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INNOCENT STEAL -Last GAMBIT-  作者: 豹牙
八章 兄弟の血別
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53 菫の秘密生存者

 ハミルが塔を出たのを窓から見届けると、顔の側面を引っ張る。

銀色の髪と一緒に、皮膚が剥がれる。

それを投げ捨てると、セヴィスは目の前に見える頂上への階段を上る。


 この塔の頂上でウィンズが待ち構えている未来は、既に聞いている。


「久しぶりだな、馬鹿弟。やはり脱走してきたか」


 広い頂上には、ウィンズと十歳程の少女がいた。

ひどい戦闘訓練を受けたらしく、その少女の身体につけられた傷の量は目に余る。


「アンタは俺の兄じゃない」

「そうだな、麻薬夫妻の息子は貴様一人であって、この僕の本当の弟ではない。そもそもこんな馬鹿が僕の弟なんてあり得んからな! はーはっはっはっ!」


 久しぶりにウィンズの高笑いを聞いた気がする。

それよりも気になるのはその隣の少女だ。

少女は身に余るほどの大きな鎌を持っている。

警戒しなければならない。


「しかし、死亡報道に関しては感心したぞ。ローズを欺き、シュヴァルツも焦らせることができたのだからな。考えたのはモルディオか?」

「この塔の場所を明かしたグレイを、シュヴァルツが放置するわけがない。それぐらい俺でも分かる。予想通り、グレイは俺がサキュバスと会っている間にシュヴァルツに殺された」

「ほう」


 ウィンズは感心しているが、少女は全く興味がなさそうだ。


「グレイの死を利用しようと思いついたのはモルディオだ。あいつはグレイが始末されるのを予め知ってたからな」

「成る程。サキュバスと戦ってどうやって生き残ったのかは知らんが、ダイヤモンドをちゃんと集めたことだけは褒めてやろう」

「……」

「ところで、貴様はどうしてここに来た? 脱走したなら、ハミルのようにさっさと逃げればいいものを。ほう、さては、ダイヤモンドを探しているな? ダイヤモンドは下にある。取りに行ったらどうだ?」

「嘘つけ。今アンタが持ってるってことぐらい知ってる。アンタが大切なダイヤモンドを手下に任せるとは思えないしな。返してもらおうか」

「断る。これはイノセント・スティールに欠かせないものなのだ。それを止めることは、貴様にも損だぞ」

「俺がここに来たのはアンタ等を止める為だ。イノセント・スティールじゃない」


 ウィンズはポケットから皮袋を取り出し、中身を見せつけてきた。

六つのダイヤモンドが入っている。

ここまではモルディオの未来通りだ。


「ほう。貴様もモルディオといたら、随分頭が冴えるようになったようだな。ただの馬鹿だと思っていたが……あの麻薬夫妻の息子なら、勉強させれば賢くなったかもしれないな。まあ、未だに分数の計算ができないのが現状だろうがな」


 そう言って、ウィンズは少女の背中を軽く押した。


「紹介しておこう。こいつの名はヴァイオレット=アルテミス。シュヴァルツの娘だ」

「シュヴァルツの娘……?」


 言われて見ると、確かによく似ている。

細い目つきや、身体より大きな武器を持っているところは、シュヴァルツそっくりだ。

だがヴァイオレットがボロボロの服を着ているのは何故だろう。

シュヴァルツは美術館の副館長で、金もたくさん持っているはずだ。


「貴様は泥棒としては成功だったが、戦闘能力と精神は失敗作だ。サキュバスを倒すには、大きな武器で切り裂かないといけないのだが貴様に大きな武器は扱えない。よってナイトメア・カタルシスを扱うのはこのヴァイオレットだ」


 女であるヴァイオレットを使う理由は、サキュバスのキスが通用しないからだろう。

しかしいくらウィンズに育てられたと言っても、ヴァイオレットは年端の行かない少女だ。

シュヴァルツの怪力はモルディオの剣を折った程だと聞いているが、ヴァイオレットの力はどう考えてもセヴィスより下だ。

あれだけ大きな鎌を使うと逆に武器に振り回されるだろう。


「そしてダイヤモンドは集まった。よって貴様の役目はもう終わりだ。

 イノセント・スティールは無実で終わらないといけない。我々が世間に知れ渡ってはいけないし、我々を知る貴様も逮捕させるわけにはいかない。僕の父は貴様を殺せと言ったが、このまま殺すのは、僕の努力が無駄になる様で実に不快だ。

 そこで、貴様に選択肢を与えてやろう。一つ目は、そこにいるヴァイオレットの補佐をすることだ。ヴァイオレットがサキュバスと戦っている間、サキュバスは手下の悪魔を次々と生み出すだろう。それを倒す役目だ。もしこれが成功したら、貴様は自由になれるだろう。過去の罪など忘れ去られるぐらい、称えられるだろう。

 二つ目は、ここでヴァイオレットと戦い、死ぬことだ。同じ僕の育てた道具に殺されるなら、不快でもないしな。ちなみに、貴様はヴァイオレットには勝てない。だから生き残るという未来は存在しないからな。どうする? 普通に考えて前者だろうが」


 前者を選ぶと、ウィンズは全てのダイヤモンドと、ジュエルバレットを使ってナイトメア・カタルシスを作るだろう。

それは駄目だ。ジュエルバレットは残さないといけない。

その為に、モルディオとローズがこの二つをできるだけ節約する設計図を作っている。

ウィンズは自分の計画を曲げるような真似は決してしないし、所持者に至っては考えてもいない。

つまり前者はウィンズを殺さない限り選んではいけない。


 後者はよく分からない。

ヴァイオレットに勝てない。

この十歳程度の少女に、クレアラッツのS級が負ける。

そんなことを、ウィンズは本気で言っているのだろうか。

しかしここでヴァイオレットと戦うのは避けたい。

サキュバスの光線で負った怪我は、未だに治っていない。


「選ぶ前に、そこにいるヴァイオレットと話がしたい」


 ヴァイオレットはどう思っているのか。

それが知りたかった。


「五分だけ時間をくれてやろう」


 そう言って、ウィンズは後退した。

ヴァイオレットは霞んだ瞳でこちらを見据えている。

そのヴァイオレットの前に、セヴィスは自分のナイフを落とした。


「俺はお前に何もしない。だからその鎌を置いてくれ」

「……」

「俺はナイフがないと素手のお前にも勝てない。人間を殺すこともできない」

「……」

「お前に不利なことは何一つない」


 ヴァイオレットは少し驚いているらしく、鎌を持つ手が緩んだ。


「じゃあ何で、わたしは貧乏なの?」


 ヴァイオレットが初めて口を開いた。

小さくか細い声だった。

彼女の声を聞いて、セヴィスは自分の失敗を元に彼女が育てられたことに気がついた。

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