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INNOCENT STEAL -Last GAMBIT-  作者: 豹牙
七章 妨略の覇者
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50 女王の満足

「そうだっお前を倒す! あいつの仇だ!」

「あら、ダイヤモンドじゃなくてわたし目当て?」

「おれは負けない! 絶対負けない!」


 ハミルは自分を鼓舞すると、素手でサキュバスに殴りかかった。

サキュバスはのけぞって避けた。


「そっか、きみは武器がなくても戦えるタイプだったわねぇ。でも男の子だってことには変わりないわねぇ」


 サキュバスはのけぞった姿勢のまま足を振り上げて、ハミルの腕に蹴りを入れてきた。

とっさに受身を取ったが、足の爪でかすり傷を負った。

それに一瞬視線が泳いだわずかな間に、サキュバスの顔が鼻がかすれる程の距離に近づいていた。


「わたしの能力について、セヴィスは教えてくれなかったのぅ?」


 サキュバスの能力とは一体何のことだろう。

サキュバスはまるでセヴィスが生きているかのように言っている。

まさか犯人は本当にシュヴァルツで、サキュバスはセヴィスの死を知らないのか。

ますます分からなくなってきた。


 この様子だと、セヴィスはサキュバスの能力について何か知っていたらしい。

だがセヴィスが何を知っていたのか、知る術はもうない。

なぜサキュバスは顔を近づけてくるのだろう。

そう思った矢先、サキュバスが体勢を崩した。


「いったぁ、なによぉ?」


 サキュバスが扉の方を見ると同時に、その顔に膝蹴りが叩き込まれた。


「大丈夫ですか先輩!」


 蹴りと共に部屋に入ってきたのはシェイムだった。

シェイムはハミルの前を通り過ぎて、尻餅をついたサキュバスに攻撃を加える。

バトンを手に持っているが、使おうとしない。


「先輩! このサキュバスにキスされたら終わりなんです!」


 立ち上がろうとするサキュバスに蹴りを入れながら、シェイムは叫ぶように言う。


「えっ!?」

「先輩は周りに悪魔がいないか確かめてください! 私がサキュバスを抑えます!」


 すぐに辺りを見回しても、誰もいない。

視線をサキュバスに戻すと、サキュバスの右手にタロットカードが見えた。

暗くて柄はよく見えないが、どうしてサキュバスはタロットカードを持っているのだろう。


「ふふふ、月のカードねぇ。月明かりの下で死ぬの、ロマンチックじゃない?」


 サキュバスは突然笑い出した。

シェイムが思わず攻撃を止めた、その瞬間。

青白い光線が、彼女の身体を貫いた。


「シェイム!」


 ハミルは我を忘れて駆け寄り、倒れたシェイムの身体を起こす。

光線が刺さった腹には、丸い穴が開いていた。

そこからはどろどろと血が流れ出ていた。


「先輩……私、まだまだ、力不足でした」


 今にも消えてしまいそうな掠れた声で、シェイムは話す。

その目には涙が浮かんでいた。


「何言ってんだよ! お前はまだ!」

「私、セヴィス先輩に憧れて、祓魔師になったこと……決して、後悔して……ないです。先輩に会えたことだ、って……」


 油断するなと言うように、シェイムの指がサキュバスを指した。


「あら? ダイヤモンドがなくなっているわ」


 サキュバスの声で、ハミルは我に返った。

声がした方を見てみると、ガラスケースの中に、ダイヤモンドの代わりに刺さった造花があった。


「面白いじゃない。こんな騒ぎの中で盗み出すなんて、さすがフレグランスねぇ」


 サキュバスは嬉しそうに手を叩いている。

そんな馬鹿な、今フレグランスが入って盗む暇なんてどこにあった。

その疑問は、サキュバスへの憎悪ですぐに忘れた。


「てめえ、絶対許さねえ!」

「ちょっと何? わたし暑苦しいの嫌いなのよぅ」


 そう言って、サキュバスは指を鳴らした。

すると、部屋の入り口から何体もの悪魔が入ってきた。


「きみの始末は彼らに任せるわ。きみが死のうと、わたしには関係ないし、生き残れたらいいわねぇ。しかもフレグランスはまだまだわたしを楽しませてくれそうだし。満足したわぁ」


 サキュバスは壁をすり抜けて、消えていった。

それに唖然としていると、剣を持った悪魔がハミルに攻撃してきた。


「うっ!」


 ハミルの後ろから吹いた風のおかげで、攻撃を受けることは免れた。

よく見るとそれは、シェイムが力を振り絞って出した風だった。


「シェイム……」


 ハミルは涙を拭い、先頭の悪魔を殴る。

しかしシェイムに気をとられて、前しか見えていない。

後ろにいた悪魔に、手を斬られた。


「うわっ!」


 悪魔は次々沸いてくる。

これではきりがない。

ここは美術館なのに、これだけ大きな音を立てているのに、どうして他の祓魔師が来ないのだろう。

救援の祓魔師に望みを賭けて、ハミルはひたすら防戦していた。


「情けねーぞ」


 唐突に、聞きなれた声が聞こえてきた。

最初は幻聴かと思った。

だが声のした方、ハミルが入ってきた扉の反対側の扉に、人間が立っている。


「そんなんでサキュバスを倒すとか、二度と言うんじゃねーぞ」


 悪魔たちの視線が一斉に彼を見た。

その男の顔を見たハミルは、自分の目を疑った。

今ジェノマニアにいるはずのグレイが、そこにいた。


「何でお前が!」

「説明は後だ。とにかくこいつらを片付けるぞ」


 グレイはシェイムのバトンを拾い、悪魔の群れに向かって投げつけた。

彼が与えてくれた大きな隙を利用して、ハミルは二体の悪魔を倒す。

グレイはガラスケースや自身のアクセサリーなど、ありったけのものを投げて、ハミルでも倒せる程の隙を作ってくれた。

トーナメントでセヴィスに折られた武器の爪は持ってきていないらしい。


 戦いは十五分で終わりを告げた。

その場を動かないグレイは無傷だったのに対し、ハミルは多数の怪我を負った。

だが、致命傷には至らなかったのはグレイのおかげなのだろう。


「た、助かった……」


 ハミルはグレイに聞くことを忘れ、廊下を背に、疲れて座り込んだ。

しかし休む間を与えず、ハミルの口を何者かが塞いだ。

声が出せない。

誰かに首が絞められ、刃が突きつけられた。


「盗んだダイヤモンドを全て渡さないと、こいつを殺す」

 とハミルの首を絞める男が言った。

今度は何だ、悪魔ではなく人間だ。

しかも盗んだダイヤモンドということは、フレグランスは。


「待ってたぜ、グロウ」


 グレイは服の裾を捲り上げる。

腹に剣で斬りつけられたような傷跡が垣間見えた。

そしてそれを遮る勢いで、いくつものダイヤモンドが地面に落ちた。


 グロウって、こいつらが?

ダイヤモンドを集めたら、グロウが来るって、どういうことだ?


「持っていけよ。ダイヤモンドも、俺も」

「案外素直だな。とりあえずこいつには寝てもらう」


 この言葉を最後に、ハミルの意識は暗転した。

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