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INNOCENT STEAL -Last GAMBIT-  作者: 豹牙
七章 妨略の覇者
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52 ハミルとグロウのノート

「いっけね」


 ハミルは自分の両頬を叩いて、脱いだ靴を履き、扉を開ける。

ガラスのない古風な窓からは明かりが漏れている。

窓から身を乗り出してみると、砂漠の風景が見えた。

朝日がまぶしい。

さらに上から下を見下ろすと、ここが塔だということが分かった。


 廊下は二手に分かれていて、ハミルは喜んでいるうちに彼を見失ってしまった。

彼はグロウのノートを手に入れて脱出しろと言っていた。

しかしノートはどこにあるのだろう。

グロウが常に持ち歩いているとも思えない。

必ずどこかの部屋にあるはずだ。


 とりあえず彼に言われた通り、ここを抜け出すことを考えた方がよさそうだ。

彼のことは気になるが、いつグロウが来て、殺されるか分からない。

こんな時に、彼を信じないでどうする。

知りたかったことも、後できっと教えてくれる。


 どちらに行けばいいのか迷っていると、ハミルはこの廊下が傾いていることに気づいた。

どうやらここは螺旋状の塔らしい。

ならば左に行けば自然に下に行けるだろう。

そんな直感でハミルは左に向かった。


 どこまで降りればいいのか分からないが、窓を見ると下には進んでいる。

ある程度下まで行けば、窓から飛び降りても大丈夫そうだ。

むしろ入り口には見張りがいるかもしれないので危険だ。


「あんなの閉じ込めてどうするつもりなんだ?」


 前方から、話し声と足音が聞こえてきた。

まずい、脱走したことがバレたら死ぬ。


 ハミルはとっさに隣の部屋に入り、音を立てないように扉を閉めた。

中は誰かの個室らしく、簡素な机とベッドがあった。

ハミルはその机の下に入り、息を殺す。


 早くどっか行けよバーカ、と思うと、声と足音は部屋を通り過ぎていった。


「ちくしょう、これじゃ犯罪者みたいだ。おれが何したって言うんだよ」


 ハミルは小声で呟くと机から出る。

とにかく足音が完全に聞こえなくなるまでこの部屋でやり過ごそう。


 隠れていた机の上には一冊のノートが置いてある。

それをそっと手に取ると、『イノセント・スティール』と書かれていた。


「これだ」


 彼が言っていたノートを、簡単に見つけることができた。

それだけで安心した。


 もしかしたら、これにサキュバスを倒す方法が書かれているのかもしれない。

気になって、一ページ目を開く。


『我々は直接手を下さない。我々は最初から最後まで無罪である。』


 最初から宗教のような文面が広がっている。

そこはほとんど流したが、最後に書かれていた名前は、ハミルもよく知っていた。


『栄光の翼の首領はウィンズ=イースラグーンである。』


 ウィンズ=イースラグーン。

それがウィンズの本名らしい。

今までよくラスケティア姓を名乗ってきたものだ。


 その次の文章を見たハミルは目を見開いた。


『創始者はその父ジョフェン=エルクロスである。ジョフェン=エルクロスの言うことは誰であろうと絶対である。そしてグレイン家に殺害された母リゼア=イースラグーンの雪辱は必ず晴らさなければならない。』


 ジョフェンは学園長だ。

まさか、グロウの創始者がそんなに身近にいたなんて。

そういえばグレイがグロウの本拠地を喋った時、ジョフェンが凄まじい表情をしていた気がする。


 その次のページを適当にめくる。


『我々はクロフォードとルイスのラスケティア夫妻を、麻薬夫妻と呼ぶことにしている。麻薬夫妻のジュエルバレットは我々に必要不可欠である。だが麻薬夫妻は我々の要請は無視し、スラム街ルキアビッツに逃亡。挙句の果てに育てられるはずのない子供を産んだ。そこで我々はその息子セヴィスを利用することにした。まず麻薬夫妻から引き離し、ウィンズの弟に仕立て上げた。幹部のナインが保護者的存在となり、盗賊としての影響を与えることでダイヤモンドを盗み出す泥棒に……』


 読むだけでも頭が痛くなる内容だ。

だが、これは彼を知る為の重要な資料だ。


 その他にも、『新生児誘拐事件の結果と考察』、『ナイトメア・カタルシスを扱うヴァイオレット=アルテミスについて』という記事がある。

ヴァイオレット=アルテミスとは誰だろう。

シュヴァルツと同じ苗字であることが気になるが、それよりも新生児誘拐事件やベルクに関する記事の方が気になる。

この一冊で、モルディオのことについても知ることができる。


 ハミルはノートを腹にしまうと、部屋を出る。

足音がしないことを確かめて、塔を忍び足で下っていく。


「ヴァイオレットってウィンズ様の言うことしか聞かないよな」


 また前方から声が聞こえてきた。

ハミルは再び部屋に入る。

先程と比べると散らかった部屋だったが、ベッドの上に同じノートが置いてある。

なんだよ、ここにもあるじゃねえか、とハミルはため息をつく。

こんな簡単に見つかるものだから、ハミルに任せたのだ。


 足音が近づくにつれて、心臓が暴れだす。

早く行け、と願うと、足音が扉の前で止まった。


「じゃ、俺は寝るからな」


 何で今から寝るんだよ、今は朝だろ。

グロウはまさかの夜型か。

ったく、こいつらセヴィスと同類かよ。

いやいやそんなこと考えてる場合じゃねえ、とにかくやばい。

こいつ、部屋に入ってくる。


 すぐに窓から下を見る。

かろうじて飛び降りることができる高さだ。

下に人はいない。

遠いが、前方にはうっすらと街の景色も見える。


「くそ……」


 早くしないと、男が入ってくる。

多少の痛みは覚悟で、飛び降りる。


「いててっ」


 思ったより高かった。

美術館で斬られた足が痛んだが、骨は折れなかった。

飛び降りた部屋を見上げても、男が来ることはなかった。


 やっぱり彼が気になる。

でもここは彼の言う通りに、早く逃げよう。


 ノートを落としそうになりながらも、ハミルは砂漠を走る。

何度も後ろを振り返っても、追っ手は来なかった。


***


 その後、ハミルは何とかマーキュリアに辿りついた。

街の人々の善意に救われて、すぐに水を飲むことができた。

財布に残っていたわずかなお金で交通機関を使い、美術館に着いたが、ミストはまだ眠っていた。

大きな騒ぎにならなかったので、むしろ寝ていてよかった。


 後は彼の無事を祈るだけだ。

美術館で、持ち帰ってきたノートをこっそり読むと、サキュバスが住む城の場所が書いてあった。

これは今一番彼らが必要としている情報だ。

それ以外にも、ノートを読んだハミルは思う。


 悪い親父。

おれ、あいつを逮捕したいと思わねえよ。

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