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INNOCENT STEAL -Last GAMBIT-  作者: 豹牙
一章 敵躍の代行
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7 グレイ様とメス豚

 昨晩セヴィスが応じたインタビューの様子は、今朝から何度もニュースで流れている。

同時に、シュヴァルツが勝手に作った美術館の規則と、数日前に亡くなったA級祓魔師アルヴェイスに関することも報道された。

しかしこれらには謎が多く、軽く伝えられる程度だった。

シュヴァルツには痛烈な批判が浴びせられ、アルヴェイスは悪魔に殺されたのではないかというでたらめな憶測が蔓延った。

ニュースの長さが、この三つのうちどれが衝撃であったのかを物語っている。


 留学生という立場でジェノマニア王国に滞在しているシェイム=ハーヴェルは、一月にあるトーナメントに参加したら帰国することになっている。

それまでこの王国での生活を満喫したいと思っていたが、今日は留学に関する書類を学園に提出しなければいけない。

その為、シェイムは冬季休みに突入したエルクロス学園に来ていた。


「きゃああグレイ様ー!」


 聞こえてきた歓声に、シェイムは思わず耳を塞いだ。

玄関を見ると、一人の男子候補生に十人の女子が群がっている。


「おう、あんがとなー」

 と、銀髪の男子候補生は靴を脱ぎながら言った。

唇についたピアスは耳朶までチェーンで繋がっていて、引っ張ったら痛そうだ。


 彼の名はグレイ=ディスノミア、三年生だ。

二年生までは筋金入りの不良であるだけで、世間的には特に目立った存在ではなかった。

だが、今年度の候補生トーナメントで五人という少ない枠に入ってから一変。

途端に女子が多く集まるようになった。


 なぜ彼がそこまで人気を集めているのか。男子たちはよく首を傾げている。

だがシェイムには分かる。

グレイには女を惹きつける奇妙な魅力がある。

そして今回、五人のうち唯一称号を持っていない人間である為、彼の性格を知らない民衆からも応援されているのだ。


「あのババア、休みの真っ最中にこの俺様を呼び出すなんてよ、めんどくせーんだよ」


 グレイは確かに顔立ちもよく、体型も健康的な細さを保っている。

だがこの性格を知ってからは、とても応援したいとは思えない。

シェイムが思うに、グレイはこの学園で一番の問題児だ。

S級であるせいか、セヴィスの方が問題児扱いされているのが現状だが。


「とっとと終わらせて帰るかー」


 やる気のないグレイの声は、セヴィスの地声とよく似ている。

それが余計に腹立だしいことだった。

今まで彼の真似をする人間を数多く見てきたが、グレイがおそらく一番似ているだろう。


 グレイを中心とした軍団がシェイムの横を通り過ぎた。

シェイムは書類を提出したので今から帰るつもりだったが、なんとなくグレイが気になって踵を返した。



 それから十分も経たないうちに、グレイは教官の部屋から出てきた。

教官に会うとなると、さすがに女子は引き連れていないようだ。

『めんどくせーんだよ』というお決まりの台詞と舌打ちを繰り返しながら、階段を下りていく。

シェイムはこっそり後をつける。


 グレイがのろのろと向かうのは、一階の渡り廊下だ。

そこで再び女子の大群がやって来てグレイが足止めされたので、シェイムは怪しまれないようにグレイを抜かす。

一階の渡り廊下の先にあるのは図書館で、グレイの手にあったのは大量の課題だ。

おそらく図書館で一年からためてきた課題を終わらせるように言われたのだろう。

しかし見張りもなしにグレイを野放しにしたら無意味だ。

女教師までグレイの虜になってしまったとしか思えなかった。


 グレイが呼び出されたとなると、セヴィスもいつか呼び出されるのだろうか。

彼は戦闘での点数が高い。

課題で補う必要はないだろう、とシェイムは勝手に思い込んだ。


 シェイムが図書館の扉を開けると、奥の机で勉強しているモルディオが最初に視界に入ってきた。

彼は毎日ここに来ている。

一番を保ち続けるのは凄いことだが、両親のいる祖国には帰らないのだろうか。


「あの、先輩」


 奥の席に行って、思い切って声を掛けてみると、モルディオは書いていたノートを閉じた。

何を勉強していたのかは見えなかった。


「僕に何か用?」

「……毎日ここに来て勉強なんて、すごいです」


 本当に聞きたかったのは実家に帰らない理由だ。

だが、口に出せなかった。


「そんなことを言うためにわざわざここに来たの?」


 モルディオの声が少し怒っているように聞こえた。

くだらない話で勉強の邪魔をしてしまったのだから、仕方ない。

謝ろうと思った時、扉が開いてグレイが入ってきた。

無論、女子の大群付きだ。


「目障りな奴が来たね。それも大量の……付きだ」

 と、モルディオは小声で言った。

今『メス豚』と聞こえたのは気のせいだろうか。


「悪いけど、用がないなら帰ってくれないかな」

「はい、すみませ……」

「おいおい、子猫ちゃんにそんな言い方、いくらなんでもひどいんじゃねーの?」 


 シェイムの声はグレイの大声に遮られた。


「……えっ?」


 首を傾げるシェイムの肩に、グレイの大きな手が置かれた。


「何の用ですか」

「いやー、別にー?」


 グレイはわざとらしく視線を斜め上に向けた。


「さっすが優等生、まだ勉強し足りねーの?」

「世の中にはまだ知らないことがたくさんあるので」


 グレイがつまらなそうな顔をすると、周りの女子の顔まで変わる。

奇妙な光景だ。


「これでウナギがいなかったら、お前戦闘でも一位になれたのになー。あいつつぶせば、S級になれるかもしれないぜ?」


 笑いながら、グレイはあくどい提案をしている。


「つぶす?」


 モルディオは怪訝な表情で聞き返した。


「あっそういえばお前、タッグ戦あいつと出るんだっけ? いぬさるの仲とか言われてたのに、何で組んだんだ?」

「去年の結果を踏まえて考えた結果です。それといぬさるではなく犬猿(けんえん)

「うっせー黙れ」

「……」

「へっタッグ戦楽しみにしてるぜ。じゃーな」


 そう言ってグレイは踵を返し、対角線上の席に向かう。

モルディオはため息をついて椅子に座る。

グレイが気になって戻ってきたのに、妙に居心地が悪くなったシェイムは小さく頭を下げて出口へ向かった。


「あいつ、どっか怪しいと思わねーか?」


 去り際に、グレイがそう言ったのが聞こえた。

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