が勝てるか分からない相手ばかりだ。


***


「どこへ行っていた」

「いいじゃん、僕は外にすら出たことなかったんだから」


 両親との関係も、だんだんと険悪になっていた。

帰ることすら嫌になって、わざと外に出たりもしていた。


「ベルクってお前だよな。手紙が来ているぞ」


 僕に手紙を送ってくる人間がどこにいるのだろう。

差出人は『チェルシー=ファリアント』。

この苗字はフランがくれた連絡先に書かれていた。

つまりこれはフランからの手紙だ。


『久しぶり。突然だけどあたし、ジェノマニア王国に行って、エルクロス学園に通うことにしたよ。あたしたちの代わりのS級がどうしても気になるんだ。だって、このままじゃ今までの努力が無駄になるみたいじゃない? ベルクはどう思う? レイラにも聞きたかったんだけど、連絡先知らないから……』


 文面は大体こんな感じだった。

彼女は僕たちの代わりの人物を知る為にエルクロスに入るらしい。

フランの手紙のおかげかどうか分からないが、僕はやっと決心を固めることができた。


『奇遇だね、僕も同じこと考えてた。一週間後にミラーズ王国に行くから、そこから船でクレアラッツに行く予定だよ。』


 返事はこれだけ。

僕は自分を避けてきたフランを友達だと思っていない。

事件の捜査依頼のことは、言わなくていいだろう。


 僕はエルクロスに行くことを書いた手紙を机の上に置き、散歩に行くかのように堂々と家出した。

後で両親からしつこい程連絡がきたが、諦めるのは早かった。

僕が異端者であることを、きっとどこかで理解していたのだろう。


 ジェノマニア王国首都クレアラッツまでは遠く、中継地のミラーズ王国まで様々な乗り物を乗り継いだ。

一人旅は、溝や家よりも居心地がよかった。


 ミラーズ王国はフランの家族が住んでいる国だった。

ジェノマニア行きの船が出る港で待ち合わせをして、そこから一緒に行くことになった。


「ベルク、変わったね!」

「そう?」

「家、病院だったんでしょ? お金持ちじゃん。髪も整ってるし、すごい清潔感あるよ。……前はちょっと、怖かったから」


 清潔感が増して見えるのは、溝が不潔だったからだろう。

フランは大して変わっていないようにも見えるが。


「そうそう。あたしのこと、今度からフランって呼ばないでね。パパとママがチェルシーっていう名前をくれたんだから、そっちで入学するの」

「そうなんだ。じゃあこれからチェルシーって呼ぶよ」

「ベルクは? 名前そのままでいいの?」


 ベルクという名前で入学すれば、組織やつらにたちまち詮索がバレてしまうだろうが、今更黒スーツなんて怖くもない。

気になるのはエルクロスにいるはずの、僕たちの代わりとなるS級だ。

代わりは僕の顔を知らないが、僕たちがあっさり捨てられる程の実力を持つ。

もし代わりが組織に忠実だったら、僕が殺される未来が見えそうだ。


「……モルディオ=アスカ。変な名前だよね」


 この名前を僕が名乗ったのは、この時が初めてだ。


***


 僕は近距離系の入学試験を受けたが、試験問題は想像以上に簡単だった。

そのせいか、新入生代表に選ばれてしまった。


「新入生代表挨拶、一年A組モルディオ=アスカ」


 入学式で、教官がその名前を呼ぶ。

それに違和感を抱きつつも、僕は立ち上がる。


「はい」


 僕が教官に予め渡された文章を読んでいる時、後ろから話し声が聞こえた。

席に戻る際、教官がわざとらしい咳をして、二人の男子候補生が注意されているのが見えた。


「へー優等生なんだー」

 と、隣に座る女子が言った。

この学園で一年生の間にだけあるペア制度。

候補生の身を守る為にあるらしいが、僕にはそんなもの必要ないし、詮索にはむしろ邪魔だ。

僕のペアは派手な髪飾りと短いスカートが目立つ女子だった。


「アタシ、ハンテル。よ、ろ、し、く! モルディオだっけ? これからモルモルって呼ぶね」


 入学式早々、ペアと仲良くできない気がした。


***


 入学式の後に渡されたバレットを、僕は飲まずに寮に置いてきた。

教科書に、未来予知は希少な魔力権だと書いてあった。


 僕は自分の魔力権を無効化と偽った。

黒スーツは事件の生き残りであることを暴露したら殺すと言ってきた。

この魔力権で生き残りであることを知られる可能性がある。

それに未来予知を持つことがクラスにバレたら、また虐げられるだろう。

未来を知っていた、それだけで責任を転嫁されるのはこりごりだ。


 それから僕は美術館長、つまりS級になることを目指して一人戦闘訓練を再開した。

トーナメントまではまだ長い時間があるので、僕も気になっていた代わりを探してみることにした。

とりあえず近距離系の戦闘訓練で、様々な人間を観察するのが手っ取り早いだろう。

そう思っていたが、近距離系にはそれらしき人間はいなかった。

この中で目立って強いのはB組のハミル=スレンダだが、彼が代わりには見えなかった。


 魔力権と過去を隠す僕は詮索されるのが嫌で、クラスメートを退けていた。

うざい嫌味を言えば、彼らは近づいてこなくなる。

最初のテストで、僕は能力を使わずに学園トップになった。

それが嫌味の効果を助長していたらしく、僕はまた孤立した。

ハンテルは、あからさまに悪口を言ってきた。

しかもハンテルとチェルシーが仲良くなったので、遠距離系に怪しい人物がいるかという話を聞く機会を失ってしまった。


 そんなある日、特に意味もなく、ペアの女子の未来を見た。

その女子は未来で、噂をしていた。


『ねえルビア聞いてー。うちのクラスのモルディオいるでしょ? 成績一番の。あいつマジでムカつく』

『あーガリ勉ウザいよねー。あいつとペアとか同情する。でもこっちにもヤバいのがいるんだよね』

『えっだれ? 女子?』

『あたしのペアの男子。そいつ、セヴィスっていうんだけど、授業中は寝てるし、ホントにやる気ないの。弓と銃器の使い方もよく分かってないし、何でここに入れたんだろ』


 時間を無駄にした。

自分の陰口と、そのセヴィスとかいう男子の悪口が聞けただけだった。

弓も銃器も使えないならどうやって戦うんだろう、と僕は軽く疑問に思った。


 その男子が代わりじゃないかと確信するのは十一月。

それは僕の魔力権では遠すぎる未来、七ヵ月後だった。

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