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INNOCENT STEAL -Last GAMBIT-  作者: 豹牙
九章 監獄の熱縄
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61 未来の戦慄

 フレグランスが全てのダイヤモンドを盗み出したので、世界中ではでたらめな憶測が蔓延った。

栄光の翼の本拠地である覇者の塔はヴィーナ・リリー政府に発見され、グロウの残党は全員逮捕された。

当然ウィンズが死んだこともすぐに広まった。


 警察は残党からグロウの計画について聞きだそうとしたが、隠し持っていた毒で全員が同時に自殺、聞きだすことはできなかった。

ウィンズ死亡を受けて隠滅しておいたのか、塔には一切の証拠がなくなっていた。

手がかりを失った警察は、塔から引き上げざるを得なくなった。


今後の対応について、すぐに館長会議を開くことになったが、S級とほとんどのA級を失ったジェノマニアに参加できる祓魔師はいなかった。

B級が参加することは論外。

モルディオを参加させる案もあったが、候補生に任せられる問題ではないとB級たちの間で却下された。

エルクロス学園の学園長であるジョフェンは、無知を理由に会議に参加することを頑なに拒んだ。

かと言って美術館の事情を詳しく知らない王族に任せるわけにもいかず、結果ジェノマニアは祓魔師本部であるにも関わらず館長会議に参加しなかった。


 本部の代表者がいない会議が行われたが、何も知らない海外の館長だけでは何も決まらなかった。

そんな中、無理をして館長と共に会議に参加したシェイムが、ジェノマニアの体制が落ち着くまでしばらく様子を見ることを提案した。

彼女がそう言うのはセヴィスの置手紙が間接的に関わっているのだが、それを知る人物はいない。

身体中を怪我したシェイムの意見にはあまり説得力がなく、反論もあった。

しかし、どうしようもできないという理由で採決された。


 シェイムの主張で、五つの祓魔師支部は何とか元の体制に戻った。

勿論詮索する人間もいたが、詮索しても何も見つからない。

ギルティ・スティールが破綻し、グロウが殲滅した今、事を知る者は彼らのみである。


 モルディオの予想通り、ジェノマニア王国は信頼を著しく失った。


***


 いつもより少し早く、ハミルは二年A組の教室に行った。

先月までは教室に入ったらクラスメートが次々に挨拶してくれたが、今は少ない。

クラスの雰囲気は未だ暗い。


「ハミル、ヴィーナ・リリーに行ったって聞いてたんだな。いつの間に帰ってきたんだな?」

 とランドが言うと、何人かの男子が寄って来た。

女子も静まった。


「昨日帰ってきたばっかりだ。サキュバスは倒せなかったけど、倒す方法は分かった」

「……ハミルは、サキュバスを倒しに行くの?」


 チェルシーが深刻な顔をして聞いてきた。


「当たり前だろ。シェイムだって」

「重傷を負ったんでしょ! シェイムが勝てない相手に、ハミルが一人でどうやって勝つつもり?」

「だからって、このままでいいわけないだろ?」

「もうやめてよ。ハミルまで死ぬの、見たくない」


 チェルシーが心配して止めてくれたのは驚きだった。

てっきり呆れられているのかと思っていた。


「それにおれ一人なわけないだろ」

「じゃあ誰?」


 セヴィスについてはまだ言えない。

いくらグロウが壊滅したとは言え、彼は死んだことになっているのだ。

ハミルが説明したら、おそらくフレグランスについても話してしまうだろう。

こういう時、いつも説明してくれたのは。


 ハミルが逡巡していると、教室の扉が開いて、モルディオが入ってきた。

全員が一斉に奇異なものを見る目を向けた。


「遅せえよ」


 ハミルは一人笑って言う。


「サキュバスの討伐には、僕も協力するよ。そうでしょ? ハミル」


 ハミルを除く全員がきょとんとしている。

次の言葉を待っているのだろう。


「新生児誘拐事件のことは、チェルシーに聞いたんじゃないの? 僕がみんなに話せることは何もないよ」

「お前が言うのはそれじゃねえだろ」


 ハミルは扉の前に立ち、肩をすくめた。


「みんなを利用したことは謝るよ。ごめん」


 ありえない程棒読みで、モルディオは言った。

無表情で、頭を下げることもしない。


「お前な……」

「それどころじゃないんだ。ハミル、ちょっとこっち来て」


 そう言って、モルディオはハミルの腕を掴もうとした。

ところがその手を、横から出てきたランドが叩いた。


「まだみんなに隠して、こそこそやるつもりなんだな」


 ランドの言葉が、クラスの総意らしい。

みんなが彼を睨んでいる。


「じゃあ仮に僕が説明したとして、みんなは納得する? 少なくとも僕はそう思わない。サキュバスとかイノセント・スティールとか、言っても分からないことを説明するのは時間の無駄でしょ」


 モルディオが嫌味を言うときは、言及を避ける時だ。

確かに、今から説明するのは大変だ。

モルディオの言い草には反感が残るが、話だけなら後で内容を話すこともできる。


「分かった。後でみんなにも説明すれば済む話だ」


 ハミルは教室を出て、モルディオについて階段を上がる。

どうやら、話を聞かれない場所を探しているらしい。

そして思った通り、屋上についた。


「何だよ。何かあったのかよ」

「まずいんだ。サキュバスが大量の悪魔をクレアラッツに送り込む未来が見えた」

「えっ!?」


 驚愕したハミルの声が、青い空に響いた。


「どういうことだよ! また総攻撃が起こるのかよ!」

「違う。悪魔が美術館と発電所しか狙わなかった総攻撃より質が悪い。サキュバスは何かに怒って、クレアラッツの人間を無差別に襲おうとしてるんだ」


 未来でこんなことが起こると知られたら、全員が混乱するだろう。

モルディオがクラスで話そうとしなかった理由がなんとなく分かった。


「それ、いつだよ」

「それが、二日後の夜なんだ。これじゃナイトメア・カタルシスも間に合うかどうか。こんな未来、今まで一度も見えなかったのに」


 焦るモルディオの顔を見ていると、急かされている気分になった。

こういう時こそ冷静にならないといけないのに、いつも冷静な人間が焦っていると調子が狂いそうだ。


「それで、お前の未来はどうなんだ?」

「クレアラッツの祓魔師が、半分ぐらい死んでた。それから先は分からない。未来の中で、前線に立った僕も君も、死んだから」


 ハミルの脳裏に戦慄が走った。

サキュバスに会った時より、死を間近に感じた。

自分が死ぬ未来なんて見たくない。

絶対に回避したい。

しかし、肝心の原因が分からない。


「サキュバスが怒るって……」


 ハミルの中でのサキュバスのイメージは、怠慢だ。

とても怒りを露にするような悪魔には見えなかった。

それが怒るとは、一体何が起こるのだろう。

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