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INNOCENT STEAL -Last GAMBIT-  作者: 豹牙
九章 監獄の熱縄
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62 泣き虫の大役

「僕はサキュバスの顔を知らないから、サキュバスの未来を見ることができない。でも、このままじゃ確実に敗北する。ジェノマニアには指揮する人間がいないから」


 クロエをはじめとする、ほとんどのA級が死んだ。

それはよく分かっていたことなのだが、改めて聞くと極めて危険な状態だと思い知らされる。


「サキュバスの城の場所は分かってるんだろ。先に行ったら駄目なのかよ」

「それが無理なんだ。今まで見えていた未来だと、城の前にはサウスっていう強い悪魔がいるんだ。そいつはクロエより強いマグマの魔力権を持ってて、近づくこともできない」

「それだったら確かにおれやお前は無理かもしれねえけど、セヴィスとか遠距離系なら攻撃できるんじゃねえの?」

「クロエを基準に考えたらいけないよ。マグマから逃げたらサウスが見えなくなるぐらい、魔力権が桁違いなんだ。セビのナイフでも届かないよ。無効化があれば行けるけど、サウスの武器を扱う能力も相当だ」

「じゃあどうするんだよ! セヴィスにでも言うか?」

 

 いくらフレグランスでも、頭脳に関してはモルディオの方が上だ。

ここでセヴィスに言っても仕方のないことは分かっている。

とにかく、未来を回避する方法を探したかった。


「セビに報告するのは後だ。とりあえず僕は学園長に全部報告しようと思う」

「学園長?」

「学園長はグロウの創始者だし、海外にも動かせる人間がいるはずだよ。こうなった今、学園長を手玉に取るのは簡単だ」

「海外の祓魔師に協力を要請するってことか?」

「僕が見た未来が実現する……最悪の場合に備えるため、だね」


 ジョフェンは美術館に対してはあまり影響力を持っていなかったはずだ。

だがA級がほとんどいないこの状況では、どうなるか分からない。

それにグロウの創始者となれば、裏の顔が広いのだろう。


***


 今度は階段を駆け下りて、学園長ジョフェンがいる校長室に向かう。

ノックもせずに校長室に入ると、ジョフェンはいつもと変わらず書類を書いていた。

息子のウィンズが殺されたニュースはとっくに広まっているのに、この落ち着きはどこから来ているのだろう。


「グロウの創始者がこんなところで何してるんですか」

 とモルディオが言うと、ジョフェンがゆっくり顔を上げた。


「私を殺しに来たか、ベルク」

「いいえ、協力を要請しに来ました。実は……」


 モルディオが見えた未来について説明している間、ジョフェンは特に興味もなさそうに頷いていた。

まるで、こうなることを知っていたかのようだ。


「やはりな。だが、私の知ったことではない。こうなったのも、お前たちが我が息子を殺し、イノセント・スティールを破綻させたからだ。イノセント・スティールは完璧だった。お前たちが無駄な詮索をしなければ、サキュバスは今頃ヴァイオレットに殺されていた。栄光の翼のない世界に、もう未練はない。ここでお前に殺されるくらいなら、自ら命を絶つ」


 そう言ってジョフェンは机の中から短剣を取り出した。

モルディオが机に身を乗り出し、その腕を掴んで止めた。


「死なせませんよ。あなたの役割はまだ残ってるんです。楽に死にたかったら、大人しく言うことを聞いてください」


 この口ぶりだと、彼はまた拷問のようなことをしようとしているのだろう。

あれだけ言っても、結局モルディオは変わっていない。


「サキュバス討伐は、栄光の翼の悲願じゃないんですか。ここでどうして諦めるんですか。自殺なら、僕たちが失敗してからでも遅くないでしょう。僕だってあなたたちに育てられたわけですし、イノセント・スティールは破綻してないんですよ」

「……ベルク、お前は何を考えている?」

「イノセント・スティールを使って、サキュバスを倒すことを考えています」

「サキュバスを倒す? 栄光の翼に属していた者として、お前にイノセント・スティールを成し遂げられるだけの覚悟があるのか?」


 ジョフェンは眉間に皺を寄せて尋ねた。


「僕は自分が正しいと思ったことを選ぶだけです。勘違いしないでください。僕はもうグロウの一員じゃないんです。新生児誘拐事件の真相が明らかになった今、僕に生き残りを名乗る必要はなくなりました。祓魔師として、サキュバスを倒すという明確な目標を目指して、進むだけなんです。

 だから、ベルク=グラファイスという名前は二度と名乗りません。これからはA級祓魔師モルディオ=アスカとして、行動します。これで十分でしょう」


 ジョフェンはモルディオの手を振り払うと、短剣を机にしまった。


「あの泣き虫が、ここまで成長するとは。世の中も分からんな」


 ジョフェンは感心している。

モルディオが泣き虫だったなんて想像もつかないが、過去は彼らにしか分からないのだろう。


「分かった。では、候補生代表に、エルクロス学園長として命じよう」


 緊張感が走る。

ジョフェンは一度大きく息を吸って、口を開いた。


「祓魔師の指揮を、全てお前に任せる。全祓魔師を勝利へ動かせ。このクレアラッツを、いやジェノマニア王国を守るのだ。それがお前への命令だ」

「そんな大役を」

「何を恐縮している。今までやってきたことだろう」

「……」

「世間が未だセヴィスが死んだと思い込んでいるのは、お前のせいだろう」


 ジョフェンはセヴィスが生きていることを知っているようだ。

グロウの人間であるので驚くこともない。


「知ってたんですか」

「お前がS級を辞退したから、すぐ分かった。セヴィスがいなかったら、辞退しなかっただろう」

「そうですね」

「本来S級は館長となって、司令をするのが仕事。この役はセヴィスよりお前の方が向いている。それでも辞退する理由は何だ?」

「僕より、彼の方が強いからです」

「そうだ。セヴィスはS級として司令できる器ではないが、奴がいなければサキュバスは倒せない。海外の祓魔師に関しては、美術館長が会議の後で全員ジェノマニアにいるはずだ。私も出来る限り説得してみよう。ジェノマニアだけだと戦力が足りないだろう」

「ありがとうございます」


 グロウの創始者という言葉に怯えて、ハミルは一言も喋ることもできなかった。

しかし、ジョフェンも今までとほとんど変わらなかった。

ずっと悪の組織だと思っていたが、結局グロウも理想は同じだったのだ。

ただ、ウィンズが首領になってからやり方を踏み外しただけなのだろう。

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